「能動的にアプローチしたい」 サービス誕生のきっかけと思い
ゆめみが2月に開始した新事業、「UX/UIレビューサービス」をご存じだろうか。企業の既存アプリやウェブサイトをゆめみのUX/UI専門家が定性的に分析し、そのレビュー結果を文書化して納品する本サービス。納品までの期間は、正式な発注を受けてからおよそ10営業日と、このスピード感も大きな魅力のひとつだろう。
ゆめみは創業以来、クライアントの要望をもとに提案を行う受託型のサービス提供を数多く行ってきたが、社内では“能動的に”クライアントにアプローチできるサービスを欲する声があったという。それを受けて生まれたのが、UX/UIレビューサービスだ。
本サービスではまず、対象となるアプリやウェブサイトで抱えている課題のヒアリングを行い、同社のUX/UIの専門家がレビューを進める。その過程で明らかになったUX/UIの課題を文書でまとめ、クライアントに納品。必要であれば報告会の場を設けることもできる。レビュー後の改善までをゆめみが請け負う大型プロジェクトの場合には、PdMなどのメンバーがプロジェクトに加わるケースもある。
このプロジェクトを牽引したのは、サービスデザイナーの本村章さんとインタラクションデザイナーの村上雄太郎さん。どちらも入社からわずか半年ほどで、プロジェクトマネージャーに抜擢された。
どのようなコンセプトのサービスにするのか。どんな仕組みで進めていくのか。どのようにして社内のリソースを集めるのか――。手探り状態でありながらも、ふたりはわずか半月後にはサービスの概要を固め、プロジェクトの立ち上げからおよそ2ヵ月でサービスをリリースした。
ここまでスピーディーに進めることができたのはなぜか。本村さんは「アサインを受けた直後から、実はサービスのイメージがあった」と言う。
「このようなサービスが実現すれば、具体的な改善に取り組む段階で、スムーズに仕事を進めることができる、と直感的に悟りました。そのため、抜擢されてすぐに、自分が抱いたイメージを前のめりに伝えたんです」
低コスト、短期間、高クオリティの分析を可能にした手法
UX/UIレビューサービスの対象となるアプリやウェブサイトは、BtoC、BtoB、従業員向け情報ポータルサイトなど対応可能な形態は幅広く、PCやスマホ、タブレットなど、デバイスもその種類を問わない。また、基本的には、正式な申し込みを受けてから10営業日内という短期間でのレビューレポート作成を可能にするなど、フレキシブルさとスピード感が本サービスの魅力だ。
では本サービス“ならでは”の強みは一体どこにあるのか。村上さんが挙げたのは、「レビュー時に用いられる分析手法」の採用だ。
UX/UIレビューサービスでは、ユーザビリティや、そのサービスが達成すべき目的に沿って情報が設計されているか、サービスとしてのクオリティを問うのに加え、もっとも重要視したのが、オブジェクト指向だと言う。サービスの「画面」単位ではなく、その中のもっとも小さな要素(=オブジェクト)に注目して分析を行うというものである。
「たとえば本のアプリであれば、本という要素に加えて、『メモ』、『本棚』といった要素(オブジェクト)にまでまずは分解します。そして、それらの要素同士がどのような関係性のもとにそのアプリが成り立っているのかを、レビューしていきます。
その関係性が見えると、ソフトウェアがどのような構造になっているのか、そして改善すべき点はどこにあるのかを把握しやすくなる。また最小の要素に着目して分析を行うことによって、デザインの知識がない経営者やビジネスサイドの人たちにも、より理解しやすいレビューが行えると考えています」(村上さん)
UX/UIレビューサービスのゴールはコンサルティングではなく「レビュー結果の文書化」であるため、レポートの納品をもってサービスは完了となる。あえてUX/UIレビューの部分のみをサービスとして切り出したのには、どのような意図があるのだろう。
「UX/UIレビューサービスで浮き彫りになった課題は、YUMEMI Service Design Sprintというサービスで引き継ぎ、デザインプロジェクトの進めかたや組織の課題にまで踏み込んで、クライアントとともに改善していくことも可能です。クライアントが課題を自社で改善することが可能であれば、UX/UIレビューサービスのみを利用していただくのも有効な活用方法になるはず。短期間で課題を整理できるメリットをまずは感じていただけたらと思っています」(本村さん)
ただ、たとえ短期間かつ低コストで分析を行うことができても、担当するゆめみのメンバーによってクオリティにばらつきが出ては元も子もない。誰が行っても同じ分析精度を担保するために、プロジェクトマネージャーのふたりは社内で勉強会を開催。オブジェクト指向分析の手法や考えかたを、メンバーに継続的にインプットしている。
「レビューを担当するメンバーによって分析の結果が異なっては、一貫性がなくなってしまいますよね。どこに着目し、どんな視点で分析をするべきか。それを明確にしていく作業は、サービスの検討段階でもとてもこだわりましたし、今後も継続的にアップデートすることで、社内全体に浸透させていきたいと考えています」(本村さん)
想定外の活用法 異なる職種のメンバーが目線をそろえるツールにも
取材時には、UX/UIレビューサービスのリリースからおよそ5ヵ月が経過していた。ふたりに周囲からの反響について尋ねると、その数は予想以上に多く「問い合わせから商談につながるケースも多い」ようだ。
実際に本サービスを利用した企業には、ふたりが当初想定していなかったユニークな活用法もあったという。あるクライアントは、新たに加わるメンバーと自社の課題を認識し足並みをそろえることを目的に、人事異動のある4月にUX/UIレビューサービスを活用したそうだ。
「UX/UIレビューサービスを行うと、レビューを行ったアプリやウェブサイトのみならず事業全体の理解度も高まるため、理に適った利用方法だと感じました。
最近では別のプロジェクトでも、社内のメンバーが『まずはUX/UIレビューサービスからスタートさせてください』とクライアントに提案することもあります。最初にこのサービスを利用していただくと、アプリやウェブサービスの課題をお互いに共有することができるため、同じ視点で対話ができるようになるんです」(本村さん)
「私たちはシンプルに『課題解決のためのサービス』という捉えかたをしていましたが、クライアントから新たな発見をいただくことが多くありがたいです。いただいたアイディアは、今後積極的にサービスに反映させていきたいと思っています」(村上さん)
アプリやウェブサイトを改善するべきだという漠然とした思いはあるものの、具体的な根拠を提示できない。どのように経営陣やビジネスサイドに説明をしたらいいかわからない。そんな悩みを抱えているデザイナーや開発者にとっては、このサービスが渡りに船となるかもしれない。
順調なスタートを切ったUX/UIレビューサービスだが、今後はさらなる機能拡充を目指している。今後のサービスについて、ふたりはどのようなイメージを持っているのだろうか。
「今は定性的な分析がメインではありますが、今後はクライアントの社内にあるデータもあわせて活用することで、レビューの分析結果にさらに付加価値をつけることができるようにしていきたいですね」(村上さん)
「現在は情報構造やユーザビリティといったデザインの観点からレビューをしていますが、今後は社内のほかのメンバーと協力し、システム面のレビューも並行して行えるようにできればと考えています。また、ユーザーインタビューやユーザビリティテストなどをオプションメニューに加えることで、既存アプリやウェブサービスにおけるユーザー体験全体の可視化をクライアントと一緒に作ることにも挑戦していきたい。そうすれば、よりユーザーに寄り添った仮説だてができるようになるはずです」(本村さん)
利用のハードルは下げながらも、分析のクオリティを十分に高めたゆめみのUX/UIレビューサービス。このサービスはいずれ、アプリやウェブサイトをもつ企業が分析を行うときのデファクトスタンダードとなる可能性も秘めているのかもしれない。さらなるアップデートに期待が高まる。