デザインは「社会」と「個人」の双方から考えよ――貝印のCMO鈴木さんが語るブランド論

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2025/01/31 08:00

ジョジョのコラボから日傘まで 立脚点にあるのは「やさしさ」

――幅広く担当していらっしゃるなかでも、とくに注力している領域はありますか?

個人的には、新しい市場の開拓とデザインのふたつですね。新市場では、2022年に貝印として13年ぶりの新ブランドとなる「AUGER」を立ち上げました。

デザイン面で言うと、貝印ではあらゆる年齢層の方に商品を提供しており、その商品点数は1万点ほどにのぼるのですが、価格も高いものから日常品までさまざまです。一方で商品の大半は「刃物」であるため、まずは安全であることを重視してデザインを考えています。

その一環としてリリースしたのが「AUGER」です。これまで以上にデザインの一貫性や顧客とのコミュニケーション、いわば「デザインランゲージ」にこだわりました。くわえて、単に外観のデザインにとどまらず、機能性も内包したものとなるよう工夫しています。AUGERでもっとも売れている毛抜きでいえば、毛をつかんだときに握りすぎると、逆に抜けにくくなってしまう構造が一般的なんです。そこでAUGERの毛抜きでは握り過ぎない構造にしたり、すきバサミであれば右利きでも左利きでも使えるようにしたりと、外観と機能性の双方に気を配った開発をしています。

AUGERのプロダクトたちは、Z世代を含めた若い方々の洗面所を取材して作り込みました。すると「洗面所って派手な色のアイテムが多いのか」「朝の身支度って、意外と時間がかかるんだな」といった気付きが生まれたため、2024年11月に発売した、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』とのコラボ商品でも、特徴的な色をあしらって目立つ部分を持たせながらも、AUGERらしさも取り入れる形で、最終的なアウトプットが完成しました。

AUGERを立ち上げた当初は爪切りとカミソリ、毛抜きといった商品展開でしたが、この3年でかなりラインアップを拡充できました。直近では男性向けの日傘のような、ブランドを拡張するプロダクト開発にも取り組んでいます。貝印は刃物の商品がメインですが、傘を作ってはいけないというルールはもちろんありません。既存の枠にとらわれず、ブランドのコンセプトを基軸に今後もいろいろな取り組みをしていきたいですね。

――新たな試作をどんどんと進められている印象ですが、その立脚点となる「貝印のミッション」へのお考えをお聞かせください。

貝印では、創業115周年を迎えた2023年に「切れ味とやさしさ」というコーポレートミッションを制定しました。切断性能の追求はもちろんですが、「安全性」や「暮らしに便利」、「刃物を扱うからこそ、優しくなければならない」などの視点を常に持とうという思いが背景にあります。

貝印は世界各国でビジネスを展開しており、実は売上は海外のほうが多いんです。国によっては、刃物への考えかたはまったく異なるものですが、制定したミッションや思いから生まれたプロダクトであれば、どんな社会にも寄り添えるのではないかと考えています。