2024年に読んだなかでいちばんおもしろかった『め生える』、鳥肌ものな短編が収録された『変数人間』

  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket

50年前の小説なのにあまりに現代を予知している『変数人間』の「CM地獄」

 続いて2冊目は、SF短編小説集『変数人間』(早川書房/フィリップ・K・ディック 著)。

『変数人間』
変数人間

 フィリップ・K・ディックはアメリカのSF作家。1952年にデビューし、1982年に亡くなるまで、後のクリエイターに影響を与えた伝説的な小説をいくつも発表しています。もっとも有名なのは映画『ブレードランナー』の原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』でしょうか。ほかにもさまざまな長編や短編が映像化されていますが、そんななかでもなぜ『変数人間』を取りあげたのか。それは、この本に収録されている「CM地獄」という短編に鳥肌が立ったからです。1954年に発表されたこの話は、あまりにも50年後の現代を捉えているんです。

 通勤宇宙船から帰ろうとすると、勝手に目や耳に飛び込んでくる広告の嵐。それらは機械音声やロボットの形でやってきて、この広告に耐えかね、家族がいながらも主人公の男が「広告のない場所」に逃げようとするが……といったお話です。

 我々が普段利用する交通機関はもちろん、スマホでネットに繋ごうものなら広告の嵐、良いアプリを無料で使おうとしても、気になるネットニュースの記事も読もうとしても、SNSや動画を眺めているときでも、どんなときにも現れる広告。しかも最近、広告の動画はAIを使った機械音声の動画も増えてきていますよね。ドンピシャすぎます。宇宙船や機械の身体はまだできていませんが、ここまで我々の生活に「広告が張り付く未来」を50年前に想像していたディックは、まさに先の事象まで予測することに非常に長けていた作家だと言えます。

 この短編以外にも、映画化された『ペイチェック』や、8ページで終わる『猫と宇宙船』なども収録されていますので、海外SFに慣れ親しんでない人の入門編としてもオススメです。

 皆さんもこの2冊を読めば、現状の先を予想できるエスパーみたいな力がつくかもしれませんよ。