大胆かつこまやかに“歴史を捏造”する2冊――『タローマンなんだこれは入門』『遺失物統括機構』

大胆かつこまやかに“歴史を捏造”する2冊――『タローマンなんだこれは入門』『遺失物統括機構』
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 書店員芸人として活躍するカモシダせぶんさんが、クリエイト脳を刺激された本を毎回2冊お届けする本連載。第5回は、『タローマンなんだこれは入門』『遺失物統括機構』を紹介します。

 どうも、最近食べ過ぎて柏餅みたいなお腹になっている書店員芸人、カモシダせぶん(@kamo_books)です。

 「大胆かつこまやかに“歴史”を捏造する」。これが今回のテーマです。

 5月に入り、新社会人の方や、新しい環境に入りたての方のなかには仕事や人間関係に疲弊し鬱々とした日々を過ごしている人もいるかもしれません。さまざまなことに気を使って頭が凝り固まってしまっている――。今回紹介するのは、そんな方にとくにオススメの2冊です。パッとテーマだけを見ると小難しそうな印象を受けがちですが、両方ともシンプルに楽しめる内容ではないでしょうか。

岡本太郎の代表作『太陽の塔』を模したヒーロー「タローマン」の解説本?

 まずは『タローマンなんだこれは入門』(小学館/藤井 亮, 豪勢スタジオ, NHK「TAROMAN」制作班 著)を紹介します。

『タローマンなんだこれは入門』(小学館/藤井 亮, 豪勢スタジオ, NHK「TAROMAN」制作班 著)
『タローマンなんだこれは入門』(小学館/藤井 亮, 豪勢スタジオ, NHK「TAROMAN」制作班 著)

 これは「特撮ヒーロー」の解説本です。ヒーローは幼少期に卒業したという大人の方が多いかもしれませんが、ちょっと待ってください。タローマンの説明だけでも読んでもらえたらと思います。

 『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』は、1970年代に放送されていた特撮ヒーロー番組。稀代の芸術家、岡本太郎の作品に似ている巨大生物「奇獣」を相手に、これまた岡本太郎の代表作『太陽の塔』を模したヒーロー「タローマン」がでたらめに戦ったり戦わなかったりします。とにかくナンセンスなこのヒーローは、昔子供たちを中心にブームを起こし、2022年にNHK深夜帯で再放送されました。

 と書きましたが、実は70年代にこんなヒーロー番組はやってないです!!

 再放送のていで、あたかも以前放送されていたかのように、わざわざ古い画質や撮りかた、演技で作られた映像を流した新番組、それがタローマンです。怖いですよね。ただこの放送を何話か観てみるとあら不思議。「こんな番組やっていたかも……」と思えるくらいハイクオリティなんです。エンディングでサカナクションの山口一郎さんが登場し、タローマンの思い出を語るコーナーなどもあるこだわりっぷり。

 2022年の初放送後、この奇怪な戦略が大ウケし、設定上ではなく本当にしっかり人気者になったタローマン。そこで昔、小学館がウルトラマンシリーズでも刊行されていた『入門百科』や『なぜなに学習図鑑』のテイストをタローマンでもやってみようと、2023年に出版されたのがこの本です。もちろん最初にリリースされたのは1972年という設定。帯には「超復刻版」との記載があります。この時点から「やかましいわ」と突っ込みたくなる仕様ですよね。映像で歴史を捏造するのもそうですが、出版物で「あたかも昔この本が本当にあったかと思わせる時代性の再現」はとんでもない技術。それが「とても大きな笑い」と「意味不明な感動」を呼びます。

 「岡本太郎の作品をモチーフにしたヒーロー」というコンセプトだけで作ってしまいたくなるところを、「過去に放送されていた」という歴史を緻密に練りあげることで、一気に奥行きのある作品へと進化したわけです。僕は地元が川崎で岡本太郎美術館も実家のすぐ近くにあることもあり、岡本太郎は以前から大好きなアーティストのひとりです。この連載のタイトルも岡本太郎の名言「なんだこれは!」に由来するものです。この作品は岡本太郎へのリスペクトが見えるところも最高です。

 ちなみに今年8月22日にタローマンの映画が全国公開されます。『タローマン 万博大爆発』。もちろん大爆発するのは1970年の大阪万博です。

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