企業や行政と伴走し活動を支えるデザイン会社のコンセンは、消費者をだますウェブサイトやアプリのユーザーインターフェースである「ダークパターン」について、使用防止の取り組みがある企業に所属するビジネスパーソン4名にインタビュー調査を実施し、ダークパターン問題に向き合う上での課題や、企業による無自覚な使用を防ぐための論点を考察し、「ダークパターンレポート2024」として公開した。
インタビュー調査の実施背景
企業に潜む“ダークパターンの無自覚な使用”の可能性。どうしたら防げるのか?
ダークパターンとは「企業にとって都合の良い行動を取らせるために、消費者をだますウェブサイトやアプリなどにおけるユーザーインターフェース(=利用者との接点)」のこと。
コンセントではダークパターンの存在がまだあまり知られていなかった2023年8月に、その問題を顕在化し社会全体で取り組んでいくため、ECサイトやアプリでの購入経験者799人を対象に調査を行い、見たりひっかかったりした経験やその際に取った行動、認知・理解度などの実態をとりまとめた「ダークパターンレポート2023」を同年11月に公表した。このレポートは企業や行政、大学などの教育機関に勤める多くのビジネスパーソンの方にダウンロードいただきましたが、主な入手理由のひとつとして「自社・自組織でダークパターンを使用していないか確認したいため」が見られた。
2024年に入り国内でもダークパターンの認知は広がったが、「ダークパターンは、悪意のある事業者だけが用いる詐欺まがいの手法」と認識している事業者による悪質性のあるケースが存在するのも事実。ただ一方で、経済協力開発機構(OECD)では、ダークパターンが使用される目的を「消費者にとって望ましい範囲を超えた、金銭の支出や個人情報の開示、または時間の消費につなげること」としており、「ユーザーインターフェースの設計者側に悪意がなかったとしても、根本的なビジネスモデルと密接なつながりがある」と指摘している。
この使用目的にある「金銭や時間を消費させたり個人情報を提供させたりすること」は、ビジネスで求められやすい目標でもある。つまり、ユーザーインターフェースの検討に関わるディレクターやマーケター、デザイナー、さらにビジネスの意思決定を担うマネジメント層や経営層側は誰しも、なんらかの成果を生み出そうとサービスをつくっていく構造の中にいる以上は、結果的に悪意なくダークパターンを使用してしまう可能性があると言える。
コンセントでは、企業が無自覚な使用を防止し、消費者とより倫理的な関係性構築を目指せるようになることを目的に、ダークパターンの使用防止の取り組みがある企業に勤めるビジネスパーソン4名にインタビュー調査を実施した。
「ダークパターンレポート2024」ではその取り組みの具体内容や効果を紹介するとともに、法的リスクがありながらも法制度だけでは防ぎきれない「法令上の線引きの難しさ」と「法令外における企業の倫理観」という、ダークパターンの問題に向き合う上での課題について考察しながら、無自覚な使用を防ぐための論点を整理している。
調査概要
[調査対象者の条件]以下の4つの条件すべてを満たすこと
- 会員登録や決済、個人情報登録を伴うウェブサイトやアプリを運営する企業に勤めている
- 所属企業にダークパターンの使用防止の取り組みがある
- 事業全体の統括や製品・サービスの企画開発、管理を担っている
- ユーザーインターフェースの企画や設計に関与している
- 調査手法:ビデオ通話によるオンラインインタビュー
- インタビュー手法:UXデザイナーによる半構造化インタビュー
- 調査時期:2024年2月
- 調査対象者の概要
調査レポートのハイライト
使用防止の取り組みとその効果
- ダークパターンの使用を防止するための企業の取り組みには、「研修の実施」「マニュアルやチェックリスト、チェック体制の整備」「法律の専門家など、社内外を含めた報告・相談の仕組みづくり」が共通して見られた。
- 「メールマガジン受信のデフォルト設定を見送る」など、取り組みによるダークパターン使用防止の効果が一部の企業で見られた。
ダークパターンを判断する難しさ
- ダークパターンには法的リスクがあり、消費者庁などによる取り締まりが近年強化されている一方、「法令上の線引きの難しさ」と「企業の倫理観が問われる」側面があり、法制度だけでは防止しきれない。
- 4社においても、法令観点からの線引きの難しさがあり、企業の姿勢も問われる中で、「何を“虚偽”と考えるか?」「たとえ事実であっても“焦らせる”ことをどう捉えるか?」などの判断に揺らぎが見られ、“ダークパターンを判断する難しさ”に直面している。
使用防止のために必要なこと
- 「ダークパターンは一律な判断をすることは難しい」ことを前提に、法令・ユーザーからの声・望ましい企業姿勢といったあらゆる観点からのチェックと議論が、ダークパターンの無自覚な使用を防止するためには必要となる。
- 「ユーザーにとって不利益ではないか?」と声を上げられる倫理観と、さまざまな役割の人がオープンに意見を交わせるカルチャーの醸成が、企業には求められる。
- 企業がダークパターン防止に取り組みやすくなるために、「接触する可能性のある法令が、業界ごとにわかりやすくまとめられること」「倫理観点から対応を検討すべき点が、行政などから発信されること」「具体的な取り組みが、社会へ共有されていくこと」という、業界・行政・社会の3視点での環境づくりが必要である。
「ダークパターンレポート2024」の詳細
目次
1.はじめに
なぜ「ダークパターンの無自覚な使用」をする可能性が企業にあるのか。無自覚な使用によるリスクは何か。本インタビュー調査に至った背景、調査対象などの概要を紹介する。
2.ダークパターン使用防止の取り組み事例
ダークパターンの使用を防止するために、具体的にどのような取り組みがあるのか。4人のビジネスパーソンが所属する企業における取り組みの内容とその効果を見ていく。
3.ダークパターンを判断する難しさ
ダークパターンの規制につながる法制度は存在しており近年取り締まりも強化されている。しかし、法制度が充実してもダークパターンの使用は防ぎきれない。そこにある「判断の難しさ」について、4社における判断の実態を紹介しながら考察していく。
4.総括
「ダークパターンの無自覚な使用」を防ぐための具体的な取り組みと、そうした企業の取り組みを推進していくために必要な業界・行政・社会のありかたを考え、調査内容を総括する。