ブランドのUXに必要なものはなにか――フラットな体験を提供するための勘所をフラクタ・河野さんに聞く

ブランドのUXに必要なものはなにか――フラットな体験を提供するための勘所をフラクタ・河野さんに聞く
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2021/04/02 08:00

 クリエイティブに関わるシーンのみならず、ビジネスをはじめとしたあらゆる場面でUXという言葉を耳にするようになった。それは変化の真っ只中ともいえるコロナ禍でも変わることはない。今回焦点を当てるのは、ブランドやECのUX。リアルな場所の価値やありかたが見つめ直されている今、ブランドとしてどのように顧客体験を捉えればいいのか。そのためにクリエイターが知っておくべき勘所とは――。ブランディングエージェンシー・フラクタの代表取締役である河野貴伸さんに話を聞いた。

ECは運用まで考えたデザインを 必要なのは一過性ではないサイト制作

 河野さんは2020年2月に開催されたクリエイター向けイベント「Creators MIX 2020」で「テクノロジーとクリエイティブがコマース体験を変革する」と題し講演を行い、そのなかでEC業界をとりまく5つの課題とクリエイティブの必要性について解説(参考記事)。「EC業界において、テクノロジーとクリエイティブのリソースがまったく足りていない」ことに言及し、そのためにはクリエイターやエンジニアの力が不可欠であると語った。

 ではここで、ECに関わるクリエイターの業務を具体的に想像してみよう。いちばんに思い浮かんだのは、ECサイトのデザインや開発という人も多いのではないだろうか。

 フラクタではさまざまなブランドの支援を行うなかでECサイトの制作を担うこともあるが、ECをはじめとしたウェブサイトのデザイン制作に河野さんはある問題点を感じている。「時間軸が短すぎる」という点だ。

 たとえば、アパレルブランドでクリエイティブディレクターが洋服を作る場合、ブランドの世界観全体を数シーズンかけて表現し、最終的にはビジネス的な成果からその良しあしを判断することが多い。だがECをはじめとしたウェブサイトのデザインはそうではない。サイトのリニューアルをするときに一時的に集まり、納品が完了したら解散してしまう――。この作って終わり、という進めかたに違和感を覚えるというのである。

「いままでのウェブサイトのデザインは、建築物に近い概念で作られることが多かったと思います。ただ、建築物と圧倒的に違うのは、Eコマースはあくまで店舗全体であり、あとからいくらでも改良を加えられるという点です。納品したあとでも修正できるのであれば、たとえば『この4月からの1年間は、サイトのデザインやLP、バナーなどクリエイティブをすべて担う』という形で関わったほうが、どのように良くしていくべきかをクリエイターも長いスパンで考えることができるはずです。

僕も実際の案件に携わる中で感じるのは、ECサイトの運用まで考えられていない、リリース直後の刹那な瞬間のみが考慮されたデザインは、後々の運用で苦労することが多いということ。たとえば、1ページに30枚ほど画像を使ったかっこいいデザインのサイトがあったとします。サイトを制作したときのデザインはとても素敵でも、納品後に写真が多くサイトが重くなるから画像を廃止し、テキストだけのページになってしまったら、それほどもったいないことはないですよね。

この例で運用まで考えたデザインをするならば、遅延ローディングをさせたり、更新時の画像の1つひとつをルールに沿って軽量化するといったワークフローを組むはずです。そのあとECサイトの運営担当者にアップロード方法をレクチャーしたり、KPIの影響度合いによっては画像の適正な数を考えるなど、細かな調整も必要でしょう。

そうやってブランド側とクリエイターが一緒になってECサイトにおけるUXの正解を模索するためには、やはりある程度の期間が必要だと思います。そのほうがクリエイターの能力も発揮されやすいですし、ECサイト側との相性も良くなるのではないでしょうか」

いかに楽をしてもらうか 今後コマースに求められるフラットな体験

 この1年、コロナ禍によってビジネスや生活は大きく様変わりした。それはもちろん、コマースも例外ではない。実店舗が打撃を受けたブランドも少なくないだろう。

 完全自動化の無人店舗や在庫を持たない店舗の登場など新たな動きも増え始めたいま、ブランドはリアルとオンラインをどう捉えていけばいいのか。これについて河野さんは、そもそもその前提が見直されているのではないかと指摘する。「オンラインとオフラインが明確に区別されるのではなく、『コマース』という言葉に集約されていく」と言うのだ。

「たとえば、出かけた先でユニクロのお店が近くにあればちょっと寄ろうかなと思いますし、雨が降っていて外に出たくなかったらネットで買う。これってとても自然なことですし、お客さまからしたら、オンラインかリアルかはどっちでも良いんですよね。ユニクロはそれがとてもうまく体現できていると思います。多くのブランドが目指すべきところでしょう。

今後はこのように、『お客さまにとっての体験をフラットな状態にするため』に店舗やECが存在する、といった考えかたにシフトしていくことが必要だと感じています」

株式会社フラクタ 代表取締役 河野貴伸さん
株式会社フラクタ 代表取締役 河野貴伸さん

 「ユーザーの体験がフラットである状態」とは、「オンラインとオフラインを境目なく行き来できること」と言い換えられるだろう。ただ、リアルな場所に足を運びづらい人もいれば、オンラインのほうが手軽だと感じる人もいる。コロナ禍が引き起こした現象のなかで河野さんが注目したのはまさにそれだ。「ユーザーの行動パターンがより多様化したことで、一定の塊でユーザーを捉えることが難しくなった」と言う。

「お店に行くことができる人はお店で購入しますし、自社のECサイトから購入する人もいれば、Amazonで買う人もいる。ユーザーの行動の選択肢が増えているので、より多くのパターンをシュミレーションすることが必要になったと思います。

お店に行きたいと思った人には、近くの店舗がすぐ見つかるように。ECサイトで買いたい人には、その動線をわかりやすく――というように、いかに滞りなく、かつ手間をかけずにユーザーが欲しい情報までたどり着けるようにするか。つまり、どれだけ楽をしてもらうか、ということです。これを単なる情報のUI設計としてではなく、体験として考えなければなりません。

『こう思ったときにはこういう風に調べて、こんな行動をとる』といったユーザーの行動パターンを細かく分類し、そのためのUIやUXをしっかり定義づけること。そのためには顧客を理解し、顧客になりきるための努力をし続けるしかないと思っています」

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