マーケターだけではない、クリエイターにも求められる顧客理解――実体験から得た気づきとは

マーケターだけではない、クリエイターにも求められる顧客理解――実体験から得た気づきとは
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2022/01/17 07:30

 クリエイティブテックカンパニー・株式会社リチカの最高マーケティング責任者 CMOを務める田岡凌さんが、さまざまな事業会社のデジタルマーケティングを支援する中で得た知見を生かし、デジタル広告におけるクリエイティブの重要性について、マーケティング目線でお伝えしていきます。最終回となる第4回は「顧客理解」がテーマです。

 これまでの連載回では、デジタル広告を取り巻く環境変化や、そうした中でクリエイターが意識すべきクリエイティブの作りかたなどについてご紹介してきました。最終回となる今回は、クリエイターにも求められる「顧客理解」をテーマにお伝えできればと思います。

その顧客は本当に存在しますか?

 第1回から第3回では、デジタルマーケティングにおけるクリエイティブの重要性について説明してきました。同時にこれからは「クリエイティブターゲティング」といった、いっそうそれぞれの顧客にパーソナライズしたクリエイティブ開発が求められる点にも触れました。

 こうした中で、マーケターやクリエイターにより求められていくのが「顧客理解」ではないでしょうか。パーソナライズしたクリエイティブをつくるためには、グラフィックな要素のみならずライフスタイル、価値観、シチュエーション、困りごとなど顧客1人ひとりのペルソナを具体的に理解することが大切になってきます。マーケティングを行っていくうえで当たり前のことかもしれませんが、できていないケースも意外と多いように感じています。

 とくに気をつけたいのは、顧客を理解できていると思い込んでしまうケースです。ターゲットとなる顧客は設定していても具体的なイメージができていなかったり、机上の顧客像を思い描いていることも珍しくはないでしょう。また、それぞれのステークホルダーが、異なる顧客像を思い描いてしまっていることも少なくありません。

 その顧客は、具体的にはたとえば誰のことを指しているのか。その顧客は実際にどういったシチュエーションに置かれ、どんな課題を抱えているのか――。そうした具体的な議論をすることで、こういったずれを防ぐことができると思っています。

 また顧客を理解するために至極当然のことではありますが、顧客と直接的な接点を持つことも重要です。単にインタビューやリサーチをはじめ、もしくはそうして得られたデータを見るだけでなく、顧客の生の声に触れることも大切にしましょう。

顧客の課題は日常に溶け込んでいる

 私が「顧客理解」について気づきを得た経験があります。

 私は新卒で外資系食品企業のネスレに入社しました。そこではカプセル式コーヒーシステム「ネスカフェドルチェグスト」や「ミロ」などの商品ブランド担当として、商品開発やマーケティングに携わっていました。

 ネスレで、ある新しい商品群を開発するプロジェクトを立ち上げたときのことです。当時、開発に向けて顧客理解を深めるために、外部の調査会社を使ったリサーチやオフィスでのグループインタビューなど、さまざまなリサーチを行っていました。お客さまが何を考え、どのような課題を抱えているのかを徹底的に考える機会があったのですが、どれも一定の気づきを得られるものでした。

 しかし、私が本質的に顧客を理解できたと感じたのは家庭訪問インタビューです。実際のユーザーさまのお家に訪問させていただくと、今までのリサーチでは見えてこなかったあらゆるファクトが見えてきました。

 どこに住んでいるのか、どんな家に住んでいるのか、どんな生活スタイルか。どんなお人柄か、何が好きなのか、どんな価値観を大切にしているのか。そして商品をいつどのように使っていただき、何に困っているのか――。

 マーケティング調査ではわからなかった圧倒的な情報量を受け取り、そのときから顧客の輪郭がはっきりと見えるようになったのです。ご家庭を訪問すればするほど、リサーチやグループインタビューではほとんど気づくことのできなかった大切な気づきを得られました。その時の気づきは、新商品の開発にも大いに活きましたし、新商品は今やメインストリームとなっています。

 いちばん大きな発見は「リサーチやお客さま相談室に集められる声だけがお客さまの声でない」ということ。むしろ、お客さまが抱える課題は日常の中に溶け込んでいることが圧倒的に多く、しかしそのほとんどの声はあげられることがない。それが当時の自分自身には衝撃でした。

 もちろんグループインタビューや大規模な定量リサーチも、マーケティングにおいては重要なアクションです。しかしそれだけにとらわれていては、顧客の本当の心の声に向き合い、理解を深めることはできないのではないかと思っています。

 私はこの経験をもとに1人ひとりの顧客と向き合って「n=1視点から考えること」や、自ら足を運んで「お客様に会いに行くこと」の大切さを実感したのです。

クリエイターもマーケターもすべては顧客理解から

 このような顧客理解は、マーケターだけがやるべきものでしょうか。私はそうではないと思っています。

 顧客とコミュニケーションを行う広告クリエイティブに携わる方であれば、クリエイターやデザイナーであっても、当然顧客理解を深める必要はあります。

 どんな広告クリエイティブも、つくって終わりではありません。必ず成果を出すことが求められます。成果をあげる広告クリエイティブはいつも、それぞれの顧客に「これこそまさに自分が求めているものだ」という情報や気づきを与えるものです。お客さまの抱えている悩みや本当の気持ちに寄り添うこと、理解することができれば、クリエイティブでもお客さまに寄り添える可能性は高まります。ぜひ「お客さまに会いに行くこと」を大切にしてみてください。

 いかがでしたでしょうか。最終回となる今回は、クリエイターもふまえておきたい「顧客理解」についてご紹介しました。

 デジタルマーケティングでは、これからますますクリエイティブが大切になってきます。だからこそまずは顧客に寄り添い、理解し、クリエイティブに活かしていくことが重要になってきます。今回の連載が、皆さまの日々の業務に少しでもお役に立てていたら、大変嬉しく思います。