AIスタートアップにアマゾン史上最大の40億ドルを出資 同社がAnthropicにかけるワケ

AIスタートアップにアマゾン史上最大の40億ドルを出資 同社がAnthropicにかけるワケ
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2024/05/01 08:00

 アマゾンは、AIスタートアップ「Anthropic」へ、同社史上最大の投資となる40億ドルの出資を完了したと発表しました。最近Anthropicは、強力な大規模言語モデル「Claude 3」ファミリーをリリースし、ライバルのOpenAIを上回る性能を示しています。アマゾンにとってAnthropicへの投資は、AWSにおける生成AIプラットフォーム「Amazon Bedrock」の魅力をさらに高めるものになり、競争上の優位性を強化することにつながります。BedrockではAnthropicに加えCohereなどのクローズドモデルや、MistralやMeta の「Llama 2」などのオープンソースモデルが利用できるようになっているだけでなく、これらのモデルを活用し、ユーザーは独自のアプリを開発することも可能に。本記事では、アマゾンのAnthropic投資の概要に触れつつ、これらの投資がBedrockプラットフォームをどのように進化させているのか、差別化戦略の詳細を探ります。

アマゾンがAnthropicへ40億ドルを投資

 2024年3月28日、アマゾンはOpenAIの主力競合となるAIスタートアップのAnthropicへ40億ドルの投資を行ったことを発表した。これは同社史上最大の投資になるとして大きな関心を集めている。アマゾンは2023年9月に12億5,000万ドルの初期投資を行い、その後2024年3月に27億5000万ドルを追加出資、Anthropicへの総投資額を40億ドルとした。

 投資完了後もアマゾンはAnthropicの少数株主の地位を維持しつつ、同社の取締役会には参加しない方針だという。今回の投資は、Anthropicの直近の評価額である184億ドルをベースに実施されたと報じられている。過去1年間でAnthropicは5回にわたる資金調達を行っており、その額は計73億ドルにのぼる。

 生成AI市場ではここしばらく、OpenAIのGPT-4がもっとも優れたモデルとして君臨してきたが、最近になりGPT-4を凌ぐモデルが続々登場。その口火を切ったのがAnthropicであり、そのことがアマゾンの追加投資を後押ししたものと推測される。

 GPT-4を超えたとされるのは、Anthropicが最近リリースした「Claude 3」ファミリーの最上位モデル「Claude3 Opus」だ。このファミリーは、もっとも軽い「Haiku」、ミッドレンジの 「Sonnet」の計3つで構成されている。さまざまな指標でGPT-4を超えたというOpusが注目されているが、同時に低価格かつ高速で、OpenAIのGPT-3.5を凌駕すると言われているHaikuも人気を博している。

アマゾンがAnthropicに注目する理由

 ここからは、アマゾンがAnthropicに注目する理由を詳しく探ってみよう。

 アマゾンがAnthropicに多額の投資を行うのは、AWS上の生成AIプラットフォーム「Amazon Bedrock」の強化にある。BedrockではAnthropicやCohereなどのプロプライエタリモデルに加え、MistralやMetaのLlama 2などのオープンソースモデルを選択でき、顧客はこれらのモデルを活用して独自の生成AIアプリケーションを構築できる。

 アマゾンは、Anthropicへ巨額の投資を行うことで、Anthropicの大規模言語モデルへの優先的なアクセスを獲得。そしてそれをAWS上で展開し、Azureをもつマイクロソフトといった競合との差別化要素にしたい目論見がある。

 実際、アマゾンとAnthropicは締結した戦略的協業契約のもと、AnthropicはAWSを主要なクラウドプロバイダーとして採用。またAWSのTrainiumやInferentiaチップを用いて今後のモデル開発を行い、Bedrockで優先的にAIモデルを提供していく方針だ。

 すでにデルタ航空、ファイザー、シーメンスなど、多様な業界の大手企業がBedrockとClaudeを活用してアプリケーション開発を進めている。とくにClaude 3ファミリーは、推論や数学、コーディングの分野でGPT-4を上回る性能を示すなど、顧客企業にとっての魅力は大きい。

 アマゾンによるAnthropicへの投資は、クラウドサービス市場における競合他社の動向と無関係ではないのだ。

 Azureを展開するマイクロソフトは、OpenAIへの投資額を130億ドルにまで増額しており、OpenAIの企業価値は290億ドルを超えたとされている。また、グーグルもAnthropicに20億ドルを投じる計画。まず5億ドルを現金で出資し、残りの15億ドルは今後時間をかけて投資していく予定だ。(参考記事:CNBC「Amazon spends $2.75 billion on AI startup Anthropic in its largest venture investment yet」)

 グーグルの狙いもアマゾンと同様で、自社クラウドサービス「Google Cloud」の強化にあると推察できる。グーグルは自社の生成AI「Gemini」の開発も推進しているため、アマゾンやマイクロソフトに比べ、AIスタートアップへの出資額は若干抑えめとなっている。

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