V字回復のインバウンド 今とくに注目すべき国とは
Meltwaterは世界最大規模のメディアおよびSNSデータを扱うグローバル企業で、世界120ヵ国に3万5,000以上の顧客をもつ。2001年にノルウェーで設立した後アメリカに本社を移し、2008年に日本法人を設立。毎日約10億件のデータを収集・処理しており、既存メディアからSNSまで幅広く集めたデータを分析し、ビジネスに役立つインサイトとして提供している。
セッション冒頭で樋口氏は、インバウンドの回復状況をデータとともに振り返った。2023年のインバウンドはコロナからV字回復を遂げ、訪日外国人数は2,500万人以上と、コロナ禍前の8割まで回復。消費額は5兆円を超え、過去最高を記録している。Meltwater社のソーシャルリスニングツールを使用した調査によると、韓国のSNSで「日本」「観光」「旅行」と韓国語で発話された回数は、2022年では1日平均62回だったが、2023年には1日平均682回と10倍になった。
国・地域別の訪日外国人数を見ると、2023年の1位は韓国、2位台湾、3位中国、4位香港、5位タイ。「とくに注目すべきは『タイ』です」と樋口氏は話す。2023年9月から急増しており、今注目すべき訪日国のひとつとなっている。
SNSは購入に影響を与えているのか 各SNSにおけるユーザー数国別調査を紹介
続いて、Meltwater社が毎年行っている、世界のインターネットやSNSユーザーに関する大規模調査リポートをもとに、海外でのSNSの重要性と影響力についての解説が行われた。
調査によると、世界でもっとも利用されているソーシャルメディアは1位Facebook、2位YouTube、3位WhatsApp、4位Instagram、5位TikTokとなる。各SNSのユーザー数の国別ランキングを見ると、Facebookはインドネシア、フィリピン、ベトナム、タイといった訪日客が多い国が10位以内にランクイン。YouTubeではインドネシア、日本、ベトナム、フィリピンが、Instagramではインドネシア、日本がランクインする。なおInstagramは韓国、タイでも人気が高い。TikTokはインドネシア、ベトナム、フィリピン、タイが10位以内、日本は2,070万人で14位となっている。さらに中国版のTikTokである抖音(Douyin)は中国のみで7億人以上が利用しており、大きな影響力を持つ。
各SNSの1ヵ月あたりの利用時間は、1位がTikTokで34時間、2位がYouTubeで28時間。TikTokで1分間のショート動画を見ると仮定すると、1か月で2,040回、1日換算で68回の動画を閲覧していることになる。YouTubeで10分間の動画を見たと仮定すると、1ヵ月に268回、1日換算で6回の動画再生だ。
ソーシャルメディアを使う理由のアンケート調査では、家族や友人などとの連絡、暇つぶしという回答がもっとも多いが、注目は26.7%が「買いたいもの・やりたいことのヒントを得るため」、26.1%が「買いたいものを探すため」と回答している点だ。「購入を検討しているブランドについてSNSでリサーチする」人の割合は、グローバル平均では73.9%。タイ、香港、台湾は平均に近く、ベトナム、インドネシア、フィリピン、中国は平均よりも高くなっている。
「つまり、ベトナム、インドネシア、フィリピン、中国の方々は、SNSで得られる情報をもとに購買の意思決定をしているということです。一方、グローバル平均を下回っている韓国、日本では、SNSは幅広く情報収集するために活用されているものの、購買の最終意思決定には別のソースから得られた情報を用いている可能性があることが示唆されます」(樋口氏)
ソーシャルコマースの中でROIがもっとも高いと考えられているのはInstagramで、Facebook、YouTube、TikTok、Xと続く。ソーシャルコマースにおいて効果のあるコンテンツ形態について調査したアンケートでは、67%がショップページへのリンク付きの動画と回答した一方で、今人気のショート動画は32%であった。意外に低く感じられるが、ショート動画に効果がないわけではないと樋口氏は付け加える。
「ショート動画を用いた実績がまだ十分に溜まっていない状況ですが、今後ショート動画を通じて物を買う消費行動が広がれば、数字は上がってくると考えられます」
韓国/中国/タイのSNSコンテンツの特徴とは 国によって異なるトレンドを紹介
続いて樋口氏は、訪日客が多い韓国、中国、タイのSNSコンテンツの特徴を、事例とともに紹介。まずは、国別の人気のソーシャルメディアの比較から。韓国ではKakao Talk、Instagram、中国ではWeChat(メッセージアプリ)とTikTok中国版の抖音、タイではYouTube、Facebook、LINEが上位となる。この違いを押さえることも重要だ。
次に、Meltwater社のソーシャルリスニングツールを利用した、訪日客のSNS投稿の調査・分析結果を国別に見ていく。実際のコンテンツをもとに作成した画像例もあわせて紹介された。
1.韓国
韓国からの旅行客で多いのは、ショッピングと食事に関する投稿だ。ショッピングはファッションと観光に大きく分けられる。ファッション関連の画像投稿では、躍動感のあるストリートスナップや座っていても全身が写る構図が特徴。撮影場所は渋谷のスクランブル交差点、新宿、表参道など人通りの多いショッピングエリアやカフェのテラス席が多く、スタイリッシュな画像ほどエンゲージメントが高い。観光に関する投稿では旅行Tips、オススメの店舗やお土産、体験に関するものが多く、エリアでは札幌、函館、ニセコが多い。また、Kakao Payが使える店舗に関する情報も人気が高かった。
食事に関する投稿では、居酒屋の店内、食べ物(とくにラーメンや焼き鳥、お団子)の画像が多い。調理中の画像ではお好み焼きが多いという特徴もあった。投稿内容については、新鮮さ、季節性、派手すぎない盛り付け、日本の食文化のシンプルさや調和に魅力を感じている投稿が多い。「茶道の作法が日本文化の重要な側面をあらわしていると感じる」といった投稿も見られた。
韓国のインフルエンサーによるSNS投稿の特徴は、写真や動画に載せるテキストが小さく控えめであること。動画タイトルと旅行Tips(温泉旅行に欠かせない必需品、ツアー情報、写真撮影のコツ、おすすめの居酒屋など)がテキストで入り、ハッシュタグは今日の○○(投稿者名やアカウント名)が多いという特徴があった。
2.中国
中国からの観光客の投稿は、食事と自然に関するものが多い。食事に関する画像や動画では、回転寿司や店主・スタッフによるパフォーマンスなど、動きのあるものが人気で、韓国と違って派手な盛り付けの食事やデザートも多い。白や黄色の文字を使ったテロップをよく付けるのも特徴だ。
自然に関する投稿では、天気の良さ、青い空、花の画像が多く、エリアでは富士山、北海道、沖縄が人気。さらに桜の季節になると、ロマンチックな写真を撮るカップルの画像投稿が増えるという。
観光に関する投稿では、「鎌倉1日攻略」や「バスに並ばずに回る鎌倉」といったタイトルのもと、具体的な観光ルートや予定表、オススメスポットやお土産などを紹介するものが人気だ。
3.タイ
タイからの観光客は、ショッピングと食事に関する投稿が非常に多い。タイではYouTube利用率が94.2%と高いため、旅動画も人気コンテンツとなっている。動画はバラエティー番組のようなテンションと明るさが特徴で、食事や観光といったテーマのほか、古着屋、質屋での買い物動画も人気のようだ。
サムネイルはコラージュが多くカラフル。15分〜20分の動画は、ダイジェストから始まりオープニング、本編と進んでいく流れで、移動・ホテル・食事・買い物・観光といったコンテンツが凝縮されている。会話シーンが多く、テロップ、効果音、集中線のようなエフェクトを多用、最近では絵文字を使うのも流行だ。
ツールを活用し、リアルタイムで海外トレンドを追う方法とは
こういった海外SNSのトレンドを追うために有効なのが、Meltwaterのソーシャルリスニングツールだ。ここから同社の吉田氏が、デモを交えながら「Radarly(ラダリー)」「Klear(クリアー)」「Audiense(オーディエンス)」といった3つのツールの活用方法を紹介した。
Radarly(ラダリー)
このツールは、AIが画像や動画に映る背景情報(ロゴ、オケージョン、人数・性別、国・言語、感情、テキスト、ハッシュタグ、エンゲージメント率、日時、場所など)を検知し、分析可能な状態で収集する。
「テキストだけの投稿に比べて、動画や画像の投稿には非常にたくさんの背景情報や投稿者の情報が含まれています。動画や画像を分析対象に含めるだけで、データの数は5倍、10倍に増えます」(吉田氏)
デモ動画では、あるビール会社のロゴを読み込ませた際のダッシュボードを紹介。テキストが一切なくても画像のみで収集でき、またユニフォーム上などの歪んだロゴであっても、AIの補正で正しく収集・分析ができる。また、ロゴと一緒に映るもの(デモではビールやボトルなど)も検知し、それらの画像に絞っての収集や分析も可能だ
Radarlyでは感情分析も行うが、ポジティブであるかネガティブであるかといった抽象度だけでなく、愛、喜び、楽しさ、わくわく、憎しみ、嫉妬といった具体的な感情もAIが分析してダッシュボードに表示。また「おいしい」などの具体的な発話を検知する「感想」という機能もある。
収集されたデータは、インプレッションやエンゲージメント数などでソートしての表示も可能。簡単なクリック操作で瞬時にデータが切り替わり、さまざまな角度から収集・分析できる点もポイントだ。
Klear(クリアー)
Klearは国内外のインフルエンサーを発掘・分析し、ツール上で直接コンタクトもできるソリューション。プロモーション依頼後の効果測定までワンストップで管理できる。
操作方法も平易で、プラットフォームを選び、キーワードやハッシュタグなどを検索すれば良い。フォロワー数、性別などの条件で絞ることもできる。検索結果をクリックすると、実際のコンテンツと分析データを表示。AIによるスコアリングもあり、判断の参考になる。起用したいインフルエンサーはリスト化して管理ができ、ツール上で直接プロモーションやキャンペーンの依頼、および効果測定・分析も可能。海外のインフルエンサーを発掘してプロモーション依頼することで、インバウンドをビジネスにつなげる効果も期待できる。
Audiense(オーディエンス)
AudienseはX限定ツールだが、自社や競合企業のフォロワーを非常に細かく分析できるのが特徴だ。フォロワーの興味関心、世帯年収(米国のみ)、学歴などのほか、よく見る情報源やメディアも推測して収集。自社や競合他社のファンを深く理解し、より効果的なターゲティングやクリエイティブが実現できる。さらに、制作したクリエイティブをシームレスにXのターゲティング広告として利用することも可能だ。
トレンドを知り、より“刺さる”コンテンツ作成を
インバウンドはV字回復し、今後はタイなど東南アジアからの観光客の増加も見込まれる。本セッションでは、訪日客が多いアジア圏の国や地域で、SNSでの情報収集が意思決定につながっていること、また、同じトピックでも国や地域ごとに受け止め方やコンテンツスタイルが異なることがデータをもとに示された。そうした違いやトレンドを理解することで、より効果的なクリエイティブによるプロモーションが展開できる。
「同社のソーシャルリスニングツールがあれば、リアルタイムでトレンドを把握し、収益につながるコンテンツ制作のヒントを得ることが可能です」と樋口氏は語り、セッションを締めくくった。
インバウンドや海外進出に必要な「世界の消費者インサイト」を調査
Meltwaterでは、ニュースメディア、TV、ブログ、掲示板、SNSなどのデータを世界中から収集し、さまざまな切り口で分析できます。自社や競合のブランド・商品、国別や年齢など属性別のトレンドなど、気になる分析テーマがございましたら、ぜひ一度Meltwater公式サイトからお問い合わせください。