転換期を迎える日本でクリエイターに必要な“力”とは クリエイターエコノミーのトレンドと2023年動向を聞く

転換期を迎える日本でクリエイターに必要な“力”とは クリエイターエコノミーのトレンドと2023年動向を聞く
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2023/01/18 08:00

 クリエイターが自らの表現によって収入を得られる経済圏を指す「クリエイターエコノミー」。2022年秋に行われた調査によれば、日本国内のクリエイターエコノミーの市場規模は1兆3,574億円にのぼると算出されている。また、同調査では2034年に市場規模は10兆円を上回るとの予測があるように、今後の伸びに対する期待も高い。では実際に、2022年にクリエイターエコノミー界隈ではどのようなトレンドがあったのか、また2023年に向けてどのような変化があるのだろうか。その流れをふまえてクリエイターに求められる“ある力”とは――。本記事では、noteプロデューサー 徳力基彦さんとnoteで事業開発責任者をつとめる佐々木望さんに話を聞いた。

クリエイターエコノミー普及のカギを握る「課金に対する感覚の変化」

――まずは2022年の振り返りからお願いします。クリエイターエコノミー界隈では、どのようなトレンドがありましたか?

徳力 クリエイターエコノミーという言葉を聞くことは増えてきましたが、日本では「クリエイターエコノミーが根付いてきた」と感じる人は、まだそんなに多くないのではないでしょうか。一方、海外では、今年Forbesが「トップクリエーターズ」として初のランキングを公開していました。1位はYouTubeを中心に活躍する「ミスタービースト(MrBeast)」、2位はTikTokでフォロワー1.4億人を超えるチャーリー・ダミリオ。彼らの収入は数十億円規模だといいます。

こういったクリエイターが海外ではハリウッドスターと同じような立場になっていたり、クリエイターエコノミーの波がきている実感もありますが、人口を考えても日本のYouTubeでチャンネル登録者数が1億人に達することはありえない。どうしてもこういった市場規模やインターネット利用率の違いはあると思います。

もちろん、日本でもヒカキンさんのように有名なYouTuberはいますが、彼らはYouTubeとテレビを組み合わせることで影響力が上がっている印象です。ネット上で活躍した結果、テレビでの露出が増えるという流れは、実はブログの時代からあまり変わっていません。そういった意味で、日本のクリエイターエコノミーはまだ黎明期なのではないかと感じています。

note株式会社 プロデューサー 徳力基彦さん
note株式会社 プロデューサー 徳力基彦さん

この市場に勢いがでるために重要なのは、一般消費者が「クリエイター個人に対してお金を払う」ことが当たり前になるかどうかです。

僕は昭和世代なので、その発想が正直あまりわかりませんでした。たとえば、500円のオンラインサロンでは、雑誌1冊分ほどの情報量=リターンがほしいと思ってしまいますし、僕のように、オンライン上での課金に抵抗感がある方も多いかもしれません。一方で、いわゆるZ世代の人たちは、500円分の「情報量」ではなく「コミュニティに参加する」ことを求めている。そのため、お茶代のような感覚で支払うことができるんですよね。たとえば、noteの定期購読マガジンを運営されている方が、「収益」を目的に課金してもらうのではなくて、インターネット上に安心できる場所として、ある意味での「壁」を作るために課金をしてもらうとおっしゃっていたことも印象的です。こうした課金に抵抗がない金銭感覚が広がってきているという意味で、トレンドは変わってきていると思います。

――noteでは2022年にどのようなトレンドがありましたか?

佐々木 海外ではエンターテイメント領域の方々による売上が目立ちますが、noteではジャンルに関わらず、発信したノウハウが受け入れられたことが収益につながるケースも増えている印象です。

たとえば、日本経済新聞の退職後に、noteやTwitter、YouTubeなどのプラットフォームを駆使した情報発信を行っている後藤達也さんのnoteの購読者数は2022年12月時点で約2万人。note全体でみても、人気クリエイターのひとりです。

後藤達也さんのnoteメンバーシップページ。ベーシックプラン(月500円)とコアメンバープラン(月980円)が用意されている。(現在コアメンバープランの募集は停止中)
後藤達也さんのnoteメンバーシップページ。ベーシックプラン(月500円)とコアメンバープラン(月980円)が用意されている。(現在コアメンバープランの募集は停止中)

ユーザーに受けいれられるコンテンツの傾向としては「情報の希少性×即時性がマッチしたもの」でしょうか。2022年でいえば、清水亮さんのAI画像生成サービスに関する投稿は、そのスピードと希少性があいまって、有料記事ながら多くの方に購入してもらったと聞いています。

徳力 やはり新しいツールの使いかたに関する投稿などは、多くの方が購入されています。ツールの使いかたで言えば、以前はお互いにブログなどに無料で公開するものだったので、それを買ってくれる人がいることがイメージできていませんでした。体系だった情報を得るには「本が出るまで待とう」と考えていましたね。

しかし今では、信頼できる人がレベルの高い情報を出すならお金を払う人が増えていますし、その収益で、また読者の役に立つ情報を発信する。清水亮さんの個人としての事例は、2022年を象徴するものだったと思います。ストック性を出すために、年ごとにまとめてコンテンツを改善している方もいます。

佐々木 読者からの要望に応えて、追記でどんどんアップデートし、販売されているケースもあります。このような「更新性」は、noteというオンライン上のプラットフォームならではの部分だと思います。

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