カギは「審美眼」「リアル」「掛け合わせ」 生成AI登場による変化の本質をフラクタ河野さんが語る

カギは「審美眼」「リアル」「掛け合わせ」 生成AI登場による変化の本質をフラクタ河野さんが語る
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2023/07/18 08:00

 アフターコロナと言われる時代に突入し、生成AIがビジネスシーンを賑わせている昨今。それらの変化は、ブランドビジネスに携わる人やクリエイターにも大きな影響を与えている。そんな今、ブランドは何をすべきなのか。クリエイターは何を磨き、どのような価値を発揮すれば良いのか――。トータルブランディングパートナー FRACTAの河野さんに、生成AI時代に起こりうる変化とそれを乗りこなすための勘所について話を聞いた。

AIはブランドビジネスの何を変えるのか

――まず、ブランドビジネスにおけるAIが与える影響について、見解をお聞かせください。

ブランドがやるべきことはずっと変わってはいませんが、AIが登場した今、ブランドでどのように活用すべきかはまだ先が見えない状態だと思います。ただひとつわかっていることは、AIの活用についての今後の方針は考える必要があるという点です。

たとえば、AIをアシスタントのように活用し、今まで行っていたルーティン作業が自動化・効率化されることで、よりブランドコミュニケーションに専念することも可能になります。Google広告ではAIの仕組みによって最適化がなされているなどすでに活用が始まっている領域ではありますが、今後もより広がっていくと思います。

またマイクロソフトは、AIが仕事のコパイロット(副操縦士)として機能するMicrosoft 365 Copilotを発表しましたが、一方で人間がやっていたことを完全に代替してくれるという意味では、カスタマーサポートをすべてAIが行ったり商品写真を生成したりといった動きも、少しずつ進んできている印象です。ただ、直近の流れとしてはコパイロットとして、人間とAIが横並びで補いあいながら取り組んでいく形が増えていくだろうと感じています。

もうひとつの活用法として考えられるのは、AI活用によるリスクの低減です。たとえばSNSにおける炎上は、そのなかに運用している人がいて、個人の感情や意思決定が挟まってしまうことも一因だと思います。そのリスクを減らすために、運用をAIに代替させることもできるはず。AIでキャラクターを設定したうえで運用をしていくやりかたも出てくるのではないでしょうか。ただ、AIにSNSを運用させて楽をしようということではありません。そのコントロールは必要ですし、あくまでリスクを低減する、キャラクターがブレないようにするための活用法でしょう。

株式会社フラクタ 代表取締役 河野貴伸さん
株式会社フラクタ 代表取締役 河野貴伸さん

クリエイティブの領域でとくに注目しているのは、コパイロットの考えかた。ブランドの中の人にもそれぞれの価値観があるため、それを大きく逸脱することは難しいですし怖いんですよね。ただ、AIを活用することによって、自分の価値観の壁を超えたチャレンジがしやすくなると思います。

たとえば、音楽業界ではそれが上手く回り始めているように見えます。通常、人間が歌う音楽をつくるのであれば、歌い手が歌えることを前提につくったり、その人が得意なジャンルを土台に考えたりするため、その枠組みにはまる形で音楽も設計されます。つまり、関わる人間が実施できる範囲から大きな逸脱はしない。ただ、ボカロP(ボーカロイドプロデューサー)はボーカロイドを活用することで人間が歌えないものでもつくることが可能です。そこで完結してしまうのではなく、それを人間が歌ったときに歌い手が限界ぎりぎりのチャレンジをすることで、新しい境地を生み出すことができる。足場をつくることで、もともと持っている素養よりも限界を広げていくというイメージでしょうか。

それと同じことが、ブランドコミュニケーションでも言えると感じています。ブランドそのものが目指していく世界観と、中にいる人たちが持っている個人的な価値観が乖離すると運用は難しくなりますが、AIの力で足場をつくることでブランドの世界観などの表現がより深いものになる。自分たちではストップをかけてしまう領域へ踏み出す可能性も秘めているように思います。

極端な例にはなりますが、ブランドのクリエイティブ方針が「今までのナチュラルなテイストから一変して、今期はサイバーパンクでいこう」となったとしましょう。このようなケースでは、一般的にクリエイティブディレクターを変えたり、そもそもリブランディングをするしかないですよね。ただ、今までブランドとして行ってきたことを学習させ、そのうえでサイバーパンクを表現したらどうなるかをAIにつくってもらう。そして、その基準をもとに自分たちで咀嚼し再解釈をすることで、新たな表現が生まれるかもしれません。今まではこのプロセスにゼロから取り組む必要があったため、顧客離れのリスクや労力などを考慮し結局同じテイストに戻ってしまうこともありましたが、そのハードルが低くなるはずです。

さらに、人間が取り組もうと思うと「ダメだったらどうしよう」という不安も感じてしまいますが、AIが極端にPDCAサイクルを短縮できるため、とりあえず出してみようと思えるかもしれない。おそらく速度としては数倍以上にあがるため、とりあえずやってみてレビューしてみる、といったことがかなりチャレンジしやすくなるのではないでしょうか。試行数が増えることでブランドコミュニケーション全体の精度を引き上げることも可能かもしれません。

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