「良いデザインを出せばいい」では意味がない HYPHEN 原健三さんのクリエイティブ論

「良いデザインを出せばいい」では意味がない HYPHEN 原健三さんのクリエイティブ論
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2023/12/22 08:00

 現在活躍しているクリエイターの働きかたは実に多様で手がけるジャンルもさまざまだが、そのキャリアと活躍のフィールドをどのように切り拓いてきたのだろう。今回は広告制作会社から独立し、デザイン会社・HYPHENを創業した原健三さんにインタビューを実施。グラフィックへの興味を起点に、広告、パッケージ、アートなど自身が手掛けるクリエイティブの幅を広げてきた原さんに、多様なジャンルを手がけるおもしろさや普段の心がけなどについて話を聞いた。

起点はグラフィックデザインへの興味

 原さんがデザインに興味を持ったのは、6歳上の姉がTシャツをデザインしているのを見ていたことから。とくに平面のデザイン、グラフィックに興味を持ち、東京藝術大学デザイン科を受験。同大学に2浪して入学した。

 大学に入学した2004年は、ちょうどMac Bookが普及し始めたころ。それまで手作業で行っていたデザインにパソコンを用いるようになり、最初は戸惑いもあった。大学院まで進学しデザインの勉強を続けていた原さんは「大学院在学中にイギリスでタイポグラフィを学びたいと思っていた」と言うが、子どもを授かったこともあり、そのまま日本で就職する道を選択。そのファーストキャリアとして選んだのが、広告制作会社「BAU」であった。

株式会社ハイフン 代表 原健三さん
株式会社ハイフン 代表 原健三さん

 同社でデザイン業務に従事するうちに、「規模は小さくても、個人で受けたほうが納得いく仕事ができそう」だと感じるようになったと原さん。約1年の準備期間を経て入社から2年後に退職し、現在代表をつとめる「HYPHEN」を立ち上げた。共同創業者の臼井純さんとの最初の縁は、広告制作会社時代に隣の席だったこと。原さんが副業で友人からの依頼を請け始めたころ、「ひとりで案件を回していくのは大変だ」との理由から臼井さんを誘い、2011年にともに創業した。会社名のHYPHENには、「クライアント企業とそのお客さまをデザインでつなぐ」という意味が込められている。

転機のひとつは「FAMIMA CAFE」 ひとつに特化せず幅広い領域を手がけるワケ

 前職では広告のデザインに特化していたのに対し、HYPHENはパッケージやロゴのデザイン、アートイベントのビジュアル制作など多様なクリエイティブを手がけている。

「そのためHYPHENがどのような会社かと聞かれると、明確に答えるのは難しいんです。何かに特化しているわけでもありませんが、苦手なジャンルもない。年ごとに仕事の内容も変化していますね」

 創業初期は、営業した際に依頼してもらいやすいとの理由からパッケージデザインの仕事が多く、PBの商品パッケージデザインなども手がけた。そこから徐々に実績を重ね、ジャンルを広げてきたHYPHEN。映画の配給会社や宣伝会社のパンフレットデザインなども請け負った。

 最近では「アート系の仕事が増えてきたのも嬉しい」と原さん。もともとやりたかったジャンルであり、グラフィックとの親和性も高いと言う。渋谷芸術祭の会場の装飾や、MEET YOUR ART FESTIVALのアートディレクションなども、HYPHENが携わってきたデザインのひとつだ。

 転機となった印象深いクリエイティブとして、原さんは「FAMIMA CAFE」のパッケージデザインを挙げた。これは、ファミリーマートと取引のあった印刷会社からコンペ参加の依頼を受け、エスプレッソ抽出に特徴のあるファミリーマートのカウンターコーヒーを象徴するロゴを提案。見事勝ち取った案件だ。このプロジェクトを手掛けたのは、会社を創業して2年目のころ。「ファミマのコーヒーパッケージをデザインした人」という看板は、原さんの“名刺”にもなっている。

 このようにHYPHENは幅広い領域のデザインを手掛けているが、同じジャンルの仕事を数多く請け負ったほうが効率は良いだろう。しかし、「それだけではおそらく手詰まりになるだろうと思って」、少しずつ違うジャンルにも手を伸ばしていったという。

 新しい領域にも積極的にチャレンジするとなれば、それだけ身に着けるべき知識やスキルも増えるが、それもデザイナーが成長する機会だと捉えている。

「ファッションの仕事に関わるなら、当然ファッションのことを理解するために勉強しなければなりません。そうやって新しいことを学べば、できることが増え、次の仕事にもつながりやすくなるでしょう。また企業さんと話すときにも一例として挙げることができたり、解像度の高いコミュニケーションの材料にもなる。デザイナーにはコンサルティングに近い考えかたも必要となるため、持っている知識を共有することでクライアントの役に立てることも多いはずです」

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