「ブランド嫌い」なわけではない 3つの観点からみるZ世代の特徴
これまで、企業と消費者とのコミュニケーションはテレビCMなどのマスメディアを中心に行われてきたが、現在はSNSをはじめとしたデジタルにその場は移り、方法は多様化。それにより、販促やPR活動も一辺倒な施策では立ち行かなくなっている。そういった変化をつかむうえで避けて通ることができないのがZ世代の存在だ。
Z世代は一般的に1995年から2010年生まれの人たちを指しており、経済活動への影響力、小さいときからデジタルに慣れ親しんでいるといった特徴で語られることが多い。平山氏はさらに「価値観」「消費行動」「情報行動」にフォーカスし、その特性を解説した。
価値観としては、「自分らしさを大切にする」「自己表現に慣れている」などがありながら、自分自身に目を向け「内省」する人も多いと説明する。
「Z世代と言うと、SNS上で常に自己表現をしていることなどに焦点が当たりがちですが、それだけではありません。他人との比較や社会における立ち位置よりも、自分自身を省みながら『どんな人間になっていきたいか』などを深く考えていくのが大きな特徴です」
またZ世代は環境やSDGsへの理解が進んでいるため、ごく自然な形で社会貢献の視点を取り入れることを望んでいると言う。「なにか行動するのであれば、より良い影響があるものを選択するのが当然」といった価値観を持っているのだ。
続いては消費行動。平山氏は「『ブランド嫌い』な世代であると語られることが多いが、一概にそうとは言えない」と指摘。明らかに企業が意図的につくりだしたブランドやメジャーなものに対し「警戒心」があるのだと言う。周りからみて、そのブランドを選択している自分がどのように写っているか。自身がブランドに取り込まれていないか──。だがそんな気持ちを抱くからこそ、自分とフィットするブランドがあれば、その価格帯にかかわらず購入・利用する一面もある。
「最近話題になっている『推し活』の文脈とも合っているように思います。自分の考えかたに合致し、応援したい気持ちが強まると、消費行動の面からも推しをサポートする。推し活も、自分らしさを表現する手段のひとつといった考えがあるのではないでしょうか」
3つめの情報行動の観点で特徴的なのは、やはりSNSが主軸であることだ。物心がついたときからスマホが身近にあり、手元ですべて調べられることが当たり前。そのため、「情報を能動的に取りにいくよりも、受動的に取り込んだものから選び抜く感性を持っている」と平山氏。取捨選択が非常に早く、同時にさまざまな情報を処理する能力が高いとも言われている。
「テレビを所有しない人も増えていますし、決められた時間にコンテンツを見ることは最初から想定していない印象を受けます。短時間でどれだけ有益な情報を得られるか、つまり『タイムパフォーマンス』を大切にしているのです。ただ『これは好きだ』『じっくり味わいたい』と思ったものには、時間と労力を惜しみません」
実際にMERYがZ世代の人たちにカバンの中身を見せてもらったとき、それぞれ性格や趣味嗜好が異なる全員がスマホではなく文庫本で小説を読んでいたと言う。
「これも、情報収集をするものとじっくり味わうものとを明確に分けている表れでしょう。非常にメリハリがある世代なのです」
さらにZ世代と30代以降を比較してみると、その差が大きく表れるのは「情報収集」の方法だ。「ニュースを見るときにTwitterを使う割合」「スマホを手にするとまずタイムラインを開く人の割合」をそれぞれ比較しても、10~20代とそれ以降の世代には大きな差があることがわかる。
「テレビがメディアの主流でしたが、ウェブが登場したあとはテレビとウェブのふたつが主軸に。それを経て、現在は『SNSファースト』の時代になったように思います。とくにZ世代においては、SNSが行動の起点だと言えるでしょう」
購買前に「あらゆる角度から入念に調べる」Z世代
次に、購買の観点からカスタマージャーニーの変遷を見てみよう。企業が情報を発信し、それを消費者が受けるというONEWAY型のモデル、いわゆる「AIDMA」と呼ばれるこの行動プロセスは、マスコミュニケーションが中心だった時代の考えかたとされている。
その後、ウェブの普及によって生まれたのが、企業と消費者が互いに関与できる「インタラクティブモデル」。ONEWAYモデルと比べると、どんな商品・ブランドであるかを「検索」する、購買後には「共有」する、といったアクションが生まれている点が大きく異なるため、新しいマーケティングの形として注目を集めた。
だが現在ではそれ以上にSNSが浸透。そんな今を平山氏は「モチベートモデル」と表現した。消費者同士が購買意欲を高め合い、レコメンドし合う点が大きな特徴である。
「まず興味をもったときには、商品やブランドについて検索します。これを第一検索としましょう。このときはまだ興味を自覚している段階ではなく、『どういうことなんだろう』という程度の気持ちです。第一検索でさまざまな情報に触れるなかで深い関心をもつと『ほかの角度からもっと情報を集めたい』と調べていき、そういったプロセスを経て行動・購入したあとにはシェアをする。これが現在の流れです」
良いと思ったものがあればまずは店舗で見てみる。そこで良さそうだと思ってもいったん買わずに持ち帰り、もう一度クチコミなどを調べたうえで購入する──。MERYがZ世代の人たちにインタビューをした際、そんな声が挙がったと言う。納得のいく選択をするためにあらゆる角度から入念に調べたうえで購入する点が、Z世代におけるカスタマージャーニーの特徴なのだ。
ポイントは「顔が見える/世界観がある」「効率」「多角的」
では、そんなSNSのコミュニケーション設計では何を意識すべきなのか。平山氏が前提として強調したのは「自分のスマホの中には答えはない」ことだ。「Z世代ではない人たちは、自身のInstagramのリールをみても若い世代に何が流行っているかを知ることは難しい」としたうえで、次のように続けた。
「上の画像は、3名の同じ年代の女性たちに、Instagramのレコメンド面を同じ時間にキャプチャしてもらったものです。ネイルをはじめ、好きなものは共通しているように見えますが、ひとつも被りがない。似た属性であっても、レコメンドされている投稿に同じものはない点が大きなポイントです。このことからも、1人ひとりに適した情報を届けていくことの難しさを感じていただけるでしょう」
現在が「総インフルエンサー時代」とも表現されるように、個人が自分の考えや良いと思うものをSNS上に発信したことでコンテンツが溜まっていき、それをもとにパーソナライズされていく。個人1人ひとりがメディアであり発信者となっているなか、「企業」はどのようにコミュニケーションをしていくべきなのだろう。
その問いに答えるべく、平山氏はZ世代が好むコミュニケーションとそうでないものを3つずつ提示した。
良いコミュニケーションのひとつめとして挙げたのは「顔が見える/世界観がある」点だ。ブランドがつくられすぎたものではないか、世界観がフィットしているのか、温度が感じられるか、などがポイントである。一方、告知や宣伝であることを察知した瞬間、目を留める対象から即座に外れてしまう点もおさえておく必要があるだろう。
ふたつめのポイントは「効率」。気になるものがあったときに、その対象へすぐにアプローチできたり、それを深掘りできたりする動線がなければ、次のアクションへとつながらない。興味を持ってもらったあとのプロセスは、スムーズかつシンプルな設計が求められている。
3つめは、アプローチの方法だ。ここが、SNSにおけるコミュニケーションの大きなポイントだと平山氏は強調する。マスメディアが主流だったころは、ブランドとして認知を広めるためには、同じメッセージを同じ人たちに発信するのが一般的であったが、SNSはそうではない。
「同じものを同じように語っているだけでは同じ人にしか当たらない。これが現在のパーソナライズされたSNSを上手く活用するための大前提です。同じメッセージであったとしてもどのような形で届けるのか。誰がそれを発信するのか。世界観や提案性のあるコミュニケーションを心地良く、かつ多角的に重ねていくことが、SNSコミュニケーションの要なのです」
発信は「コミュニケーションターゲット」ともに
続けて平山氏は、実際のコミュニケーションで意識すべきポイント3点を提示。ひとつめは「話者・面はできるだけ複数持つことを心がける」こととし、その具体的な面としてメディア、ソーシャル、オウンド、広告の4つを挙げた。
「ソーシャルにおいては、インフルエンサーや一般の方によるクチコミ・発信をいかに生み出していくかが重要です。そのうえでオウンドは、継続的に利用してもらい、ファンをつくるための場所として活用すると良いでしょう」
以前は、ブランドの世界観や企業として伝えたいメッセージはウェブサイトで表現されることが一般的であったが、現在はSNSがその役割を担うケースが増加している。
そんなオウンドとしてのSNSで偶発的な出会いを生むための起点となるのが「ショート動画」だ。自分たちの世界を大切にしながら、動画などのコンテンツを多角的に発信し、レコメンドによる偶然の出会いにいかに“引っかかって”いくか。そして「なんか良いかも」と興味を掻き立てたあとに訪れるアカウントのプロフィールで、距離を縮めていくことが重要だと平山氏は言う。
「そのうえでキャンペーンを設計したり、商品に対して意見をもらったりするなど参加型の投稿を交えながらコミュニケーションを重ね、企業や商品を好きになってもらう。そしてまた発信者として自分ゴト化してもらうというサイクルを回すことが、理想ではないでしょうか」
こういったステップを経たあとにすべきこととして最後に示したのは、情報拡散の火種となる「コミュニケーションターゲット」へのアプローチ。特定の分野への興味が高く、発信力のある人たちとともにブランドや商品に関する発信を行っていくのだ。ただ、このターゲットとなるのは、単にフォロワー数が多いインフルエンサーというわけではない。
「濃い情報を持っている、その分野でしっかり信頼を得ている、企業や商品との相性が良いなどの観点をふまえコミュニケーションターゲットとしてまずはアプローチし、そのあとにマスへと広げていく。これがSNS上のコミュニケーションでは非常に重要なのです」
なおMERYでは、若年層やZ世代にフォーカスした効果的なブランドコミュニケーション・プロモーションのサポート、SNS運用や短尺動画の制作なども行っている。自社としても複数のアカウントを運営しており、「mery.jp」では直近1年で1,000万回再生突破のコンテンツを複数回生み出すなど、継続的にヒット動画を制作できるメンバーも揃っている。
平山氏はZ世代にまつわる施策実施を検討している企業へ次のように語り、セッションを締めくくった。
「最近では、ブランドのコミュニケーションの上流である『戦略』からサポートさせていただくケースも非常に増えています。どんな形でSNSに取り組んでいけば良いのか迷われている方のお役に立てることがあるかと思いますので、『Z世代と言えばMERY』と覚えていただけると嬉しいです」