広告クリエイティブに必要な「マジック」と「記憶」とは――東畑幸多氏×博報堂 小島翔太氏[レポート]

広告クリエイティブに必要な「マジック」と「記憶」とは――東畑幸多氏×博報堂 小島翔太氏[レポート]
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2024/03/29 11:00

 生成AIのムーブメントにより、ビジネスシーンをはじめクリエイティブを取り巻く環境は変革のときを迎えている。そんな今、クリエイティブにできることは何か。クリエイティブが大きな役割を果たす広告には何が求められているのか――。そのヒントを探るべく、CreatorZine編集部が主催したオフラインイベント「Creators MIX 2024」の基調講演には、テレビCMなどの広告やデジタル起点の施策などさまざまなアウトプットを生み出してきたクリエイティブディレクター2名が登壇。サントリー天然水「大自然よ、ぼくたちのピュアな部分になってくれ」、九州新幹線全線開業「祝!九州」などの広告を手掛けてきた(つづく)東畑幸多さんと、日清食品「どん兵衛」のデジタル施策やSMBC日興証券の「イチローシリーズ」などを担当した博報堂 CREATIVE TABLE 最高の小島翔太さんだ。今回は、用意された質問に回答する形で進められた本セッションの様子を、抜粋してお届けする。

「ロジック」を「マジック」に変えるために

質問:クリエイティブで大切にしていることは?

小島さんの回答:企業やブランドが言えることであるか、世の中の人にとって見る意味があるものか

小島(博報堂) 僕は応募者や参加者などの数が見えやすいプロモーションの出身のため、「テレビCMをはじめとした広告は、大前提として見てもらえないと意味がなくなってしまう」という気持ちが強いんです。それがいきすぎると「とりあえずバズれば良いだろう」「これだったら話題にはなるだろう」といった方向に企画が寄っていってしまう危険性もあるので、同時に「この商品が言えることなのか」という感覚を大切にしています。

「見られないと意味がない」と「その商品が言えることであるかどうか」の良いバランスを探していく点は日々苦労している部分でもあるのですが、キャッチーな見せ方ができたとしても、そのブランドとして語って良いものなのか。そして、言う意味があるのか。企画づくりではそういった視点を意識しています。

東畑さんの回答:Less logic. More magic.

東畑(つづく) これは、ユニリーバのある方がおっしゃっていた言葉です。

広告は多くの人たちが力を合わせて作っていく必要があるため、みんなのコンセンサスがとれるロジックは非常に大事ですが、一方でクリエイティブのアイディアを考える際、ロジックの延長にいるだけではなかなか人の心を動かすことはできない。たとえばお笑いでも、少し先読みをしながら会話を見ているときに自分が想像していない言葉が返ってくるからこそ驚いて笑ってしまいますよね。予定調和をどのように裏切っていくか、どうやってロジックを外していくかは、クリエイティブにおいてとても重要だと思っています。

ではどうやってロジックをマジックに変えていくのか。大切なのは「個人の持っている感動の記憶」です。企画を考える際、マーケット、ユーザーやファン、世の中のインサイトなどさまざまな観点がありますが、そこにもうひとつ、関わる人の個人的な感動の記憶のようなものが合わさると、ロジックを超えてマジックをつくることができるのだと考えています。

(つづく)クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー 東畑幸多さん
(つづく)クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー 東畑幸多さん

それをとくに実感したのが、「九州新幹線全線開通」のCMづくりです。九州の皆さんにとっておめでたい出来事になってほしいとの思いから、タレントさんに登場してもらうのではなく市民参加型の映像をつくろうと考えたのですが、その際にアートディレクターのおおぎあつしさんがある写真集を持ってきた。ケネディ大統領の弟が暗殺されたカットが入っており、その遺体を乗せた列車からずっと車窓を撮影している写真集です。そこには、悲しみにくれるアメリカが収められているのですが、「車窓に向かってアメリカの人たちが敬礼して並んでいる姿がとてもエモーショナルで印象的だった」と。そんな話を持ってきたときに、悲しみにくれるアメリカではなく、喜びにわく九州を撮ろうとの方向性が決まったんです。

「九州新幹線開通を九州の人たちにとっておめでたい出来事にしたい」ということとその「写真集」は、直接的な関係はあまりないのですが、「車窓から見える人々の景色がエモーショナルだ」というおおぎさん個人の強い記憶が戦略に結びついて、それがマジックになるんですよね。

小島 以前と比べ、企画を決めるときに調査の結果を重視するクライアントさんが多くなってきているように感じています。そういったときに、表に出てくるまでその威力がわからない「マジック」の力をどのように伝えれば良いんだろうと悩むことも多いです。

東畑 ケースバイケースになってしまうかとは思います。ですが、プロモーションとして結果を出さなければならないときが多いなかでも「自分はここが好き」「これは腑に落ちる」というポイントを忍ばせていくことが大事だと感じるんです。99%のロジックの中にも1%の個を入れるというか……。それが広告クリエイティブのおもしろさでもあり、ダイナミズムなのだと思います。

「マジック」の原体験になった日清どん兵衛の施策

質問:自身が携わったものの中で、大きな気づきを得たプロジェクトは?

小島さんの回答:日清どん兵衛のSNS施策

小島 7年くらい前に日清どん兵衛のSNSプロモーションを担当していたのですが、「とにかく話題を生んでバズってください」といった依頼でした。予算をかけて1個をつくるというより、小さくても次々に企画を出して定期的にバズを生むことを目指していたプロジェクトです。

株式会社博報堂 CREATIVE TABLE 最高 クリエイティブディレクター 小島翔太さん
株式会社博報堂 CREATIVE TABLE 最高 クリエイティブディレクター 小島翔太さん

そのなかで印象深いのが、僕の実体験をもとにした企画です。小学生のときに、よく進研ゼミの案内がポストに届いていたのですが、そのなかに同封されているマンガが大好きでした。進研ゼミを始めると、勉強だけでなく部活も恋もすべてが上手くいくというストーリーライン。話の内容自体が毎回大きく変わるわけではないのですが、なぜか読んでしまい、届くのを楽しみにしていたことがずっと記憶に残っていたため、それをどん兵衛に当てはめることに。どん兵衛を食べるだけですべての青春が上手くいってしまう「どん兵衛ゼミナール」と題したシナリオで一気に書き上げました。クライアントさんに熱弁したところ、「なんかわからないけれどおもしろそうですね」と言ってもらい実現し、結果的に大きな話題にもなりました。

そのときに気づいたのが「自分の“好き”や“おもしろい”をもっと追いかけて良いんだ」ということ。クライアントさんも喜んでくれましたし、東畑さんのおっしゃる「マジック」の原体験になっています。

どん兵衛ゼミナール(出典:博報堂 CREATIVE TABLE 最高)
どん兵衛ゼミナール(出典:博報堂 CREATIVE TABLE 最高

東畑 心のどこかで「これは絶対に届かないだろうな」「こんなものを作っても仕方がないよな」と思っていたら、やっぱりなかなか届かない。少しでも良いから、仕事が自分の体に結びついていることが大事ですよね。その意味でこの企画は、すごく小島さんにつながっているのだと感じました。

質問:転機となった出来事は?

小島さんの回答:カロリーメイト部活シリーズ

小島 カロリーメイトが毎年冬に行っている受験のキャンペーンとは異なる、夏の部活のキャンペーンです。カロリーメイトは手軽にバランスよく栄養を補給できるバランス栄養食。学生にとって人生のひとつの転機でもある受験を頑張るためには、どれだけ忙しくても栄養が必要であるという理由から、カロリーメイトは学生の受験を応援しています。またカロリーメイトだけでなく、手術後のお医者さんが水分と栄養の補給のために点滴を飲んでいた様子からヒントを得たと言われているポカリスエットなど、大塚製薬という製薬会社が、本気で開発したtoCの商品だからこそ、学生たちの大切な瞬間を応援する説得力があると思うんです。

そんななか、夏のキャンペーンで学生を応援する場合、彼らが本気で打ち込んでいるものが何かと考えた結果、「部活」ではないかと思い至りました。僕の原体験として、部活の休憩時間にカロリーメイトを食べていたことも大きかったです。

実際の企画に落とし込むときにも、現役の部活生が「全然わかっていないな」「そんなこと思わないけどな」「使っている道具が違う」などと違和感をもってしまっては一瞬で冷めてしまうからこそ、すべての競技に関して、細かくヒアリングを行いました。

ブランドに対しても彼らに対しても、とにかく誠実にまっすぐに取り組み良いものをつくるんだ。そうやって向き合えた仕事でしたね。

九州新幹線全線開業「祝!九州」で感じた広告の力

質問:転機となった出来事は?

東畑さんの回答:九州新幹線全線開業「祝!九州」のCMづくり

東畑 九州新幹線の開通は、東日本大震災の翌日2011年3月12日。そのためCMの放映は3日間にとどまったのですが、YouTubeには動画が残っており、「このフィルムはなんだか元気が出る」といった声がたくさん集まっていました。それを聞いたJR九州の方が「東北の皆さんへの応援メッセージを添え、もう一度オンエアするのはどうか」と提案なさって。僕らもできれば日の目を見せたいという気持ちがありぜひそうしたいと思っていたときなのですが、そんなときにクリエイティブディレクター(以下、CD)をつとめていた古川裕也さんが「それはやってはいけない」と言ったんです。この映像に映っているのは九州新幹線の開通を喜んでいる人たちの笑顔であって、東北の人へのエールとして作っているものではないからと。たしかにそうしてしまってはCMの意味がすべて変わりますし、みんなを元気にできるフィルムではなくなってしまっていたと今考えればわかるのですが、当時はいろいろな気持ちからぐちゃぐちゃになってしまっていました。

この古川さんの言葉から、誰よりも広い視点と深い視座をもち、クライアントの良きアクションや良き声と一緒に作っていくのがCDの仕事なのだと学びました。

先日もこのCMがXに投稿されており、7万以上のいいねがついていました。ソーシャルのマーケティングに携わっていると、成果をあげるためにはそのなかでのミームを探して広告の文脈とつなぐことが最短距離だと思いますし、それは非常に大事な戦略で必ずやらなければならないこと。ですがSNSが持っている文脈を超えて残るものを見つけることも大切だと思うんです。広告は消えものではありますが、誰かの記憶に残ることが可能なんだと改めて感じました。

小島 僕は2012年入社なので、東日本大震災があったのは就活をしているとき。まさに広告に憧れていたタイミングだったこともあり、この広告はとても記憶に残っています。広告として作ったものが、その機能を越えて世の中の人たちの大切な記憶になったり文化になったりする。それを体験できたおかげで、そんな広告の力も知ったうえで企画をつくることができます。

ですが、僕よりも若手のクリエイターたちと仕事をしていると、広告にはそのパワーがないのではないかと思わざるを得ない人も多いのではないかと感じる。そこを何とか、「広告は大切な記憶をつくることができるんだ」と伝えていけたらと思っています。

東畑 もちろん、マーケットをつくっていくことに対し、9割は効率化と最適化が進んでいくべきだと思います。ですが1割くらいはオートクチュールな部分を残していきたい。広告にはその両方の機能があることを信じていたいですね。

「記憶」がクリエイティブづくりの道しるべに

質問:これから先、クリエイターとしてどうありたい? 何を大切にしていきたい?

小島さんの回答:自分や、世の中の人たちの人生の思い出を増やしていきたい

小島 「人生は思い出づくりだ」という母のセリフに影響を受けている部分はあるのですが、世の中の人たちの素敵な思い出を増やしていけたらと思っています。人生の中で幸せな感情になるものがたくさんあると良いですし、広告がそんな存在になれたら嬉しい。さらに言えば、そういったクリエイティブを作ってきた日々が僕の人生の思い出になると思うので、そんな仕事に少しでも多く携わっていきたいです。

東畑さんの回答:胸に残る「記憶」をつくる。

東畑 プロダクト開発でもサービスづくりでもすべてに共通しているのは、「自分の記憶に残っているものがヒントになる」ということです。「これすごく素敵」でも「とてもめんどくさいな」でもポジティブであるかどうかは関係なく、心が動いているときのほうが人は覚えている。僕はそれを大事にしていきたいと思っています。

AIをはじめとしたテクノロジーの普及などにより環境が大きく変わっていくなか、自分は何に対して心が動くかを知っておくことは、アイディアを考えるうえでも大きな財産になる。どんな時代であっても、自分の心がどこに揺れるのかを常に意識していたいですね。

小島 打ち合わせでもまずは雑談をしたほうが良いと言われると思うのですが、その解像度を上げると東畑さんがおっしゃったことに通ずると感じました。個々人の「最近おもしろいことあった?」「何に心が震えた?」といった記憶を集めて共有することが、企画づくりにつながっていきますよね。

東畑 誰かの胸に残る記憶を作りたい。そのために、まずは自分の中で大事な記憶を増やしていく。マーケティングという意味だけでなく、これから自分がどうあるべきかを考えるうえでも、大切な視点なのではないでしょうか。