「ロジック」を「マジック」に変えるために
質問:クリエイティブで大切にしていることは?
小島さんの回答:企業やブランドが言えることであるか、世の中の人にとって見る意味があるものか
小島(博報堂) 僕は応募者や参加者などの数が見えやすいプロモーションの出身のため、「テレビCMをはじめとした広告は、大前提として見てもらえないと意味がなくなってしまう」という気持ちが強いんです。それがいきすぎると「とりあえずバズれば良いだろう」「これだったら話題にはなるだろう」といった方向に企画が寄っていってしまう危険性もあるので、同時に「この商品が言えることなのか」という感覚を大切にしています。
「見られないと意味がない」と「その商品が言えることであるかどうか」の良いバランスを探していく点は日々苦労している部分でもあるのですが、キャッチーな見せ方ができたとしても、そのブランドとして語って良いものなのか。そして、言う意味があるのか。企画づくりではそういった視点を意識しています。
東畑さんの回答:Less logic. More magic.
東畑(つづく) これは、ユニリーバのある方がおっしゃっていた言葉です。
広告は多くの人たちが力を合わせて作っていく必要があるため、みんなのコンセンサスがとれるロジックは非常に大事ですが、一方でクリエイティブのアイディアを考える際、ロジックの延長にいるだけではなかなか人の心を動かすことはできない。たとえばお笑いでも、少し先読みをしながら会話を見ているときに自分が想像していない言葉が返ってくるからこそ驚いて笑ってしまいますよね。予定調和をどのように裏切っていくか、どうやってロジックを外していくかは、クリエイティブにおいてとても重要だと思っています。
ではどうやってロジックをマジックに変えていくのか。大切なのは「個人の持っている感動の記憶」です。企画を考える際、マーケット、ユーザーやファン、世の中のインサイトなどさまざまな観点がありますが、そこにもうひとつ、関わる人の個人的な感動の記憶のようなものが合わさると、ロジックを超えてマジックをつくることができるのだと考えています。
それをとくに実感したのが、「九州新幹線全線開通」のCMづくりです。九州の皆さんにとっておめでたい出来事になってほしいとの思いから、タレントさんに登場してもらうのではなく市民参加型の映像をつくろうと考えたのですが、その際にアートディレクターのおおぎあつしさんがある写真集を持ってきた。ケネディ大統領の弟が暗殺されたカットが入っており、その遺体を乗せた列車からずっと車窓を撮影している写真集です。そこには、悲しみにくれるアメリカが収められているのですが、「車窓に向かってアメリカの人たちが敬礼して並んでいる姿がとてもエモーショナルで印象的だった」と。そんな話を持ってきたときに、悲しみにくれるアメリカではなく、喜びにわく九州を撮ろうとの方向性が決まったんです。
「九州新幹線開通を九州の人たちにとっておめでたい出来事にしたい」ということとその「写真集」は、直接的な関係はあまりないのですが、「車窓から見える人々の景色がエモーショナルだ」というおおぎさん個人の強い記憶が戦略に結びついて、それがマジックになるんですよね。
小島 以前と比べ、企画を決めるときに調査の結果を重視するクライアントさんが多くなってきているように感じています。そういったときに、表に出てくるまでその威力がわからない「マジック」の力をどのように伝えれば良いんだろうと悩むことも多いです。
東畑 ケースバイケースになってしまうかとは思います。ですが、プロモーションとして結果を出さなければならないときが多いなかでも「自分はここが好き」「これは腑に落ちる」というポイントを忍ばせていくことが大事だと感じるんです。99%のロジックの中にも1%の個を入れるというか……。それが広告クリエイティブのおもしろさでもあり、ダイナミズムなのだと思います。