「王道」の先へ踏み込んだ2冊を紹介――『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』『ももたろう』

「王道」の先へ踏み込んだ2冊を紹介――『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』『ももたろう』
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 書店員芸人として活躍するカモシダせぶんさんが、クリエイト脳を刺激された本を毎回2冊お届けする本連載。第8回は、『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』『ももたろう』を紹介します。

 どうも!8月のうだるような暑さ!皆さんどうやり過ごしていますか?薄毛のことをクールビスといじられますが、日光が地肌にあたる分、結局つらい書店員芸人・カモシダせぶん(@kamo_books)です。以前働いていた書店は朝に届く大量の雑誌を持って階段で運ぶため、夏場は本当に大変。めちゃくちゃ汗をかきました。創作の現場も、夏場の汗のごとくドバドバアイデアが出てほしいものです。

 さて、今回のテーマは「みんなが知っていることの奥へ踏み込む」です。創作を行っていると、その界隈でよく用いられるテーマってありますよね。そういったメジャーなものを扱うと手に取ってもらえる方の数は増えるかもしれませんが、玄人の読者さんからすると「扱われることが多いテーマだからこそ、しっかり見られる」に変わります。今回紹介するのは、そういった部分を完全にクリアしている2冊です。

「もし虚偽の歴史があったら」という視点で描く『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』

 1冊目は今年日本で映画化されるノンフィクション本『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』。

『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(河出書房/かげはら史帆 著)
ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(河出書房/かげはら史帆 著)

 ベートーヴェン。世界でもっとも有名な音楽家と言っても過言ではないでしょう。だからこそ彼のことを調べた文献や映画いた小説は山ほどあります。そんななかでこの小説は何が特徴なのかと言うと、ベートーヴェン本人ではなく、難聴になった彼の秘書「シンドラー」に焦点を当てたところです。

 ベートーヴェンの死後、シンドラーは伝記を発表し、生前に会話で使われていた筆談の会話帳を世間に発表します。これがとんでもなく貴重な公式資料として、後の世にも伝わります。

 ところが、シンドラーも亡くなってからだいぶ経ち、きちんと歴史的な背景や人間関係を調べていくと、シンドラーは事実と違う事柄や会話を勝手に付け足していたことがわかる。本当はベートーヴェンがかなり女性にだらしなかったり、シンドラーのことを嫌っていたのにスキャンダルは隠し、空いているスペースに「ベートーヴェンは自分のことが大好きだった」の逆の内容を書いてみたり……。この本では、なぜ彼がそんなことをしたのかを深堀りしています。

 テーマとしては王道でありながらも、そのなかに「もし虚偽の歴史があったら」という視点で描いているのがめちゃくちゃ良いですよね。メジャーな人物だからこそ、よりおもしろくなる。

 先述したように、この作品は今年映画化されます。ただそれが海外ではなく日本制作であること、日本で海外の偉人のノンフィクションを実写化することはかなり珍しいと思います。これも偉人を扱った映画として世界的にはメジャーだけど、日本では制作されていないかったという「隙」を付いているなと感じました。脚本は今や芸人だけでなく脚本家としても活躍しているバカリズムさん。そしてベートーヴェン役が古田新太さん。すごく良いですね。皆さんも映画公開前にぜひ、原作を読んでみてください。