ChatGPT Atlasが描く、「調べる」から「導かれる」ウェブ体験

ChatGPT Atlasが描く、「調べる」から「導かれる」ウェブ体験
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 デジタルプロダクション「factory4」でアプリやさまざまなIoTプロジェクトのUIUXデザインを手がける新谷友樹さんが、UIやUXにまつわるトピックを解説する本連載。今回はChatGPT Atlasについてです。

検索のおわり、会話の始まり

 こんにちは!Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUI/UXデザイナー、新谷です。今回はOpenAIが2025年10月21日に発表、リリースしたブラウザ「ChatGPT Atlas」にフォーカスし、UI/UXデザインの視点から読み解いていきたいと思います。

出典:ChatGPT Atlas
出典:ChatGPT Atlas

 「調べる」という行為は、いまや私たちの生活に欠かせない習慣です。知りたいことに数秒で答えが出せるGoogle検索は、依然として人類史上もっとも便利な発明のひとつと言っても過言ではありません。けれど、その便利さのなかで、私たちは少しずつ別の欲求を抱き始めています。ただ情報を得るのではなく、「理解を深めたい」「その先に辿り着きたい」。そう思ったときに、最近は自然とChatGPTのようなAIに話しかけていませんか?

 そして2025年、OpenAIが発表した新しいブラウザ「ChatGPT Atlas」は、「相談」という行為をブラウジングの中心に据えた、まったく新しい情報体験を提示しました。これまでブラウザは「情報の入り口」でしたが、Atlasは「理解の出口」を目指しています。情報の地図を自動で描き、私たちを「知りたいこと」から「気づきたいこと」へと導く――。人とAIがひとつの思考空間を共有し始めています。

「ChatGPT Atlas」とは

 ChatGPT Atlasは単なる「ChatGPTが入ったブラウザ」ではありません。それは、「AIをウェブの中心に据える」ことを前提に設計された、まったく新しいブラウザです。(※2025年10月30日時点でmacOS版のみです)

 一般的なブラウザ(Chrome、Edgeなど)では、AIは「補助機能」の一部として存在します。しかしAtlasでは、AIが「メインインターフェース」そのものです。ブラウザ内にChatGPTが常駐し、閲覧中のページの要約、比較、深掘り、そして次の提案まで行ってくれます。一言で言えば、「専属の知的アシスタントを内蔵したブラウザ」。

 ページを開くと、AIパネルが自動で要点を抽出し、「この記事の信頼性」「関連する別視点」「次に読むべき文献」まで提示してくれる。しかもそれが、あなたの文脈に合わせて最適化されていく。Atlasの真価は、この「文脈を理解する力」にあります。いま見ているページの内容を踏まえた質問やタスク実行を行い、ユーザーの目的に沿って「知の地図」を描いていく。この体験は、従来のブラウジングとは明らかに異なります。

Atlasの主要機能と体験

リアルタイム要約と背景理解

瞬時にAIが要約を生成し、背景知識や関連情報を付与します。単なるサマリーではなく、概要や重要なポイントなど「コンテキスト付きの要約」です。もちろん従来の検索のようにシンプルにリンクのみの提示もできます。

エージェントモード

ユーザーの指示に応じて、ブラウザ上の操作を自動で実行する機能です。複数のウェブページやドキュメントを横断して情報を収集・比較したり、自動でリサーチを行い、表や要約を生成したり。手作業で行っていた「情報収集」、予約や投稿といった「フォーム入力」を、AIが代行してくれるのです。

たとえば、SNSに投稿する文章を作成して投稿したり、メールの返信優先度をリスト化し、返信文を提案したり、これらの作業そのものをAIに委ねる体験です。(※ChatGPT Plus/Pro/Businessなどの有料プランで利用できます)

パーソナライズされた提案

Atlasのもっともユニークな特徴が、ユーザーの文脈を理解して「先回り」する提案です。過去の行動・興味・質問の傾向を学習し、「次に読むべき情報」「関連する視点」「不足している知識」を提示してくれます。

たとえば、デザインリサーチの記事を読んでいると、パーソナルにもとづいた「最近注目されているUIデザイン」「デザインの応用事例」などもサジェストされる。それは単なるオススメではなく、あなたの文脈に沿った導線になっています。従来のレコメンドが「行動履歴」ベースだったのに対し、Atlasの提案は「意図理解」ベース。つまり、「なぜそれを知りたいのか」を推測し、提示してくれるのです。UXの観点で表現するなら、「自分がまだ知らない自分の関心」を映し出す鏡のような体験。Atlasはまさに、「知識の鏡」であり、「思考の伴走者」のようだと感じます。

キュレーションビューとマルチモーダル要約

通常の検索結果の代わりに、AIが「信頼性」「更新性」「多様性」で整理したカード群を提示します。ウェブページだけでなく、画像・動画・PDF・コードも横断して扱い、そのUIは「AIが編集した雑誌」のよう。読むだけで思考の整理が進む構造です。

エージェントモードがもたらす「調べない体験」

従来の検索は「自分で調べ、自分で選び、自分で読む」という3段階のプロセスがありました。Atlasはそれを一気に短縮します。「日本で注目されているAI、UXデザインの事例を教えて」と言うだけで、複数のニュース、カンファレンス資料、論文を横断し、要約と比較を生成。出典も明示され、「AIが拾ってきた情報の可視性」も確保されています。

UIUXの視点で見れば、これは「探索的UI(Exploratory)」から「会話的UI(Conversational)」への進化です。ユーザーが迷わず意図を伝えられること、そしてAIが「理解の補助線」としてUIに存在していること。この設計思想こそ、AtlasがほかのAIツールと一線を画す理由です。