“Clanker”って何? クリエイターが押さえておきたいAIスラング8選

“Clanker”って何? クリエイターが押さえておきたいAIスラング8選
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2025/09/19 08:00

 クリエイティブやテクノロジー領域を中心に、海外で話題のトピックをお届けする本連載。今回は、「AIスラング」がテーマです。

 AIが創造の現場に進出する今、技術の進化そのものと同じくらい注目すべきなのが「言葉」だ。日々AIにまつわる新しい専門用語やスラングが生まれ、現場で共有されている。「Clanker」「AI-washing」「Glimpsing the Shoggoth」。一見ジョークのようなこれらの言葉だが、AIをめぐるリアルな課題や世相を映し出している。

 本記事では、AIスラングの意味と背景を解説するとともに、日本のクリエイティブ現場で「ただ理解する」だけでなく、発想・企画・批評の武器として活かすためのヒントを探っていく。

なぜスラングが重要なのか AIとクリエイティブの“今”をつかむヒント

 スラングは単なる言葉遊びではない。とくにAIのように急速に進化する領域では、専門家や現場の人々が「もやもやする感覚」「従来の用語では言い表せない現象」をスラングとして表現することが多い。

 「ブラックボックス」という言葉が機械学習の理解不能性を端的に伝えるように、AIスラングもまた、シンプルでキャッチーなフレーズを通じて、業界内外の人々に共通の認識を生み出している。クリエイターにとって重要なのは、これらの言葉を「知識」として知ることではなく、背景にある課題感や価値観を共有できることだ。

 たとえばAIを活用する現場では、スラングが次のような役割を果たしている。

  • 現象を直感的に理解させるショートカット
  • 複雑な議論を簡潔にまとめるフレーズ
  • クリエイター同士の共感やユーモアの共有

 言葉を押さえておくことは、AIとともに働く「今」を読み解くヒントになるのだ。

AI時代を語るスラング8選

 ここでは、英国のクリエイティブ専門オンラインメディア「Creative Boom」で紹介された代表的なAIスラングを8つ取りあげ、その意味と背景を解説する。

1. Clanker(クランカー)

もともとは『スター・ウォーズ』に登場するバトル・ドロイドを蔑称する言葉として登場したが、近年では人々がうんざりしているAIシステムへの蔑称として使われるようになった。たとえば、カスタマーサービスに電話して延々とチャットボットに回されるときや、緊急の用事をオンラインで処理しようとして自動応答に妨げられるときに、「クランカーに当たった」と表現される。
TikTokでは「カスタマーサービスに電話したら、ガラガラの人が出た」というミームが数十万の「いいね」を獲得し、多くの人が共感を示した。人間ではなく機械と対峙していると気づいたときの苛立ちや諦めをうまく言い表す言葉として浸透している。

2. Necromarketing/Delebs(デレブス)

ネクロマーケティングとは、ブランドがAIを活用して亡くなった著名人を“デジタル的に蘇らせ”、広告に登場させる手法を指す。こうした「デジタルゾンビ」と化した著名人は「Delebs(デレブ=dead celebrities)」と呼ばれ、生前に関係のなかった商品まで販売する“死後のセレブリティ”として利用される。

AIが声や顔を高精度にクローンできるようになったことで、マリリン・モンローがスキンケア製品を宣伝したり、アインシュタインがスマートフォンの広告に登場したりする未来が現実味を帯びている。これはインパクトがある一方で、不気味さもともなっており、故人の同意の有無や倫理、さらには法的リスクといった大きな問題を引き起こす可能性がある。

3. AI slop / Sloppers(スロップ/スロッパーズ)

「AIスロップ」とは、ネット上にあふれかえる粗悪で低品質なAI生成コンテンツを指すスラングだ。まるでデジタルの汚水のように大量に流通し、ウェブ体験を劣化させている。これを量産する人々は「スロッパー(Sloppers)」と呼ばれ、質より量を優先するコンテンツファームの運営者であることが多い。

具体例としては、7本指の人が写る不自然なストック写真や、「コンクリートでライフスタイルを向上させる10の方法」といった不可解な生成記事などが挙げられる。こうした「AIの粗悪品」は当然ながら蔑称的に使われるだけでなく、Google検索の信頼性も損ね、誰もが仕事をやりにくくなる要因にもなっている。

もっとも明るい側面もある。大量のスロップの中でこそ、本当に優れたクリエイティブ作品は際立ち、強い存在感を放つのだ。

4. AI washing(AIウォッシング)

「AIウォッシング」は、実態以上にAIを使っているように見せかけるマーケティングの誇大宣伝を指す。環境配慮を装った「グリーンウォッシング」と同じ構造で、あらゆる製品やサービスに「AI搭載」というラベルを貼り、最先端で魔法のようなものだと思わせるのだ。

しかし現実には、「AIアシスタント」は高度な検索機能にすぎなかったり、「機械学習アルゴリズム」と称される仕組みが単純なif-then文に近かったりするケースも多い。AIウォッシングは投資家を惹きつけ、顧客に未来を感じさせるための“演出”に過ぎないことが少なくない。だからこそ、「そのAIは実際に何をしているのか」と問い直す視点が不可欠だ。