10月!この連載が始まってしばらく経ちましたが慣れることなく毎度ヒーヒー言いな
がら執筆している書店員芸人・カモシダせぶん(@kamo_books)です。
さて、記事を読んでる皆さんの中には、進学のための勉強と真剣に向き合ったり、一夜漬けを経験したりした方もいると思います。しんどい思いをした人もいることでしょう。今回紹介する2冊はそんな方に読んでもらえたらということで、「知性と知識を嚙み砕いて伝える」をテーマにしました。
著者は全員東大卒 『東大に名探偵はいない』
1冊目は、東京大学出身のミステリ小説家たちが「東大」をテーマに書きおろした短編アンソロジー小説集『東大に名探偵はいない』(著 市川憂人、伊与原新、新川帆立、辻堂ゆめ、結城真一郎、浅野皓生/KADOKAWA)です。
日本最難関の大学として知られる「東京大学」のミステリとなれば、これはお堅い文章やトリックになるのではないかと思った方、安心してください。まったくの真逆で、むしろかなり読みやすいエンタメばかり。読んでいくとあくまで東大は“キャッチーなお題”として選ばれているだけで、それをどのように活かしていくのか、に著者の皆さんが力を入れている印象でした。
ちなみに著者の掲載順は大学に入学した年が古い順になっており、もっとも先輩の市川憂人さん作『泣きたくなるほどみじめな推理』は1990年代の日本の空気感を見事に捉えています。最近映画化された『#真相をお話します』の著者、結城真一郎さんの『いちおう東大です』は東京大学の在学生と卒業生の恋愛がテーマ。ひたすら東大のレッテルを貼られ続けた主人公に降りかかった結末はゾッとしましたし、読んでる我々も「東京大学」に偏見を持っているかもしれないと思わされます。
月9ドラマにもなった『元彼の遺言状』でもお馴染みの新川帆立さんの短編は、タイトルと内容がとても奇抜。食事中の方のために伏せますが、東大に対して我々が持つイメージを逆手に取っていて、痛快かつかなり読みごたえがありました。どんな話なのか、ぜひ手にとって確認してみてください。
また本書にはチャレンジ枠も存在していて「東大生ミステリ小説コンテスト」という校内コンテストで大賞を取った浅野皓生さんの商業デビュー短編『テミスの逡巡』は、掲載順ラストでもしっかり読める本格派で好印象。とてもオススメです。
あらすじの一部に触れてきましたが、おそらくこの作家さんたちは難しい内容も書けると思います。ですが学校の授業が「難しい」と感じた途端なんだか眠くなるのと同じで、難しくするほど読者は離れていくことが多い。題材的にもいっけん固そうな「東大」をわかりやすく執筆することで読者は「難しそうな内容だけど自分にもわかる」とより興奮できる。こういった部分は、小説以外の創作でも役に立つのではないでしょうか。
