「D2Cのビジネスを立ち上げるつもりはなかった」の真意
福井(博報堂) 鈴木さん、本日はよろしくお願いします。鈴木さんのことはプレイヤーとしても大好きな選手でしたが、それだけではなく起業家としても長く注目させていただいています。
私は学生時代にスポーツビジネスを学んでいて、ファンから愛されるチームのつくりかたやクラブのファンをいかに増やすかといったことをフィールドワークを通じて考えていました。そこから転じて現在は、ファンを生み出す企業アクションやコンテンツとは何かを模索しています。そういった背景から、元サッカー日本代表選手でありながら、現在はウェルネスの領域でD2Cビジネスを展開されている鈴木さんと、ぜひファンづくりについて広くお話をしたいと思っていました。

鈴木(AuB) ありがとうございます。実はもともとD2Cのビジネスを立ち上げようとは思っていなかったんですよ。最初は自分のようなアスリートのパフォーマンスを改善できるのではないかと、腸内細菌が持つ可能性に興味を抱いたのがきっかけで。それをアスリートのデータをもとにサポーターにも広げていくことで、多くの人が元気にスタジアムに通える世界をつくれたらと思っていたんです。
アスリートは自分の身体に真剣に向き合う半面、それをほかの人に共有しません。パフォーマンスに直結するものなので、ある意味では当たり前とは言え、それを民主化できればおもしろいじゃないですか。
くわえてアスリートは「エンターテインメント」としての側面にとどまらず、もっといろいろな価値を提供できるのではないかという思いもありました。その第一歩として「腸内細菌」と「アスリートのデータ」が活かせるのではないかと考え立ち上げたのが、研究開発を軸にした「AuB」です。
最初のプロダクトをリリースしたのは2019年12月。紆余曲折がありましたが、今はD2Cのフィールドでより多くの人に私たちの提供価値を届けたいと考えています。
福井 もともとのゴールと、結果的に現在取り組んでいるものとが異なるのはとても興味深いです。
鈴木 そうなんですよ。サプリメントや健康食品を扱う企業になりたいといった思いはなく、あくまで「自分たちの研究を多くの人に届ける方法」としてD2Cに取り組んでいる。そんなイメージです。

では今何をやりたいのか。その問いの答えは「多くの人の行動変容を起こすための『気づき』を生み出すこと」です。
2006年にドイツで開催されたサッカーのワールドカップで、ある選手が足をつってしまいました。必要な水分量やマグネシウムが不足していた可能性があるのですが、見方を変えれば「自分の栄養状態」を把握しきれていない選手が多かったように思います。そのベンチマークがあれば、しっかり水を飲む、このビタミンを取るといった行動の変化につながっていたはずなんですよね。そういう仕組みをつくることができないかと、日々模索しています。