ブランドの説得力に必要なのは「準備」と「くさび」
福井(博報堂) なるほど。行動変容を促す前段階として、今はプロダクトを届けているんですね。ちなみにAuBのブランド運営で意識していることはありますか?
鈴木(AuB) 現在、多くの企業が健康食品やサプリメントを扱っていますよね。そのなかで各社がさまざまなデータをもとにアピールをしていますが、「最終的に重要なのは『腸』」だという確信が私にはあるんです。消費者へいかにこのメッセージを伝えるかは心がけていますね。そのうえで「アスリートのデータ」を持っているのは私たちの強みですし、それもふくめて、手を変え品を変えコミュニケーションをしなければならないなと。
福井さんに伺いたいのですが、たとえば「腸内環境は重要ですよ」と伝えたいとき、どういうコミュニケーションが効果的なんでしょうか。
福井 近年の健康にまつわる領域は「マイナスをいかにゼロにするか」といったネガティブチェックの視点で語られることが多いと思うんです。健康診断が良い例で「ここが悪いからこれをやめましょう」とか「すぐに治療してください!」と言われる。結果表もそういう書きかたが多いため、家族も含めて他の人に見せたくないものになってしまう。
そうではなく、もっと前向きに楽しくできるような仕掛けがあると良いかもしれません。「こういう人になりたいなら、こんなものが必要ですよ」「あなたはこの能力が高いから、さらにここを伸ばすと足りない部分を補えるので全体として数値が良くなります」とか。こういった取り組みを「AuB」が行うのはとても説得力がありますし、鈴木さんがおっしゃっていた「気付き」にもつながるのではないでしょうか。
鈴木 最近まさにそんなことを考えていました。ベッドやトイレなど、絶対に生活のなかで使う場所で健康診断をできるようにし、どんどんデータをとっていく。たとえばトイレで用を足したら、その匂いなどをスコアリングするんです。その結果が60点だったとしたら、100点にするために必要な食事やオススメの飲食店を紹介したり、スーパーで買うと良い食品を教えてくれたりするのはおもしろいかなとか。
福井 めちゃくちゃ良いですね!
鈴木 ただ、そういう世界観があるとしても「なぜ、AuBなのか」という説得力をどのようにつくれば良いんだろうとも考えています。

福井 ひとつは、何か世の中が大きく変動するタイミングに備えて、地道に準備することだと思います。コロナ禍によってオンライン会議が当たり前になり、ZoomやTeamsが大きく広がったようなイメージですね。
もうひとつの方法は「ニュースをつくり続ける」こと。これは話題づくりを指しているのではなく、ブランドとして伝えたいビジョンをさまざまな形に現象化していくということです。現象が数珠つなぎで生活者の頭の中で結ばれていけば、投下型のメッセージをするより強力なコミュニケーションになります。
さきほどのトイレでスコアリングする話であれば、大きな街に鈴木さん監修のトイレを設置してみるのもとてもおもしろいですよね。「何で鈴木さんが取り組んでいるんだろう?」という疑問から、AuBさんのビジョンを知るきっかけになっていくはずですから。
鈴木 現象をつくって「くさび」にしていくイメージですね。そういった点がまだ不足しているからか「腸活のサプリメントを作っているんですよね」と言われることも多い。それがとてももどかしくて……。
福井 どんなに発信力のある人でも、伝えたいことをちゃんと理解してもらえることは想像以上に少ないんですよ。鈴木さんも誰にでもわかりやすい発信ができるからこそ、ラベルを貼られてしまうことが多いのかもしれませんね。