問いをつくり、自分のデザインの軸を持つ――デザインツールとしてのリサーチクエスチョン

問いをつくり、自分のデザインの軸を持つ――デザインツールとしてのリサーチクエスチョン
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 軽やかに活躍し続け、組織や社会をしなやかに変化させていくために、そしてさらなる高みを目指すために必要な変化とは何でしょうか。本連載では5年目からのデザイナーに向け、その典型的な課題と対応策をコンセントの取締役/サービスデザイナーの大﨑優さんが示していきます。第13回のテーマは「リサーチクエスチョン」です。

 相手に発見を与えられるか。依頼者の感激を誘うアウトプットを生み出せるか――。

 これは、デザイナーにとってひとつの目標です。「そんな方法があったのか」「そんな視点で捉えていなかった」と周囲に反響し、プロジェクトがドライブする。グっと手応えを感じる瞬間です。

 私は20年以上、デザインの業界で生きてきました。私自身も、プロジェクトごとに成果を重ねつつも、そこに「独自の視点」や「自分なりの表現」を練り込めないかと模索を繰り返してきました。なぜ、あのデザイナーはこんなアイデアを出せるのだろうか。こんなプロジェクトを生み出せるのだろう。そんな観察も続けてきました。

リサーチクエスチョンを持つと視点が変わる

 周りに発見を与え、成果をあげ続けるデザイナーがいます。個性的な視点でプロジェクトをつくり出すデザイナーがいます。こんなデザイナーを見ているとひとつの特徴があることに気づきます。それは、独自のリサーチクエスチョンを持っていることです。リサーチクエスチョンとは、研究によって答えを求めようとする「問い」のこと。デザインするなかで、自分なりに突き詰めていきたい問いです。

 たとえば、「社会性と経済性を両立するデザインの方法論は何か?」「創造性を高め合う組織をいかにデザインするか?」「自立と共生の社会に導く造形表現はどんなものか?」。このような問いです。こういったリサーチクエスチョンを具体的にイメージして活動している人もいれば、もはや「問い」が身体化し無自覚に動いている人もいます。

 長期にわたって研究し、解き明かしたい問いがある。リサーチクエスチョンを持つデザイナーは、その問いを軸に自分の仕事を組み立てているようにも見えます。自分の問いを起点に、デザインに取り組んでいるようにも見えます。仕事に対してリサーチクエスチョンのほうが先行しているような形です。誤解を恐れず言うならば、仕事を研究のように捉える側面がある。常に好奇心や内発的な「問い」をベースにプロジェクトに取り組んでいるのです。

 リサーチクエスチョンから独自に探究する姿勢を持つと、自ずと周囲と視点が変わってくる。世界の見方が変動する。だからこそ、相手に気づきを与え、ときに重要な機会を発見する契機にもつながっていきます。他者にない観点をプロジェクトに織り込めるのです。

フィールドワークに動き、つながる

 リサーチクエスチョンを抱えるデザイナーは、フィールドワ―クのように情報収集を行います。リサーチクエスチョンを解き明かすために、外に出て観察し、交流し、情報を集めます。イベントや会合に出席し、意見を聴き取り、ネットワークを広げます。

 デザイン分野の一般論や理想論と、実務者が向き合っている生々しい現実とを突き合わせて、そのギャップを捉えながらリサーチクエスチョンの解像度を高めていきます。デザインの対象は社会に点在する問題。ネット空間の情報をサーベイすることも、デザイナー自身の内面を見つめることも必要ですが、それだけでは迫真に迫るデザインはできないことを知っています。

 受託のデザイナーにとってフィールドワークは、そのまま個人のマーケティングにも営業にもなります。自らのリサーチクエスチョンが、社会の課題解決につながるならば、その問いに対してニーズが形成され市場がつくられていく。リサーチクエスチョンに関係するプロジェクトが生まれ、そのまま自分が担当することになっていきます。自然とプロジェクトが集まってくる現象が起こるのです。

 それは事業会社のデザイナーも同じです。リサーチクエスチョンをもとに社内外でネットワークを広げ、仲間を増やしていく。プロジェクトが生み出されていき、徐々に影響範囲を広げていきます。

 会合やイベントの参加に気後れするデザイナーもいるでしょう。ネットワーキングが苦手な人もいるはずです。そんなデザイナーこそ、そういった場を現地調査と捉えてみる。問いを立てて検証の場と考えてみると良いかもしれません。いつもとは違った角度から相手の意見を観察できるかもしれません。リサーチクエスチョンを抱えていれば、周囲との会話のクッションにもなります。共通の話題のベクトルになります。コミュニケーションの補助線になり、気持ちも楽になるかもしれません。

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