WIA 2025ショートリストに見る、世界のイラストレーション潮流

WIA 2025ショートリストに見る、世界のイラストレーション潮流
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2025/08/15 08:00

 クリエイティブやテクノロジー領域を中心に、海外で話題のトピックをお届けする本連載。今回は、「イラストレーションのトレンド」がテーマです。

 世界85ヵ国から約4,700点が応募された国際イラストレーション賞「World Illustration Awards(WIA)2025」において、ショートリスト200作品が2025年7月15日に発表された。この賞は単なるビジュアルアートの競作ではなく、広告、アニメーション、書籍、エディトリアル、科学技術、実験表現など多様な10部門を通じて「今、世界で求められているビジュアル表現の方向性」を映し出す。さらに、2025年9月16日には各部門の受賞作品と「Overall Winners」がロンドンで発表される予定で、その注目度は今後さらに高まっていく。

 本記事では、各部門の注目作品を紹介しながら、WIAが定める10のカテゴリーを軸に、現在世界で評価される表現手法やテーマの傾向を読み解く。単なる作品紹介にとどまらず、表現技法やテーマ背景、社会的接点にフォーカスし、最新のイラストレーション潮流を知るガイドとしてお届けする。

1.広告部門:共感を生むキャンペーンへ

 Advertising(広告)部門は、WIAの中でもとくに注目度が高いカテゴリーのひとつだ。AOIの発表によると、2025年は「共感的で魅力的、そしてわくわくするようなキャンペーン」が数多く選出されている。従来の「商品を魅力的に見せる」ためのビジュアル表現にとどまらず、近年はオンラインや雑誌、屋外広告など複数のメディアを横断する360度キャンペーンで活用される事例が増加している。

 代表作のひとつ、Gianluca Folì『COMERCIOS CENTENARIOS』は、マドリードの伝統商業を鮮やかに描き出し、都市の営みを温かみのあるタッチで表現している点が評価された。観客を物語に引き込む構図とユニークな視点が特徴である。

出典:WIA2025 Shortlist Showcase – Advertising/Gianluca Folì『COMERCIOS CENTENARIOS』
出典:WIA2025 Shortlist Showcase – Advertising/Gianluca Folì『COMERCIOS CENTENARIOS』

2.アニメーション部門:表現技術とテーマ性の共演

 Animation(アニメーション)部門では、短編・長編を問わず、新人部門とプロ部門の両方において、斬新な技術と魅力ある動き、観る者を引き込む没入型アニメーションがショートリストに並ぶ。ロングリスト段階では、手描きによるグラファイトやストップモーション、あるいは緻密なデジタルフレームバイフレームまで、多様な技法で作品が展開されていたことも明かされている。審査員による解説では、構図や動きによって人間体験を効果的に伝える作品が評価されており、ストーリーテリングと感情表現の両立が部門の特徴として浮かび上がる。

 代表作として挙げられるのが、Vivian Suによるストップモーションアニメ『Reference Answer』 だ。この作品は、日常の何気ない瞬間に潜む“喜び”を探る内容で、木材や金属、羊毛フェルトを素材に用いた手作り感ある動きと質感が特徴。視覚的な温かみとユーモアを通じて、小さな幸せが持つ力を繊細に描き出している。

3.ブックカバー部門:物語を1枚で語る力

 Book Covers(ブックカバー)部門では、犯罪小説からクラシック文学まで幅広いジャンルの装丁が選出されており、1枚のイメージで物語世界を提示する力が評価されている。大胆な構図や印象的なデザインが、文字どおりカバー1枚で作品の世界観を伝えている。

 ショートリスト作品からうかがえる特徴としては、物語の核心を象徴的に表現するミニマルな描写と、色彩や余白を活かした構成的インパクトが挙げられる。これにより、装丁そのものがブランド化されるような力強いビジュアル体験が生み出されている。

 代表作としては、Spike Chien(Cheuk Lam Siu)による『Lee Hao Poetry Book Cover』が選ばれており、詩的な世界観をカラーと構図のリズムで表現した作品として評価されている。