求められるのは「領域を飛び越える気概」と「固定観念にとらわれずに試すこと」
内野(GMO) 続いて、クリエイターに求められる「スキル」や「心構え」について、それぞれ考えをお聞かせください。

阿部(アドビ) 私はあくまでクリエイターがより良いアウトプットを生み出すためのサポートをする立場ではありますが、今後は「領域の垣根」のようなものがなくなっていくだろうと感じています。AIはあくまでひとつのテクノロジーですが、活用領域は多岐にわたります。たとえば、今までデータサイエンティストなどの専門家に任せていた領域が、生成AIによって民主化が進みます。現在分業化されているフロントエンジニアリングやUI設計などの垣根も曖昧になり、誰もが高品質なプロトタイプングを瞬時に作成して、その優劣をデータで検証できるようになります。
歴史的にも、クリエイターの業務は、「細分化」と、ひとりが複数の役割をこなす「統合」を繰り返してきたように思います。昨今は業務の細分化が進んでいますが、生成AIが登場したことによって、時代は別の「統合」へと向かっていくのではないでしょうか。そのためクリエイターの方には、「自分の領域を飛び越えて活躍する」という気概が必要になってくるのではないでしょうか。

洞ノ上(CA) AIに手を出すことができず、怖いと感じている方もまだまだ多いのではないかと思います。ですが私は、まず「知りにいく」ことが大切だと思っています。活用するか否かの判断は、一度知りにいったあとで判断すればよいこと。「固定観念を持たずに試せる」ことも重要なスキルかもしれません。
クリエイターというのは経験がものを言う世界でもあるので、20年選手のようなベテランが活躍しやすい側面もある一方、思考の偏りを生みやすい環境でもあります。
たとえば私が携わっているインターネット広告では、「人間からみて素晴らしいもの」を作ることももちろん大切ですが、それ以上に「Googleのアルゴリズムによってクリエイティブの品質が判断される」ことも重要になってくる。この視点では経験則が邪魔になることすらあるのです。経験による固定観念を突破する際に、AIの強みが活かせると知っておくことは無駄ではないと思っています。

生成AIが本格的に普及したとき、消費者の行動が大きく変わる
内野(GMO) 次が最後の質問です。おふたりはAIの進化によって、今後ビジネスがどのように変わっていくと思いますか?
阿部(アドビ) まだ生成AIのテクノロジーというのは、ビジネスシーンに普及しきってはいないと感じています。「テクノロジーが本格的に普及する」ことの尺度のひとつとして、「消費者行動が変わる」ことが挙げられます。スマートフォンが登場し、大多数の人がそれを手にしたときに、生活スタイルが大きく変わりましたよね。同じように生成AIが本格的に普及すれば、消費者の行動ががらっと変化するでしょう。クリエイターや企業の転換点も、そのタイミングになってくるだろうと思います。
もし、パーソナルAIアシスタントのようなツールが成熟し、多くのユーザーがブラウザを開かずに情報を収集したり、サービスの予約をしたりするようになったら、それを前提とした顧客体験の再設計が必要になりますよね。そういった変化もふまえた素養が、クリエイターには必要になってくるのではないでしょうか。

洞ノ上(CA) 弊社のようなアドテック企業にとっての変化で言うと、先ほどのお話しにもあったようにAIの進歩によってインハウスのデザイナーを抱える企業が増えていくことを考えると、私たちはAIに関する知識やノウハウを、ひとつ上のレベルへと進ませなければいけません。そのうえで顧客体験の設計や、クリエイティブの効果不足の解消など、上手くサポートできるようにする必要があると思っています。