「型」から進める企画提案書の書きかた――デザインのおもしろさをプロジェクトに込める

「型」から進める企画提案書の書きかた――デザインのおもしろさをプロジェクトに込める
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 軽やかに活躍し続け、組織や社会をしなやかに変化させていくために、そしてさらなる高みを目指すために必要な変化とは何でしょうか。本連載では5年目からのデザイナーに向け、その典型的な課題と対応策をコンセントの取締役/サービスデザイナーの大﨑優さんが示していきます。第7回のテーマは「企画提案書の書きかた」です。

 自分で仕事をつくるなら、自分で企画を立ち上げる。とはいえ資料をつくるのは、とにかく始めは難しい。資料づくりを避けていたって、仕事の壁は越えられない。押さえるべきは「提案書の基礎」。覚えるだけでデザインがひらく――。

 今回はデザイナーのための「企画提案書の作りかた」についてです。5年目からのデザイナーは、デザインとビジネスを横断し、デザインの価値を発揮できるプロジェクトを主体的に生み出していく必要があります。そのために不可欠なのが企画提案書です。

 前回の第6回では、デザイナーの企画提案活動の全体像を紹介しました。今回は、その一部のアクションである「企画提案書の作成」にフォーカス。前回読んでいない方でも楽しめるような構成です。どうぞご覧ください。

企画提案書を作れないと「何も言えない」

 今回紹介する「企画提案書」とは、デザインプロジェクトを企画し、それを他者に提案する際に用いる資料のことです。「プロジェクト企画書」「プロジェクト提案書」「デザイン企画書」「提案書」など、さまざまな呼びかたがあるでしょう。PowerPointやFigmaで作成するデザイナーが多いでしょうが、KeynoteやWordなどで作る人もいると思います。

 企画提案書を作るのが苦手というデザイナーは多いようです。私もかつては敬遠していて、「資料作成なんてデザイナーの仕事じゃない」とふてくされる時期もありました。でも、ビジネスの現場で相手に意思表示するには、資料を作らないと始まらない。「資料を作れない」イコール「何も言えない」ということ。自分なりのおもしろさをプロジェクトに込められないということ。こんなにつらいことはありません。しぶしぶ、なんとか、私も資料を作るようになりました。

 企画提案書に限らず資料作成全般において難しいのは、頭のなかにある複雑な情報をリニア(直線的)なページ構成に落とし込むことでしょう。人間の思考は常にノン・リニア(非直線的)。言葉になるものとならないものが、脳内空間のあちらこちらに散らばっています。それらを順序立てて並べて構造化し、ストーリーとして組み立てることが難しいのです。

 そんなときには、企画提案書の型を作るのが効果的です。企画提案の型となるストーリーの基本形を持ち、その順序に合わせて頭の中の情報を並べていくイメージです。定型のプロトコルを持つことで、むしろ自由に発想しやすくなる効果もあります。まずは、そのような企画提案書の型を覚えていきましょう。

企画提案書の型を押さえる

 私がおすすめする企画提案書の基本構成は次のようなものです。

模式図。企画提案書の基本構成。12種類のページが順番に並ぶ。最初から順番に、1.表紙、2.自組織の紹介、3.課題や与件の整理、4.プロジェクト要件、5.プロジェクト要件の詳細(制作物イメージなど)、6.プロセス、7.スケジュール、8.体制、9.費用見積、10.免責事項、11.付録、12.挨拶と並ぶ。

 表紙から始まり、「自組織の紹介」「課題や与件の整理」「プロジェクト要件」「プロジェクト要件の詳細」「プロセス」「スケジュール」「体制」「費用見積」「免責事項」「付録」と続き、「挨拶」で締めるという流れです。これに沿ってページを構成していくと、自ずと企画提案書は完成します。

 この流れを基本としてフォーマットを作っておき、状況に応じてページを増減させたり入れ替えたりしていくと生産的です。私は、多い月で10本ほどの企画提案書を作りますが、この基本形を持つからこそ、活動量を維持できていると思っています。

企画提案書は誰に向けて作るのか

 ここから、企画提案書のそれぞれのページの作り方について紹介していきますが、その前に押さえておきたい重要な点があります。それは「企画提案書は誰に向けて作るのか」という点です。

 結論から言いますと、企画提案書の対象となるユーザーはふたり。その資料を渡す相手となる「担当者」と、その周囲で強い影響力を持つ「キーパーソン」の2名です。そして、より重視すべきなのは後者の「キーパーソン」です。

 キーパーソンというのは、そのプロジェクトの実施を決裁する人物や、その意思決定に大きな影響を与える人物のこと。キーパーソンは、「マネージャー」や「部長」などの予算権限や人員の動員に裁量がある管理職であることがほとんどです。基本的には、企画提案書は管理職=決裁者向けに書くようにすると問題ないでしょう。

 ところが、その決裁者以上に影響力を発揮する人物がいることもあります。高い専門知識を持っていて決裁者に助言をする人物や、周囲からの信頼が厚く、決裁者からも動向が無視できない人物。その人が話し始めたら、決裁者も含めてじっと注目するような人物。そういった人物がキーパーソンであることもあり、企画提案書を作成する際には決裁者以上に重視することもあります。

 まずは、そのキーパーソンが誰なのかを特定すること。決裁者なのか、それ以外の人物なのか、しっかりと見極めます。そしてその次には、そのキーパーソンが個人的に成し遂げたいことや困っていることは何かを理解することが重要です。つまり、キーパーソンの顕在的・潜在的なニーズを把握するのです。

模式図。担当者の意向と、キーパーソンの潜在ニーズの例。デザイナー・担当者・キーパーソンの三者が並ぶ。デザイナーが企画提案する担当者は「企業ブランドをリブランディングしたい」と発言している。一方、その担当者に指示・連携する立場のキーパーソンは次のようなことを考えている。「社内の合意形成が不安。頓挫したくない。社長から、リブランディングの定量成果を求められているが、どうすればいい?リスクコントロールできる段取りだと嬉しい。」デザイナーは、担当者の意向に耳を傾けるのと同時に、こういったキーパーソンの考えを見極めることも重要である。

 そのニーズというのは、プロジェクトで得られる成果だけではありません。個人的なこと、たとえば「ある部署との関係を良好にしておきたい」や、「うまく予算を消化させたい」といったことも含みます。

 キーパーソンが重視する判断軸や、判断が切り替わるポイントを理解する。組織の合理性や正論だけでなく、キーパーソンの都合や視点を把握する姿勢も大切です。そこに迎合した提案をするということではありません。意思決定にどのような力学が働くかを把握しておくということです。

 また、企画提案書は「読むもの」ではなく「使うもの」であり、意思決定のための道具です。デザイナーが制作した企画提案書は、担当者が読んで理解するだけではなく、上席に決裁を取り付けるためにも使われるもの。業務調整の資料として、いろいろな部署で使われることもあります。担当者やキーパーソンだけでなく、多方面に誰が読んでも理解できる「使いやすい」内容であることを心がけましょう。