デザイナーの企画と提案、その習慣――自分でプロジェクトをつくる方法

デザイナーの企画と提案、その習慣――自分でプロジェクトをつくる方法
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 軽やかに活躍し続け、組織や社会をしなやかに変化させていくために、そしてさらなる高みを目指すために必要な変化とは何でしょうか。本連載では5年目からのデザイナーに向け、その典型的な課題と対応策をコンセントの取締役/サービスデザイナーの大﨑優さんが示していきます。第6回のテーマは「企画と提案」です。

 「良い仕事が少ない」「きつい仕事ばかり」とデザイナーが嘆く。「会社が悪いのだ」「デザインを理解しないのだ」と他人に矛先を向ける。「営業が良い仕事を取ってこないからだ」と心に闇を抱く――。

 これが3年目のデザイナーならば、「まあまあ、そんなこともあるよ」となだめるだけかもしれません。ただ、この記事のテーマである5年目以降のデザイナーであれば、自らの手で変えていくべき段階。誰かのせいにはできません。

 デザインで成果をあげるには、デザインの価値を最大限に発揮できるプロジェクトが必要です。5年目からのデザイナーは、デザインとその外側との境界で動き、そんなプロジェクトを自分の力で生み出していく必要があります。

 もちろん、仕事のすべてを自分でつくるわけではありません。誰かから仕事の依頼を受け取ることや、ほかのメンバーが得た仕事を扱うこともあるものです。

 しかし、それだけに頼るのでは、自分の仕事が依存的になってしまう。仕事が少なくなった時にじっと待機するだけの存在になってしまいます。常に並行して、自分の仕事をつくるよう動いておく。備えておく。自分自身や組織が最高に輝ける仕事を、虎視眈々と準備するのです。今回は、デザインを起点にプロジェクトの企画や提案を行う方法について紹介します。

「企画提案の全体像」を身につける

 デザインプロジェクトを生み出すためには、自分から企画提案することが必要です。デザイナーが企画提案する動きとはどんなものか。まずは、その活動の全体像を押さえましょう。

模式図。デザイン起点の企画提案の全体像を時間軸で示した図。企画提案の5つのプロセスが挙げられている。1つ目は情報収集、2つ目は情報提供、3つ目は対話、4つ目は企画書の作成、5つ目は調整。その後プロジェクトスタートとなる。企画提案は5つのプロセスを総合したものとなるが、それは日常的に繰り返し、習慣化するものである。

 企画提案は、「1.情報収集」「2.情報提供」「3.対話」「4.企画書の作成」「5.調整」と、5つの段階を踏んで進めていくと効果的です。

「情報収集」から方向性を見定める

 まずは「1.情報収集」からみていきます。これは、デザインプロジェクトの機会をつくるために、各所から情報を集めていくステップです。

 企業内のデザイン組織であれば、自社の事業課題を集めて分析したり、社内の各部署に課題を聞きに行ったりすると良いでしょう。デザインエージェンシーであれば、一般に共通する経営課題に対してデザインで成果を出せる部分を検討したり、業界ごとに貢献できるポイントを見出したりといった作業です。いずれも、社内SNSやウェブサイトをデスクリサーチして情報を得ると同時に、さまざまな場所に顔を出しておくなど、足で稼ぐ部分も不可欠です。

 重要な情報は人に会わないと得られないものです。問題や課題がすでに表面化している段階では、その対応はもう始まってしまっています。問題や課題が公開され、かつ周知されている状態では、もはやデザイナーが介入できないことも多いもの。デザイナーが企画の初期段階から仕事をしたいのであれば、問題や課題がまだ顕在化していない状態をつかまえると良いでしょう。「問題や課題が表面に表れておらず、まだ情報としてあがっていない状況」をキャッチするイメージです。

 情報収集をする際のポイントは、「自分ができること」にとらわれすぎないこと。自分のスキルを主語に置くと、どうしても問題把握に対してバイアスがかかってしまい、視野を狭めてしまいます。たとえばUIデザイナーであれば、どうしてもUIで解決できそうな問題ばかりに着目してしまいがちです。

 自分ではなく、デザインチームの能力を主語に考えると、自然と視野が広がります。さらに言うと、チームを超えて「デザイン」全般にまで広げるとなお良いでしょう。つまり、「デザインで解決できることは何か」という問いです。最初は視野を広く持っておくことに越したことはありませんし、仮に自分たちでできない問題があったとしても、外部からできる人に加わってもらい解決すれば良いのです。

模式図。主語を拡大することで問題把握の視野が広がる様子を示した図。デザイナー個人を主語とした問題把握は視野が狭い。デザイナー個人の主語をデザイン組織に拡大し、さらに「デザイン」一般に拡大することで、問題把握の視野が広範になる。

 どのような領域(事業・組織・業界・職種など)に対して、どんなアプローチをすれば良いかが決まれば、このステップは終了です。たとえば、企業内デザイン組織であれば「営業部に対してデザインリサーチの有用性を伝える」というように方向性を決めると良いでしょう。

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