【新連載】夢中が仕事になる時代──VTuberが切り拓いた新たなクリエイターのかたち

【新連載】夢中が仕事になる時代──VTuberが切り拓いた新たなクリエイターのかたち
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 本連載では、新たなマーケティング施策として注目されている「VTuber」を活用した取り組みにフォーカス。VTuberマーケティングやキャスティング、事業企画などを支援しているuyetの代表プロデューサー金井洸樹さんによる連載の第2弾では、VTuberのクリエイターとしての側面に注目し、その可能性を探ります。初回となる今回はVTuberがクリエイター社会にもたらした変化についてです。

 最近目にしたり耳にしたりする機会も増えた「VTuber」ですが、「バーチャルYouTuber」という言葉が世に出たのはおよそ9年前。まだ10年経っていません。その始まりは、キズナアイさんが活動を開始した2016年の11月末にさかのぼります。

 キズナアイさんは、活動開始当初YouTubeのチャンネル登録者数は1万人程度だったものの、その後国内外から注目されるようになり2017年2月には10万人を突破しました。そこから複数回のアカウント停止などにみまわれながら3ヵ月で登録者は50万人に到達。VTuberという存在が世間に知られるきっかけとなり、バーチャルタレント文化の礎を築きました。

 そのあと「VTuber四天王」が活動を開始し、にじさんじ、ホロライブプロダクションなどさまざまなVTuber事務所が設立。コロナ禍による外出制限で世界的に動画コンテンツの需要が高まり、VTuber業界への注目度は高まっていきました。そして、大手二大事務所を運営する企業が短期間で上場を発表をするなど、VTuberはエンターテイメントの新たなジャンルとして成長を続けています。国内市場規模は2020年度の144億円から4年で、約5倍となる800億円規模にまで拡大しました。

出典:GameBusiness.jp
出典:GameBusiness.jp

VTuber業界の発端はチャレンジ精神

 もともとYouTubeは、生身の人間が情報を発信するプラットフォームとして認識されていました。また、VTuberが登場したあとも、キャラクターを作り動かすためには、モデリングやモーションキャプチャーなどを活用しなければならず、技術的にも経済的にも高いハードルがありました。

 そうした状況でVTuberという前例のない領域に飛び込んでいった制作者や配信者は、ある意味でのチャレンジ精神が必要だったと言えるでしょう。

 注目すべきは、VTuber市場は当初から産業化を目指していたわけではないことです。スタートは、キズナアイやミライアカリ、電脳少女シロや輝夜月、ときのそらなど、企業側の新しいエンタメをつくるという気概を感じさせるプロジェクト。そうして突き動かされた黎明期の好奇心を動機に、企業はVTuber業界へ参入しました。そして、技術の進化とともにコンテンツが発展し、次第に業界としての輪郭が浮かび上がってきたのです。

技術の進化がVTuberの大衆化を後押しする

 キズナアイさんのデビューに続き、2017年〜2018年にかけてVTuber業界は一気に存在感を高めていきました。そのきっかけとなったのが「VTuber四天王」と呼ばれる黎明期の人気VTuberたちです。2017年8月にデビューした電脳少女シロさん、同年10月のミライアカリさん、11月のバーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん(ねこます)さん、12月に登場した輝夜月さんの4人が「VTuber四天王」として知られるようになりました。彼らの個性豊かな配信内容がSNSで話題となり、VTuberという新しい存在が認知されるようになっていったのです。

 そうしたなかでANYCOLOR株式会社(当時:いちから株式会社)が運営する「にじさんじ」、カバー株式会社による「ホロライブプロダクション」のようなVTuber事務所も誕生します。タレントを束ねてマネジメントする体制が整い始めたことでVTuber業界の規模は拡大し、より多くの人がVTuberに興味を持つようになりました。

 そして、大きな転機となったのがトラッキング技術の発展です。もともとVTuberは、人間の動きをリアルタイムで立体的なアバターに反映させる「3Dモーションキャプチャー」という技術を用いるのが一般的でした。しかし、機材のコストや操作の難しさなど、配信を始めるまでに超えなければならないハードルがたくさんあったのです。

出典:PR TIMES
出典:PR TIMES

 こうした課題を解消したのが、2018年にANYCOLORが開発したバーチャルライブアプリ「にじさんじ」です。このアプリは、iPhone Xに搭載されたTrueDepthカメラを活用し、スマートフォン1台で繊細な表情のトラッキングを可能にしました。

出典:PR TIMES
出典:PR TIMES

誰でもVTuberになれる時代へ

 アプリ「にじさんじ」の影響もあり、それまで主流だった3D配信とは異なった「VTuberの新しい配信形態」が注目されるようになります。Live2Dの技術を使い、イラストを動かしながら話す「2D配信」が広まり始めたのです。2Dモデルは3Dモデルに比べてパソコンへの負荷が少なく、操作も比較的簡単であることから、個人でもVTuberを始めやすい環境が整っていきました。

 この流れに拍車をかけたのが、手軽なアバター制作や配信を可能にするたくさんのツールです。
「FaceRig」は、ウェブカメラを通じてユーザーの表情を読み取り、アバターに反映させるソフトウェアとして知られていました。しかし、VTuberとの親和性の高さが注目されるようになってから、徐々に配信目的の利用が広がっていきました。

出典:VRoid
出典:VRoid

 さらに、ピクシブが開発した3Dアバター制作ツール「VRoid Studio」は、専門的な知識がなくても手軽にキャラクターを作ることができ、3Dモデリングの敷居を大きく下げました。同様にスマホ向けアプリ「カスタムキャスト」も、簡単に自分のアバターを作成できることから、多くのユーザーが利用していました。こうした一連の技術革新やツールの普及により、やってみたいと思っていた人々がVTuberを始められるようになっていったのです。

 ただ、当時の2Dや3Dのアバター制作ツールではアバターのテンプレートが限られていたため、「自分だけのオリジナルキャラクターを持ちたい」というニーズが高まっていきました。これがきっかけとなり、イラストレーターやモデラーといったクリエイターへの需要が急増します。