クリエイターエコノミー協会は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングと共同で、国内のクリエイターエコノミーに関する調査を実施した。
調査結果ダイジェスト
- 国内クリエイターエコノミーの市場規模は1兆8,696億円で、前年比13.0%増
- 推し活を支える有料会員制や投げ銭機能の普及が、クリエイターとファンの結びつきを強化し、クリエイターの収益拡大に寄与
- 越境ECやn次創作のグローバル展開により、海外市場における日本発コンテンツの認知度と需要が急拡大
- クリエイター支援サービスの領域拡大により、制作支援ツールや販売支援プラットフォームの利用が進み、活動環境が向上
調査実施の背景
近年、動画や文章、イラストなどデジタルコンテンツの提供や、自身で制作したグッズやスキルの販売など、クリエイターの活躍の場が大きく広がっている。また、クリエイターのマネジメントや、事務手続きをサポートするサービスなど、クリエイターの活動をさまざまな側面で支援するサービスも登場し、クリエイターを中心としたこれらの経済圏、“クリエイターエコノミー”が拡大している。
2022年に同協会と三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が共同で実施した調査では、日本のクリエイターエコノミー市場が世界全体の約10%を占め、今後も堅調な成長が見込まれることが明らかになった。しかし、生成AIなどの技術的な変化や誹謗中傷への対応をはじめとする、社会的な変化を加味したクリエイターのサポートが求められていることが明らかになり同協会としても対応を進めている。
本調査は、2024年6月から9月にかけて実施し、市場規模の推計に加えカバーおよびアドビの2社に対してインタビュー調査を行い、直近のトレンドについても考察した。
調査結果詳細
国内クリエイターエコノミーの分類と主なサービス
同調査では、クリエイターエコノミーに関連する企業やサービスを「プラットフォーム」と「支援サービス」のふたつに大きく分類した【図表1】。
「プラットフォーム」は、クリエイター活動の場を提供するものであり、さらにふたつのカテゴリに分けられる。ひとつめは、クリエイターがモノやコンテンツ、スキルを提供する場として機能するプラットフォーム。具体的には、EC(電子商取引)や動画投稿サービス、スキルシェアサービスなどが含まれる。ふたつめは、クリエイターとユーザー(ファン)を結びつけるプラットフォームであり、クラウドファンディングやファンコミュニティサービス、有料メンバー登録機能などがこれに該当する。これらのプラットフォームは、クリエイターの創作物だけでなく、クリエイターの活動そのものを価値として提供する役割を担っている。
一方、「支援サービス」は、クリエイターの活動をより円滑に進めるためのツールやサポートを指す。たとえば、クリエイターが創作物を制作する際に活用する動画編集ツールやクリエイター向けPC、クリエイターと企業をつなぐマッチングプラットフォーム、さらには確定申告をはじめとした事務手続きやオペレーションをサポートするサービスが含まれる。これらの支援サービスは、クリエイターの活動効率を高めるとともに、活動の幅を広げる重要な役割を果たしている。
さらに、近年では、クリエイター関連事業者が従来の枠組みを超えた幅広いサービス提供を行う傾向が見られる。たとえば、既存のプラットフォームが独自の決済機能を提供するケースや、生成AIを活用したテキスト補助サービスの導入などが挙げられる。このような動きは、クリエイターエコノミーのさらなる成長を後押しする重要な要素となっている。
国内市場規模は前年比13%増の1兆8,696億円
2023年の国内クリエイターエコノミー市場規模は1兆8,696億円と推計され、前年から13.0%増加した。市場は引き続き堅調な成長を見せており、2021年からの年平均成長率(CAGR)は17.4%に達している。主要な収益源として、モノやグッズ販売、スキルシェア、動画投稿関連の広告等が市場全体の約7割を占めている。
市場の成長を支えている要因のひとつに、ファンのエンゲージメントを深めるメンバーシップや投げ銭機能といった、クリエイター活動を直接支援する仕組みがある。これらの仕組みは、ユーザーからの直接課金を促進し、クリエイターの収益を拡大する役割を果たしている。
また、クリエイター支援サービスへの支出が増加し、制作支援ツールや販売支援プラットフォーム、オペレーション支援サービスの利用が拡大している。これらのサービスは、作業効率や収益性の向上に欠かせない存在であり、クリエイターエコノミー市場の成長を後押ししている。
海外市場との比較においても、日本のクリエイターエコノミー市場は注目されている。2023年の海外クリエイターエコノミー市場規模は約18.5兆円(1ドル=145円換算)と推定され、日本市場はその約10%を占める規模。これにより、日本市場が世界的にも重要な役割を果たしていることがわかる。
国内クリエイターエコノミー市場の拡大要因
2022年から2023年にかけて、国内クリエイターエコノミー市場は多様な要因が複合的に影響し、着実な成長を遂げた。本調査では、市場拡大の背景として以下の3つの主要な要因について考察する。
1. 推し活の普及
消費者間で広がりを見せる「推し活」が、クリエイターエコノミー市場の成長を支える大きな原動力となっている。推し活とは、特定のクリエイターを熱心に応援する活動を指し、その内容は関連グッズやコンテンツの購入、イベントへの参加、SNS上での情報共有など多岐にわたる。とくにオリジナルコンテンツから派生して新たな創作物が生まれる「n次創作」の広がりが、クリエイターの注目度を高めることに寄与している。
2. サービスの領域拡大
生成AIをはじめとする新技術の導入や、既存サービスの機能拡充が、クリエイター活動の利便性を高めている。たとえば、生成AIを活用したテキスト補助機能の導入や、プラットフォーム事業者が独自の決済機能を提供するケースが増加している。このような提供サービスの多様化にともない、クリエイターは創作活動を続けやすくなり、消費者にとってはクリエイター活動に触れる機会が増えた。
3. クリエイター支援環境の整備
クリエイターが安全かつ自由に活動できる環境整備も進んでいる。たとえば、2024年10月の商業登記規則の改正により、法人化を進めるクリエイターが個人情報の公開リスクを回避しやすくなった。また、いわゆるフリーランス新法の導入により、クリエイターの権利や活動環境がいっそう守られるようになった。これらの施策は、クリエイターが安心して活動を続け、さらにステップアップしていくための重要な動きとなっている。
国内クリエイターエコノミーにおけるトレンド
国内のクリエイターエコノミー市場では、近年、海外展開の進展や事業者間連携の強化といった新たなトレンドが見られる。これらふたつのトレンドについてカバーとアドビへのインタビューを踏まえて整理する。
海外展開の進展
日本発のクリエイターコンテンツは、アニメやVTuberを中心に海外市場で高い評価を得ている。とくに、VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を展開するカバーは、英語圏やアジア市場で現地語配信やタレントの採用を進め、グローバル展開を強化している。VTuberがアニメ文化と親和性が高い特性を活かし、すでに一定のファン層が存在する地域への供給を軸とした事業展開を推進している。
また、越境ECプラットフォームを利用した日本のクリエイター作品の流通も進展している。メルカリは台湾向けに専用サイトを立ち上げ、現地消費者の需要に応えている。このような取り組みは、日本発コンテンツへのアクセス向上に寄与している。
一方で、海外展開には規制対応や現地の文化に適応するローカライズが必要。言語や物流の課題を克服しつつ、知的財産保護や公式グッズの流通整備などの対応が求められている。
事業者間連携の強化
クリエイターエコノミー市場の拡大にともない、既存サービスの付加価値向上、既存プラットフォームへの送客、新たなコミュニティの共創などを目的とした関連事業者間の連携が進んでいる。たとえば、noteとアドビの協業では、クリエイター向けのデザインツールを提供し、誰でも簡単に画像が制作できるようになった。また、BASEとYouTubeの連携では、ECショップのオーナーが動画内で商品を紹介・販売する仕組みを実現し、クリエイターの収益化を支援している。
さらに、新たなビジネスコミュニティの創出も進行中。LINEヤフーとアドビの協業の狙いの一つとして、ノンプロ層(趣味や副業クリエイター)を中心に両サービスの会員間で受注・発注などの交流が行われるコミュニティの共創が挙げられており、クリエイター活動の裾野が広がっている。今後も事業者間の連携が促進されることで、各サービスの利便性向上やサービス間のシームレスな連携にともなう、クリエイターが創作活動を行う環境のより一層の整備が期待される。
調査概要
- 調査期間:2024年6月〜9月
- 調査方法:国内・海外のクリエイターエコノミーに関する文献調査、企業インタビュー