何かを構想したり、つくったり。デザイナーは頭と手を動かしアウトプットします。
でも、デザイナーの仕事の価値はそれだけではありません。デザインの視点から発する語りによって人の心を動かせる。それによりビジネスの成果を生み出すことができます。
そのひとつのありかたが「営業」です。デザイナーと営業部門は一見遠い存在に感じますが、デジタル化によって連携が進んできています。今回は営業とデザインの協働を考えてみます。
顧客に喜ばれるデザイナーのコミュニケーション
これは、あるBtoB企業の営業担当者が話してくれたことです。
「デザイナーが商談に同席すると、得意先はみんな喜んでくれるんです。特別な人が来てくれたと商談の空気が変わります。こちらが手厚い対応をしていると思っていただけるんですよね」
別の企業の営業担当者はこんな話もしてくれました。
「デザイナーはその場でスケッチを描くように、絵で話すことがありますよね。そうすると、顧客も前のめりになってくれます。抽象と具体が合わさって話が立体的になっていき、話がわかりやすくなります。論点も絞られていきます。営業として助かります」
さらに、別の企業の営業担当者は違った角度から指摘します。
「営業にとって、顧客と関係を深めることは極めて重要。そのため、言いづらいことは言わずに忖度することもあるんです。長期的な関係を重視して、細かい部分は言わないでおこうと。でも、デザイナーは相手の意見に耳を傾けながらも、ユーザー視点で正論を言います。営業は目の前の顧客を重視しますが、デザイナーはそこにいないユーザーを大事にする傾向がある。視点が違うので、商談に奥行きが出てきます。仮に、デザイナーが主張しすぎることがあっても、私が会話をコントロールすれば良いだけ。別角度から補完しながら上手く進められているんじゃないかと」
デザイナーがユーザー視点でふるまうと、顧客にとって具体的にどんな良いことがあるのか。その担当者に見解を聞いてみると、「良いことですか?顧客にとっては、自社における課題の論点が明らかにされるのが、良い部分なんだと思います。ユーザーから見た事業や業務の課題を、外部から客観的に指摘してもらえる。もちろん、自分たち営業もそんな洞察を与えられるようにしていますが、デザイナーは具体的な形をイメージして話しますから、別の角度からの発見があるんでしょうね。デザイナーはとくに体験に対する感度が高い。とりわけデジタル体験が重要であることは顧客も知ってのことですから、自然と説得力が出てくるんですよね」と。
また、別の企業の営業担当者はこんな形でも話してくれます。
「顧客の社内の意思決定をサポートするのも営業の仕事です。私たち営業が提案したプランに対して顧客担当者が前向きであっても、先方社内の意思決定に繋げていかないと受注にはなりません。そこには、社内で納得の得られるシナリオが必要です。デザイナーが発したユーザー視点の内容が、シナリオのヒントになることもありました」
それはどういうことなのか。その担当者に詳しく聞いてみました。
「ユーザー視点のメリットって、部署を横断して響くものなんです。意思決定には、複数の部署や役職の方が関わります。それぞれの立場を貫く軸として、ユーザー体験の具体的な話が役立ちます。もちろんユーザー視点だけが重要なわけではないですが、納得感は上がります」
デザイナーが顧客との商談に参加することには多くのメリットがある。となると、デザイナーは頻繁に商談に参加しているのか。その担当者に確認してみると、
「いえ。デザイナーが参加するのは一部の商談だけです」
デザイナーも忙しいからですか? 私が尋ねると、
「それもありますが、案件や商材との相性ですね。先方の問題を分析してこちらから創造的なソリューションを示すパターンや、それをもとに先方との協働を提案する案件では、デザイナーの視点がとくに役立ちます。提案や営業に工数がかかるような大規模な案件は、デザイナーに入ってもらいます。それはすなわち上顧客や規模の大きい新規のお客さま。しっかりチームを組んで対応します」
知恵を結集して創造的な解決策を提案していく点は、デザインの仕事と同じですね?「そう思います。営業もデザインも思考ロジックが似ていますし」
もはや、営業とデザイナーは問題解決のためのひとつのチームだと? 「そう思います」
デザイナーは売上に貢献していると? 「もちろんです」