デザインしようと意気込むも「コンサル」のような役割も望まれる。そんな期待に気づかずに、仕事が行き詰まることもある。
「デザイン」と「コンサルティング」のふたつの機能は、ビジネスの現場では融合に向かっているように見えます。企業のなかでも、デザイナーが「デザインコンサルタント」の肩書で社内に価値提供する例もあります。
デザインとコンサルティング。必ずしも二項対立的ではないものの、デザイン界隈とコンサル界隈ではカルチャーが異なる。水と油のごとく「コンサル」という言葉を好まないデザイナーも多い。そんななかにあって、デザイン、もしくはデザイナーの存在は、複雑化する社会の要請に反応する形で徐々に「コンサル化」への変質を進めています。「コンサル」方向に引き寄せられ、「デザイン」そのものが更新されているようにも感じ取れます。
5年目からのデザイナーは、デザインの「コンサル化」にどのように対応すれば良いのか。ここでは、デザイナーから見た、とくに注意したいコンサルティングとのギャップを「期待」「成果」「姿勢」「視点」の4つの観点から捉え、その対応策を考えてみたいと思います。受託のデザイナーの話が中心になりますが、事業会社のデザイナーこそ活用できる示唆も含みます。デザイナーは何に順応し、何を守るのか。そんな問いを抱えながら進めていきます。
コンサルタントへの期待をつかむ
そもそも、コンサルティングとは何でしょうか。「企業や組織が抱える経営課題や業務上の問題に対して、専門的な知識や経験を持つコンサルタントが、解決策を提案し、実行を継続的に支援するサービス」というのがAIの回答ですが、おおむね共通理解に近いものでしょう。複数の文献にあたっても同じような説明が続きます。
このコンサルティングの定義は、デザインと似ているところがありつつも、コンサルタントという特別な存在そのものが価値となっている点や、主体的に提案に動き、組織側の実行を継続的に支援する点に、両者の違いを感じ取ることができるでしょう。
私は、デザイナーでありながら、クライアントから「コンサルの人」と呼ばれて仕事をした経験があります。そのなかで最初に感じた課題が「コンサルタント」としての特別な期待でした。それを言葉にするならば「高級な人材」「高度なプロフェッショナル」。さらには「高額な人材」といったイメージもそこに貼り付いてきます。
1時間いくら。1分いくら。作業をしていても、会議をしていても、1分1秒にお金がかかっている。作成する資料にはどれくらいの価値があるか。会議の発言の1つひとつにどれくらいの価値があるか。一挙手一投足に期待があり、そこに価格がついてくる。
デザイナーには、制作物などの成果物や、デザインによってもたらされるビジネス成果こそが自分の仕事の価値だと感じる人も多いでしょう。それは正しい認識ですが、コンサル的な期待が生じている現場では、自分という存在そのものに価値と期待が生じ、同時に経済的な意味での責任がともなっている事実も忘れてはいけません。自分の振る舞いは期待に応えられているのか、自分の知識はその期待に沿える量や鮮度を備えているのか、日頃の点検が必要なのです。

外部だからこそ輝く力
コンサルタント、もしくはデザイナーという存在そのものに価値が生じうると言いましたが、その価値はただ「仕事ができる」ことだけではありません。外部から支援するからこそ発生する特別な存在価値もあります。
代表的な価値は「ゼロベース思考」です。その企業・組織内で検討され積みあげてきた過程をいったん無視し、ゼロベースから考えられる。もしくは、その組織や属する業界の常識や慣習を気にせず問題を捉えられる。さらには、組織の力学で生じる思考の膠着状態や歪みから逃れられる。つまり、「あの偉い人が言ったから実行すべきだ」「あの部署が企画したことだから避けられない」という事情を廃して柔軟に発想できる。
受託のデザイナーであれば誰しも、クライアントから「忌憚ない意見を言ってほしい」と促された経験があるはずです。その「忌憚ない意見」を研ぎ澄ますイメージです。最初は生活者視点の素朴な言説でも良いでしょう。ただ、キャリアを重ねていくと、社会や市場視点の外部因子と、その企業・組織で起こっている力学や事情といった内部因子を突き合わせた推察が背景にあるゼロベース思考が求められてきます。
それがクリティカルであればあるほど実行の難易度が上がっていきますが、その突破のためにも、コンサルタントやデザイナーが持つ外部者としての客観的な存在価値が役立っていきます。「社外視点から見たらこの点が問題のようだ」「あのデザイナーが言ったからこうすべきだ」と社内を動かせるような外部圧力としての価値が生じるのです。
とくに有名なコンサルティングファーム、実績のあるデザイナーになると、外部圧力としての利用価値が高まっていきます。仮に自分がそうでなかったとしても、「依頼者は自分を外部圧力としてどのように利用しようとしているか」を感じとり、その価値に即した行動を意識することは有意義でしょう。「依頼者は組織をどう動かそうとしているか」に敏感になることです。