【最終回】デザインとコンサルティングの撹拌──デザイナーは「コンサル化」にどう対応するか

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カタリストとしてのコンサルタント

 コンサルタントやデザイナーは、企業・組織に変化を起こすカタリスト(触媒)としての存在価値もあります。コンサルタントやデザイナーは、依頼を受けた部署が持つ政治的ポジションに影響を受けることも多々ありますが、究極的には部門を越境し、部署の範囲ではなく、企業・組織全体に成果をもたらす存在であるべきです。

 社内の多方面にインタビューし、全社視点からフラットに示唆を出すといった活動は外部者だからこそできること。現状起こっている課題に対して、責任追及の文脈を外した生産的な議論を進めやすいのも外部者でしょう。私自身もクライアントのデザイン組織が抱える課題解決のために人事部と接触し、デザイナーの待遇整備に動いたこともあります。外部者だからこそ各所をつなげ、変化の起点になれる場面も多くあるのです。

 その人事部と対話できたのは、外部者としての存在価値があっただけでなく、私が外部だから持ち得る情報を蓄積していたことも大きな要因です。具体的には、デザイン組織のトレンド、専門職人事体系、デザイン人材市場の概況、給与や報酬水準の傾向、デザイナー育成の課題。このような内容です。

 知識だけでなく経験も含めて、相手に対して気づきを提供できるか。そこに私自身の価値がありました。デザイン組織を強化するためには、人事とデザインの両方をかけ合わせた外部情報が必要だったのです。その組織では接触しづらい情報や、蓄積しづらい経験を提供することも、コンサルタントやデザイナーの存在価値として重要な要素でしょう。

模式図。デザイナーも意識したいコンサルタントへの期待を表した図。ひとつめは「ゼロベース思考への期待」であり、組織内で積み上げた検討過程を制約としない思考や、組織や業界の慣習に囚われない思考への期待。ふたつめは「外部圧力としての期待」であり、客観的な意見を述べ、組織の問題を相対視する機会を提供し、外部意見として利用価値を生むことへの期待。3つめは「カタリストとしての期待」であり、部署を横断し、組織に変化を起こす起点になる期待。社内政治や評価の影響を受けづらいこともその期待の背景にある。4つめは「情報提供への期待」であり、組織内では接触しづらい情報や、蓄積しづらい経験を提供し、組織に気付きを与えることへの期待である。

「デザインコンサルタント」への期待の推移

 私の手元に1冊の書籍があります。『デザインコンサルタントの仕事術』(ルーク・ウィリアムス著・英治出版)です。海外のデザインコンサルティングファームのノウハウを紹介したもので、デザイン思考をもとにした事業開発や組織改革について描かれています。日本では2014年に刊行。私はこの本を熱心に読んでいました。良書と言えます。

 そんなこの本でとにかく頻出するのが「破壊的」という単語。「常識破り」も多く登場します。当時は世界的にも「イノベーションブーム」の時代。既存の価値観や業界慣習を打ち壊していく存在として、デザインに注目が集まった時代でもありました。「戦略系コンサルはもう古い」という極端な言説すら飛び交いました。

 Mac片手にラフな服装。さっそうと登場し、破壊的なアイデアを残す──。当時のデザインコンサルの典型的な印象はこのようなものです。イノベーションへの切迫感とデザイン思考への期待から、ある意味での「異物」として、デザインコンサルタントが許容される雰囲気がありました。デザインは非日常であり、通常のビジネスコードには乗らない存在と見られました。デザインコンサルタント自体も「常識破り」で「破壊的」であれ。そんな期待があったことも事実です。

 時は流れ、「『デザイン経営』宣言」以降、産業界でのデザインへの理解は深まっていきました。イノベーションブームも落ち着きました。デザインに対して無邪気に破壊的志向性を求めるのではなく、着実なビジネス成果を求める声も大勢となっていきました。

 同時に、デザインコンサルティング事業を掲げる企業や個人も増えていきました。デザインする対象に無形のものが増え、複雑で大規模なプロジェクトが増えてきたことと無関係ではありません。制作物単価が成立しづらい状況が増えたこと、デザイナーからも自分の仕事に付加価値を付ける動きが活発に進んだことも関係します。さらには戦略系コンサルティングファームがデザインファームを買収する動きも進み、既存のコンサル分野からデザイン分野への染み出しが起こった要因もあるでしょう。結果として「デザインコンサルティング」がビジネスの世界で日常化していきました。

 しかし一方で、「破壊的」なデザインコンサルティングへの期待が消えてなくなったわけではありません。プロジェクトによっては、その期待が大きく前面にでてくることもあります。ゼロベース思考のジャンプ率をいかほどに設定するのか。「デザインコンサルティング」の経緯や背景を押さえた上で、デザイナーへの期待がどんなものであるか、その都度推し量る必要があるでしょう。