色は「思いやりのインターフェイス」 UIデザインにおける伝わる色のつくりかた

色は「思いやりのインターフェイス」 UIデザインにおける伝わる色のつくりかた
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 デジタルプロダクション「factory4」でアプリやさまざまなIoTプロジェクトのUIUXデザインを手がける新谷友樹さんが、UIやUXにまつわるトピックを解説する本連載。今回は「UIデザインにおける伝わる色のつくりかた」についてです。

 こんにちは!Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUI/UXデザイナー、新谷です。

 今回フォーカスするのは「色とUIデザイン」。先日、ポーラ美術館で開催されていた「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」を鑑賞し、「色」に触発されたことがこのテーマを選んだきっかけです。

 「誰にでも届く色」をUIでどのように実現するか。色はデザインの印象を左右するだけでなく、操作性や認知性、状態のわかりやすさを支える重要な要素です。こうした多様な役割を持つがゆえに、色にまつわる設計ではジレンマが生じることもあります。たとえば、「ブランドカラーやマーケティング戦略」と「UIの実用性やアクセシビリティ」がしばしば相反するのです。実際、次のような課題に直面したことがある人も多いのではないでしょうか。

  • ブランドカラーをそのまま使ったら読めないボタンになってしまった
  • ダークモードで色のバランスが崩れた
  • 色覚に配慮したはずなのに、まだ誰かにとって使いづらい

 こうした問題を、感覚ではなく構造とロジックで解決するために役立つのが「UIカラー作成ツール」です。ひとつの例としてこの記事では、「Accessible Color Palette Generator」というツールを軸に、誰にとっても優しい「色の機能設計」の考えかたを紐解いていきます。

テーマやブランドカラーだけでは届かないユーザーがいる

 UIデザインにおける「色」は、ビジュアルとしていちばん目に入る情報でありながら、「もっとも誤解されやすい要素」でもあります。たとえば企業向けプロダクトのUIでは、ブランドカラーを中心としたビジュアル戦略と、実用性・アクセシビリティを求めるユーザー体験設計の間で、往々にしてジレンマが生じます。

 これは、ブランド部門がマーケティングの延長として「視覚的な一貫性」を求める一方、UIデザイナーや開発者は「操作性」や「可読性」、「状態認知」などの機能要件を優先しなければならないからです。その結果、プロジェクト内で「このボタン、見えにくいんだけど……」「でもそれがブランドカラーだから」といった嚙み合わない会話が頻発することになるのです。

 そこで重要になるのが、「色をどう機能として設計するか」。 今回はその実践的なアプローチとして注目すべきツールのひとつ、Francis Wu氏の「Accessible Color Palette Generator」を紹介しながら進めていきます。

求められるアクセシビリティ視点のカラー設計

 近年、デザインシステムにおいて「Semantic Color(意味を持った色)」の導入が標準化されつつあります。  GoogleのMaterial Design 3や、IBMのCarbon Design Systemなどのいずれも、「色の意味」と「状態」を構造的に整理し、UIコンポーネントへ一貫して適用できる体系を持っています。

出典:Material Theme Builder
出典:Material Theme Builder

 その理由は明快で、「色は装飾ではなくUIの言語の一部だから」。とくにエンタープライズ向けのUIでは、次のような状況が頻繁に起こります。

  • 表やリストが密集している画面で、エラー/成功/警告状態が瞬時に把握できない
  • ダークモード時に、背景とボタンが同化してしまい操作に迷いが生じる
  • 色覚特性によって、状態色の違いがまったく認識できなくなる

 このような状況を未然に防ぎ、すべてのユーザーにとって公平なUIを構築するためには、感性ではなく論理で色を設計する力が求められます。

色は誰にとっても同じように見えるわけではない

 色は色覚特性の違い、視力の変化、環境光、ディスプレイの違いなどによって、ある色が「意味を持たない」状況は日常的に起こりえます。だからこそ、UIで使う色は「デザインの印象を整えるため」だけでなく、「伝える」ための色設計が求められます。

ユニバーサルカラーという視点:すべての人に機能する色

 また色覚異常の有無にかかわらず、誰もが安全・快適に認識できる色設計を目指すデザイン手法として「ユニバーサルカラー」という考えかたも重要です。このユニバーサルカラーは、次のような多様なユーザーに配慮するアプローチとなります。

  • 色覚に制限があるユーザー(例:赤緑色弱)
  • 高齢者など視力が変化しているユーザー
  • 一時的な視認困難(例:日差しの強い屋外)
  • 読み書きが困難なユーザー(識字障害など)
  • 色の意味を文化的に共有しづらい海外ユーザー

 色に頼りすぎるUIは、伝えたい情報が一部の人にしか届かないというリスクを常にともなっています。

 色は単なる装飾ではありません。たとえば「赤」は警告、「緑」は成功など、意味のあるフィードバックを与えます。しかしこの前提は「すべての人にとって同じように見えているわけではない」という課題をはらんでいることは頭に入れておくべきでしょう。こうした現実を前提としたデザインこそ、今のUX設計に不可欠だと言えます。