【最終回】デザインとコンサルティングの撹拌──デザイナーは「コンサル化」にどう対応するか

  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket

成果創出に妥当な組織のエネルギーはどれくらいか

 デザイナーは価値創出のために「発散」や「探索」の重要性を説きます。ネガティブ・ケイパビリティ、つまりは不確実で曖昧で未知な状況に適応し、短絡的な答えを出さないで考え続ける能力も大切にします。私も同じ考えです。

 しかしその反面、それはチームや組織内の情報量が増えすぎたり、検討期間が長くなりすぎたりする結果を招くかもしれない。重すぎるプロジェクトが組織内で扱いが難しいものと捉えられたり、複雑な情報から意思決定のコストが上がったり、プロジェクトを含めた組織活動の全体がスムーズに進まなくなったりする可能性もあります。

 そのため、コンサルタントは「活動量」に向けた視点も大切にします。「活動量」とはプロジェクトの実働工数だけではありません。社内で話を通していく合意形成や意思決定への労力も含めた、組織で人や情報や感情が動くエネルギーの総体です。

 コンサルタントはそういった全体の「活動量」に敏感であり、それを起点に思考するスキルも持ち合わせています。タスクの工数はもちろん、合意形成に誰が関わるか(関わってもらうか)、誰を説得すべきか、その意思決定に必要な情報の質と量はどれくらいで、どれほどのエネルギーを注ぐのが妥当であるのか。

 もちろん、この思考にこだわりすぎると、組織力学に適応しすぎた予定調和にはまっていく危険もあります。ここでもバランスが重要なのは言うまでもありません。

デザイナーより「頭が良い」のか?

 私はクライアントワークとして、有名な戦略系コンサルティングファーム出身者が多く在籍するスタートアップ企業を支援したことがあります。常駐に近い形で関わり、デザイナーは私を含めてごく少数。そのような環境で元コンサルタントの仕事にふれる機会がありました。

 第一印象は「猛烈に頭が良い」「切れ味が鋭い」。私が作成するなら半日はかかりそうな資料を、元コンサルタント達は30分ほどで作ってしまう。それを隣の机でスラスラと。間近で見せつけられる迫力に、しばらくは劣等感が止まらない毎日でした。自分は頭が悪いのかと勉強不足の過去を猛省する気分でもありました。

 それでもクライアントワークですから、価値を出さないと私は生きていけません。「コンサル思考」に触れ、密かに学びながらも、デザイナーとしてのポジションと役割を意識し、成果に向けて奮闘していました。

 元コンサルタントの思考スピードと同等の速度で仮説を描き、周囲に示しながら議論を往復する。突拍子もない私のアイデアを皆で叩いていくことで、いつのまにか筋の良いアイデアに変貌していく。ユーザーが共感しそうなビジュアルを作り、「こういう感覚ですよね?」と周囲の感性をシンクロさせていく。仲間のデザイナーとUIプロトタイプを作り、ユーザーの生の感情と行動を元コンサルタントたちと観察し、共感をシェアしていく──。

 そんな活動を繰り返していく中で、徐々に自分がリーダーシップを発揮する場面が増えていきました。デザイナーである私が、元コンサルタントの集団をファシリテーションしている風景も特別なものではなくなりました。劣等感は霧消し、それぞれの長所を活かし合う、噛み合った感覚だけが残りました。

 知性にはいろいろある。そんな素朴な真実が自分の脳裏に浮かびました。

「デザイン」をどのように更新させるか

 デザインとコンサルティングは混ぜ合わされています。産業のニーズによって両者は撹拌され、社会的機能として均質になろうと交錯しています。自分はデザイナーであると、どれほど強く主張したとしても、数年後には、コンサルタントとしての期待が入り交じるデザイナー像が一般的なものになっているかもしれません。そのデザイナー像が成果を出し、豊かな社会に導くならば、それは「デザインの進化」と呼ばれるかもしれません。

 今回のテーマは「コンサルティング」。自分には難しいものもあったことでしょう。自分が置かれる環境では必要ないと思ったものもあったでしょう。それでも、今回の情報の中に皆さん自身の課題を埋めるものがあったならば、少しずつ取り入れていくことで、何らかの障害を乗り越えられるかもしれません。

おわりに

 全14回にわたった連載も今回が最終回です。デザイナーが軽やかに活躍し続け、組織や社会をしなやかに変化させていくために。そしてさらなる高みを目指すために。

 毎回、力みすぎて長文が続く連載となってしまいました。それでも読んでくださる人がいることを励みに感じておりました。皆さんのデザインが一歩でも進むことがあったならば、本当に嬉しく思います。

 そして、このコーナーへの反響を多くいただいたこともあり、このたび書籍として発売されることになりました。本連載の第13回までの記事と、私のnote記事を合わせ、書き下ろしと加筆修正を重ね、練りに練って完成したものです。『デザイナーのビジネススキル キャリア5年目からの「壁」の越え方』というタイトルで9月16日に発売です。興味を持ってくださる方はチェックしていただけると嬉しいです。

 1年超にわたるお付き合い、どうもありがとうございました。