揺れ動く成果への認識に目を向ける
さて、ここからは、デザインとコンサルティングとのギャップを「成果」の観点から見ていきたいと思います。
事業や経営の枠組みで行われるデザインの成果は、制作物(アウトプット)だけにあるわけではなく、それによってもたらされるビジネス成果(アウトカム)にもある。これは、本連載でもたびたび言及してきたことですし、コンサルティングを主語にしても変わらない原則です。
ただし、実際のコンサルタントを見ていると、「成果」という客観的事実だけでなく、「成果に対する認識」へも注意を向けて行動していることに気づきます。具体的には、プロジェクトの期間中にも依頼者からの期待値を制御し続け、同時に依頼者が持つ「成果への認識」を継続的に確かめていく行動です。
デザインの依頼者もしくは決裁者と陰に陽にコミュニケーションを深め、プロジェクトの前提や背景といった外部状況に変化はないか、成果に向けて動くチームの内部状況に不足はないかを本音レベルで探っていく行動です。問題が生じそうな場合は先回りして動き、依頼者や決裁者の不安を払拭する配慮も徹底します。
これは、リスクマネジメントの目的だけではなく、依頼者や決裁者が動きやすく、組織内で有効な意思決定が行えるようサポートしていくことも大きな目的です。外部要因に変化があれば、「成果」そのものにどんな手を加えればよいかを提案する。内部要因に問題があれば、依頼者に向けられた社内各所からの期待や要求をどのようにコントロールすれば良いかを一緒に考えます。
多くのデザイナーは制作物やビジネス成果に向けてまっしぐらな思考を巡らせます。コンサルタントはそれに加えて、成果そのものがどう捉えられ、その認識がどう変わっていくかもつかんでいきます。客観的で固定的な成果の感覚だけでなく、主観的で変動的な成果の感覚も持ち、依頼者や決裁者の仕事を全方位的に支えようとする姿勢を備えているのです。
提案し続け、組織に変化を起こそうとする姿勢
依頼者や決裁者の仕事を全方位的に支えようとする姿勢。それは、依頼者や決裁者に対して常に提案し続ける姿勢としても見えてきます。
プロジェクトが進む中でも「こんな解決策はどうか」という提案や、プロジェクトを外側から概観的に捉えた上で「このプロジェクトの成果を高めるには、こんな別のプロジェクトも必要ではないか」といった提案を繰り返し行っていくのです。
本連載でも、デザイナーから主体的に提案すべきだと述べてきましたが、プロジェクト中にも常に細かく提案し続ける状況をイメージするとわかりやすいでしょう。提案書を作るような重い動作ではなく、会話の中にさりげなく提案を織り込んでいく動作がよく見られます。
コンサルタントからの提案が増えるとプロジェクトの成果があがっていくのと同時に、そのプロジェクトの枠を越えて、依頼者や決裁者の仕事のクオリティそのものが高まっていきます。そうなると当然ながら、依頼者や決裁者から見て、コンサルタントからの提案は嬉しいもの。提案が欲しいので、コンサルタントへ前向きに情報を提供するようになる。コンサルタントが持つ情報量が増え、さらに提案の質が上がっていく。このような好循環も生まれます。
コンサルタントはカタリスト(触媒)であると言いました。情報量が増えていくと組織全体を俯瞰した上で何をするべきかといった発想にも磨きがかかっていきます。コンサルタントは組織全体を導いていこうという姿勢があります。そのためにも自分から動き、提案し続ける姿勢を大切にしているのです。
コンサル思考が駆動するための「視点」
いわゆる「コンサル思考」に関する書籍や記事は多く存在しています。論理的思考や仮説思考、情報を構造化し論点化する思考、物事を批判的に考える思考──。挙げればまだまだあるでしょう。デザイナーにかかわらず、営業職や企画職など、多くのビジネスパーソンが「コンサル化」する傾向にあったり、事業立ち上げに意欲的な人が増えたりしている証左かもしれません。
私が所属するデザイン会社のコンセントには、新卒と2年目くらいまでの社員向けに「コンサル思考」のような育成プログラムがあります。現在のデザイン対象は複雑なものが多く、多様な立場の人と協力しながら進めるため、こうした思考が不可欠になっているからです。デザイン制作に特化したいデザイナーであっても、いわゆる「上流」でも存在感を発揮する思考を持たないと、従属的な意味での「下流」へと仕事を押し込められてしまいます。デザイナーの思考とコンサル的な思考をハイブリッドに持ち、必要に応じて切り替えられることを目指しています。
私がこうした育成を見ているなかで感じるのは、デザイナーがいわゆる「コンサル思考」を活用するためには、「根拠」への視点と、組織の「活動量」への視点を持つとさらに活躍できるのではないかということです。
人を動かす「根拠」に敏感になる
デザイナーもコンサルタントもリサーチをします。そこで集まった定性・定量的な一次情報を材料に解決策を思考していくアクションに両者の違いはありません。予備調査でプロジェクトの論点を定め、本調査で示唆を得て、分析を重ねていく段取りも似ていますし、最終的なソリューションの妥当性を示すための根拠として、リサーチ結果を活用していく方法も同一です。
しかし、コンサルタントはそれに加えて「組織が納得する根拠はどのようなものか」も重視します。プロジェクトを主語にした根拠だけでなく、組織を主語にした根拠にも強く目を向けるとでも言いましょうか。組織を動かすために、定性・定量の調査手法を使い分けたり、一次・二次情報の提示の仕方を工夫したりする。ときには組織が納得に至るための「根拠の取り扱い方」を起点に、逆算的にどのようなリサーチをすべきかを考えたりもします。

この考えを突き詰めると、解決策が予定調和になりすぎるきらいもありますので、バランス感覚も重要です。しかし一方で、デザインの最終成果は、組織内の合意形成が健全にまわり、淀みのない意思決定がされてこそ果たされるものです。組織の視点から必要な根拠を考える視点を持ち、そのために必要なアクションについても、デザイナーは思考を深める必要があるでしょう。