バリューチェーン分析から見るデザイナーの活動
デザイナーが営業活動の全体で活躍するにはどのようなことが必要か。それは表面的な「上手く話せる」などではありません。リードや顧客を深く知り、商品・サービスを自分なりの言葉で理解することです。それができれば、自然に自分独自の語りになる。良く話せるようになる。切実な訴えにもなる。そしてひいては、その場に自分がいることの意味になります。
さらに、デザイナーにとって忘れがちなのは、「自社を解釈する」視点です。自社のことを客観的に語れないと、相手からしかるべき存在として見られません。ですがもっと重要なのは「なぜ自社が手掛けると、その商品やサービスが魅力的になるかを言語化すること」です。
自社を解釈すると言いますが、会社案内のような平板な理解に励むことではありません。調べればわかることを相手に聞く行為が有効でないよう、ネットに載っているようなことを自分から話す行為も効果的ではありません。会社を解釈することは、会社という人間集団のシステムを理解し、そのなかで価値がどのように生まれているかを自分なりに理解することです。なぜ他社ではなく、自社と取引すべきなのかを、自分で腹落ちさせておかないと言葉に力が入りません。
自社を解釈するために役立つのが、バリューチェーンの枠組みです。バリューチェーンとは、企業が行う事業活動をプロセスで区分し、どの部分で付加価値が生み出されているか、または生み出すべきかを考えるための手法です。

図では、調達・開発・生産・マーケティング・販売・物流・サービスと区分していますが、あくまで一例です。自社の事業ごとにプロセスを設定し、どの部分が充実し付加価値を生んでいるか、どういった部分が他社と比較して優れているのかを、自分なりに考えてみることが重要です。これは、分析する主体によって解釈が変わるもので、正解はそれぞれです。答えがどこかに書いてあるものでもありません。
たとえば「特定の開発分野が優れている」とか「商品自体に優位性は乏しいものの、マーケティングへの投資や体制が厚く選ばれる要因になっている」というように考察を重ねます。それをそのまま商談で話すわけではありませんが、自分の言葉に自然と説得力が出ていく変化を実感できるでしょう。
バリューチェーン分析は、「企業活動のどこでデザインを活かすか」といった問いへのヒントにもなります。図の中の言葉を使うならば「開発」や「マーケティング」でのデザイン活用はすでに多くの企業で進んでいます。今回は「販売=営業」や「サービス」の段階でのデサインを考えました。ですが「調達」や「生産」や「物流」でもデザイナーは活躍できるかもしれません。自社事業を分析した上で、事業の強みをさらに強化したり、事業課題を克服したりするためにデザイナーはどこで価値発揮をすべきなのか。自分なりに考えてみるのも良いでしょう。
今回は「営業」をテーマに考えてきました。
私はデザイナーですが、1年間だけ営業組織に所属した経験があります。デザイン会社コンセント内の営業組織です。もともとのセールスパーソンが多いなか、私は当時アートディレクターの肩書のまま、営業組織で活動していました。営業のため数字で評価されますが、私の売上実績はもっとも高かった。上手く喋れるわけでもなく、交渉能力に長けていたわけでもなかったのに、です。
当時の上司は、私に言いました。「営業っぽく見えないから良いんだよ」
デザイナーでも、デザイナーのままでも、営業組織の中で見劣りせずに活躍できる。デザインを突き詰めれば営業としても機能する。価値を提供できる。そのときに私が実感したことです。