現在森美術館で、近年急速に発展・浸透するITやAIテクノロジー・ゲームエンジンなどを採用した現代アートを約50点を紹介する「マシン・ラブ展:ビデオゲーム、AIと現代アート」展が開催されている。それにあわせ、森美術館はメディアアーティストの谷口暁彦さんと森美術館シニア・コーディネーター 田篭美保さんが展示の解説を行うメディア向けツアーを実施。本記事では、展示されているいくつかの作品を両氏の解説とともに取りあげる。
Beeple『ヒューマン・ワン』

田篭 デジタルアーティストのBeeple(ビープル)は、デジタルアートが登場し始めた2007年から、二次元のデジタルアートを毎日1枚作り投稿していました。2021年に『Everydays: the First 5000 Days』というタイトルで書き貯めていたデジタルアートをオークションに出品したところ、当時のレートで75億円という高値で販売されたことを機に一躍有名に。現代アーティストとして認識されるようになりました。
ここにあるのは、2021年に制作された『HUMAN ONE』という作品。この中にいる人間は、ユニバースではなくメタバースに降り立った最初の人類という設定です。彼はこの作品を一生涯アップデートすると決め、展覧会ごとに映像を更新しています。普通の現代美術は完成したら終わりですが、デジタルアートであればいくらでもアップデートできる。そうやって更新していくことが作品の一部であると決め、今までにない考えかたでアートを作っています。
谷口 ビープルは高値でNFTが売れたことできらびやかな作家というイメージもありますが、そういうわけではありません。『Everydays: the First 5000 Days』は、毎日CGの画像を作り続けたものですし、非常にコツコツとした作業を行っている作家。それがおもしろいと思いました。「毎日コツコツと積み重ねていくこと」と「NFTアートの連続性とはなにか」ということを考えさせられますね。
佐藤瞭太郎『ダミー・ライフ』

田篭 現在、東京藝術大学の博士課程に通っている方です。彼はもともと映像作家で小道具などを使って映像を作っていたのですが、コロナ禍になって外出することができず家にいなければならなくなった際、制作手段をPCのなかに求めました。
この『ダミーライフ』という作品は、すべてアセットでできています。これらは、ネット上で個人が挙げている普通のスナップショットに登場する人物をアセットに切り替えることで作品化しています。そのため、リアリティがあるようなないような、本当にアセットがこうした生活をしているかのような作品になっています。
谷口 ここで使われている“アセット”はかなり特殊な概念だと思います。僕もゲームエンジンを使って作品を作ることがありますが、たとえばUnityだったらUnityのアセットストアで材料を買い、それをゲーム内で使っていきます。
一方、たとえば僕らが物理的な世界で粘土の作品を作ると、当然粘土の量が減りますが、アセットはデジタルデータで複製可能なためいくら使っても減らないという特性を持っている。繰り返し何度でもいろいろな場所で使うことができてしまう、つまり「複製」が前提の存在であるということがひとつの特徴だと思います。
そうやって見てみると「これってUnityのデフォルトのアセットだよな」とか「このアセット別のゲームでみたぞ」というものも登場する。つまりこれは、ゲームの環境などさまざまなゲームを超えて存在する「俳優」のようにも見えてくる気がするんです。そうした「登場人物たちの実在」がオフショットのようにも感じられてくるといったおもしろさがあるように思います。