「型」から進める企画提案書の書きかた――デザインのおもしろさをプロジェクトに込める

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「自組織の紹介」に意志を込める

 さて、ここから企画提案書の各ページの説明に入っていきます。まずは「自組織の紹介」ページです。

模式図。企画提案書の基本構成。前に紹介した12種類のページのうち、「2.自組織の紹介」ページがハイライトされている。

 このページはいわゆる自己紹介。企業内デザイン組織であればその組織の紹介を、デザインエージェンシーであれば企業紹介をするようなページです。

 「その組織は何か(規模・歴史・環境・取引先など)」「何ができるか(事業や能力の種類・人員構成)」「何を目指しているか(ミッションやビジョン)」のような基本情報にくわえて、「デザインとは何か(その組織にとってのデザインとは何か)」「デザインプロセス(どんな仕事の進行をするか)」も明記します。

模式図。自組織の紹介ページの例。4種類のページサンプルが並ぶ。1つめは組織概要。事業・規模・歴史・環境・取引先などの情報が並ぶ。2つめはミッション・ビジョン。3つめは、デザインとは? デザインの定義を示すイメージ図が並ぶ。4つめはデザインプロセス。プロセス図のイメージが並ぶ。

 「デザイン」への理解のブレは常にあるものです。「デザイン」とは色や形だけの仕事だと思われていることは多いもの。デザインとは何か。デザインで何ができるのか、どう貢献できるのか――。意志を込めて言語化します。

 くわえて、「デザインプロセス」を載せておくと、デザイナーの仕事の進めかたを理解されやすくなります。とくに事業戦略のリサーチやプロトタイピングなど、企画の「上流」から関与できる点を記載しておかなければ、相応の期待は発生しません。多くのプロジェクトで活用できる、そのデザイン組織なりの普遍的なプロセスをモデル化し、掲載するようにしましょう。

 企画提案書は自分の知らないところで独り歩きするものですが、自分たちや「デザイン」をアピールする絶好の機会。「なぜこのような提案をしているのか」というデザイナーの姿勢を表すものでもありますので、自分の言葉で書くことが重要です。

企画提案の土台となる「課題や与件の整理」

 次は「課題や与件の整理」のページです。このページでは企画提案の前提や背景となる情報、たとえばプロジェクトを実行するにあたっての現状課題・前提条件などを明記します。

模式図。企画提案書の基本構成。前に紹介した12種類のページのうち、「3.課題や与件の整理」ページがハイライトされている。

 デザイナーが自主的に提案する場合は、デザイナーが解決したい「課題」も記載するようにしましょう。依頼を受けて提案する場合は、依頼主からの「与件(要望や与えられた条件)」を書きます。

模式図。課題や与件の整理ページの例。ページサンプルが示されている。ページには、現状課題・前提条件・想定成果物の3つの項目が並ぶ。それらを総括して説明するリード文には「◯月◯日の打ち合わせを踏まえ、課題や与件を以下の通り認識しています。」とある。また、注意文として「お互いにとって既に知っている情報を書くこと」と強調されている。

 ここで注意点があります。それは、課題や与件を書く場合には、「お互いがすでに知っている情報を書く」ということです。こちらから自主提案をする場合では、事前のやりとりですでに共通認識になっている課題を書きますし、依頼を受けた場合でも、相手から受けた依頼内容をそのまま書くようにします。

 ここは、提案全体の助走に当たるページ。次に続く「プロジェクト要件」の前段であり、その土台を築くためのページなのです。この「課題や与件の整理」のパートで、相手が認知していない課題や推測する仮説を加えてしまったり、相手にとって新しい情報を入れてしまったりすると、企画提案の手前でつまずいてしまいます。前提となる課題認識がずれているのではないか。依頼した与件を正しく理解していないのではないか。そんな疑念を相手に抱かせてしまい、生産的な議論に発展していきません。

 このページは相手に「前提の認識が揃っているね。さぁ本題に進もう」と言ってもらうことがゴール。最初にお互いの視点を揃えて仲間の感覚を得ること。はじめに「Yes」があって良好なコミュニケーションが始まること。そのためのページなのです。

 相手から依頼を受けて企画提案をする場合では、相手からの依頼をそのままオウム返しのように書くこと。相手の要望を曲げずに書くこと。このページでは自分の意見を書かないこと。これらがとても大切です。

 企画提案書が独り歩きした場合に備えるためにも、提案する相手との共通認識である点をはっきりと明記することも重要です。こちらが勝手放題に課題を設定したのではなく、相手との打ち合わせで合意した課題であること、相手の資料に載っていた条件であること、その課題を前提にした企画提案であること。この事実を、相手の上席=決裁者やキーパーソンに把握してもらうためにも重要な記述です。