本記事は『韓国の人気ウェブトゥーン作家が徹底解説 縦スクロール漫画制作の基礎がわかる本』の「Chapter 1 縦スクロール漫画の特徴」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
本書は『다음 화가 궁금해지는 웹툰 연출 (I'M CURIOUS ABOUT THE WEBTOON DIRECTING FOR THE NEXT EPISODE)』(2022、Doublebook)の邦訳版です。
縦スクロール漫画の傾向
インターネットの普及が広まるにつれ、ウェブ上でさまざまなコンテンツを自由に見ることができるようになりました。また、スマート機器の普及率が高くなり、人々が「縦長の画面」を見ることに慣れた状況は、縦スクロールのコンテンツが登場するきっかけとなりました。
コマとコマが縦につながることで、縦スクロール漫画は「画面をスクロールする時間」という概念を持ちます。パソコンの普及とともにホイールマウスで上下に動かして操作するように、スマートフォンの画面を指で上下に動かす動きから生まれた動作がスクロールです。
一般的な通常の見開き漫画の場合、コマによって分割された面を右から左に向かって配置しますが、縦スクロール漫画は上から下に配置し時間の流れを表現するので、時間の連続性を持ちます。
ウェブで読む漫画コンテンツも、1ページにたくさんのカットを配置して右から左へと読み進めるのではなく、ほとんどが1コマに1カットを配置し可読性を高めています。ページをめくるスタイルではなく、縦に長く続く絵がつながるスクロール方式が、現在最も一般的とされる縦スクロール漫画の表現スタイルです。
スマート機器で見る縦スクロール漫画のコマの大きさ
視線の流れを比較する
漫画や縦スクロール漫画を読む時、読者の視線の流れはシナリオに沿って流れます。作画の表現を考える時は、媒体によって読者の視線の流れが変わることを意識して考えます。コマの配置や読者がコマを見る時間に注目させ、意識的に読者の視線を誘導することができます。コマの大きさやセリフの長さを調節することで、読者は作中に流れる「時間」をさらにリアルに体感することができるのです。
視線の流れは媒体によって、そして出版国の編集方法によっても違いがあります。例えば右から左に向かって描く場合は、最初に視線が落ちる箇所でどのコマとシーンを見せるかで可読性が決まります。これによってコマをつなげる順番だけでなく、コマの中のキャラの位置や身体の向き、フキダシの位置まで影響を受け、見る速度によってコマの数や間隔も変わります。
見開き漫画は上から下へ、さらに右側から左側へ視線が動きますが、縦スクロール漫画は上から下にだけ視線が動くということを意識したコマ割りと作画をすることで、さまざまな雰囲気のシーンを演出することができます。
コマとコマの余白の役割
コマの役割
コマ枠の大きさやデザイン、枠線の表現方法などのさまざまな要素によって視覚的効果を表現するのがコマの役割です。コマとコマは時間の流れでつながり、それぞれのコマには登場人物の考え方、ものの見方、行動、位置や場所が描写されます。
コマの余白を利用してスクロール時間を確保する
スクロールによってコマ間の余白の画面移動時間を持つ縦スクロール漫画は、作品内の時間の流れをより明確に感じることができます。
効果音でつなぐ例
雨を描写したシーンです。背景の雨の描写はコマとコマの余白をまたがせ、さらに再び背景へと、雨をひとつなぎに表現しています。
時間と時間の間にも雨が表現されていて、雨が持続的に降っているということが分かります。読者がスクロールする間、雨のシーンが続くことで雨が降る時間の長さを感じさせられます。
カットとトランジション
カット
画面を割って時間の変化を表現するカットは、アニメーションにおいて、時間と空間そして人物の変化を表現する時に最も利用される方法です。
カットの役割
- 時間や空間、人物の変化を表現する
- 作品を読む読者に、一息つく時間を与える
トランジション
トランジションとは、ひとつのシーンから別のシーンに切り替わる時に使う技法のことです。その中でもブラックアウト(画面全体を黒色に変えること)は読者に時間や空間の変化、次のシーンに切り替わる「間」を持たせる効果を与え、シーンを強く印象づけられます。
ブラックアウトを使ったトランジションの例
ひとつのシーンから別のシーンに切り替わる時に使う技法として使われ、次のような効果や情報を与えられます。
- 読者に与える時間や空間の変化、次のシーンに切り替わる「間」を待つ効果
- 直前のシーンの状況を強く印象づけられる
時間の概念の導入
縦スクロール漫画ではコマの境界がページにとらわれないため、時間の連続性を表現できます。
グラデーション空間
グラデーション空間とは、物語が徐々に浸透するように読者を没入させる演出のこと
連続する動作の表現や時間の確保
縦スクロール漫画は、画面を指でスクロールすることで実際に画面が流れる「読者の時間」と、キャラクターたちの動きの流れが絵で表現される「物語の中の時間」という、2つの時間の概念が生まれました。
縦スクロール漫画は横幅サイズが固定された絵が縦に連続的につながっています。まるでアニメーションを見ているかのような縦スクロール漫画のコマ割りとスクロールの動作がもたらす時間の流れによって、従来の見開き漫画にあったコマ同士の境界がなくなり、コマとコマのつながりが生まれました。
つながる動作の連続性が分かる例
セリフのフキダシとキャラ・背景のコマの役割分担
セリフのフキダシをキャラのコマの外に配置することで、フキダシがキャラの絵の邪魔になることを最大限回避できます。背景は単純にコマとコマの境界としての役割を持つだけでなく、ある程度の面積を持ちます。
また、効果音などの文字だけでもコマひとつ分の影響力を持ちます。スクロール画面の特徴により、読者がスクロールしながら効果音を読む時間を通して、情報をより明確に伝える演出が可能です。
フキダシをキャラ絵のコマの外に配置する例
コマの絵を鑑賞する時に、セリフが邪魔になる可能性を最小化できます。
文字だけのシーン
コマひとつ分のインパクトを持つ。読者がスクロールしながら読むというスクロール画面の特徴により、文字を読む時間を通して、情報を明確に伝える演出が可能になります。
ブラー効果(ぼかし)のカット
ブラー(Blur)は、背景に配置した人物をぼかす演出技法のことで、カメラ位置から離れた距離感を表現する時に効果的です。
ガウシアンぼかし効果
カメラの深度を調節したかのような効果を与えることができます。絵を再利用しつつ品質が保証され、いかにもコピペした雰囲気は出づらくなります。
モーションブラー効果
アクションシーンで使用する。動きを与えることでより躍動的なシーンを演出できます。
背景は3D背景を活用する
コマの下地となる背景には、3D背景を取り入れて360度回転できる背景を加えることで、高いクオリティーのさまざまな構図を作ることができます。
高いクオリティーのさまざまな構図の背景
360度回転できる3D背景素材
「はじめに」より一部紹介
縦スクロール漫画を制作しながら一番もどかしく思ったのは、縦スクロール漫画を制作するためのガイドがほとんど存在しないということでした。参考になりそうな本を書店で探してみても、そのほとんどが見開き漫画関連の本ばかりで、部分的に参考になるだけでした。
私が経験した困難を振り返り、縦スクロール漫画制作の入り口だと思われるネーム(絵コンテ)の演出を基本に、作品創作初期に難しさを感じている作家志望者の方々や、縦スクロール漫画作品を初めて制作する作家のみなさんのために構想するに至った本書が、縦スクロール漫画の制作に 少しでもお役に立てればと願っています。
本書がハイクオリティーな縦スクロール漫画制作を夢見て、今日も熱心に努力しつつも悩みの絶えない作家志望者の方々にとって、夢をつかむことのできるオアシスとなることを望みます。