4. 児童書籍部門:発見と共感を誘う絵本表現
Children's Publishing(児童書籍)部門では、「若い読者にとって自分自身を発見する場」として絵本が位置づけられ、移民や多文化性、環境問題などをテーマにした作品が注目された。ショートリストには、子どもたちに共感と発見を促す視覚的に強い物語性を備えた絵本が多数含まれている。視覚的な特徴としては、キャラクターデザインと色彩による感情の共有性、ユニバーサルなテーマを語るシンボリズム、さらに紙質やテクスチャとの連動による体験設計も含まれており、現代の児童書表現の多様性が象徴されている。
代表作には、Martina Stuhlbergerの『9 Little People』 がある。コラージュ、ガッシュ、色鉛筆、Procreateを組み合わせた混合メディアで制作されている。9人の子どもたちが命名された1日を起点に育まれる友情と多様性を描いている。作家自身が「10人でなくても完全で美しい」と語るように、完全でなくても生まれる特別な人間関係をやわらかな色彩とテクスチャで表現している作品だ。

5. パッケージ部門:日常を彩るデザイン
Design Product & Packaging(デザインプロダクト&パッケージ)部門ショートリストには、食品や飲料のパッケージから展示用ブックレットまで幅広い作品が並んだ。公式発表では、この部門を「日常世界に命を吹き込む」カテゴリーと位置づけ、楽しくインパクトのある表現でブランドと消費者をつなぐ力が評価されている。
代表作には、Gianvito Turiの『Choco Tapes』が含まれる。この作品はカセットテープを模したパッケージデザインで、24本のチョコレートバーを画一的に「音楽」を感じさせる作品として構成し、二次元コードで未発表の音源にアクセスできるユニークな仕掛けが特徴。

6. エディトリアル部門:複雑な世界を直感的に伝える
Editorial(エディトリアル)部門ショートリストは、現代社会の複雑なテーマを洞察的かつ感覚的に伝える表現が多く選ばれた。審査員からは「視覚的な驚きと感受性の幅広さがあり、まるで視覚の最前列に座っているかのような体験を与える」との評価が寄せられている。抽象的なイメージや象徴的モチーフを巧みに用い、最小限の要素で感情と理解を同時に喚起する力が注目された。
その代表的表現として、Nancy Nanの『The Magic Bookshop』は、記事でも取りあげられており、審査員により「視覚の驚きとリズム感が舞台のような空気を生む」作品と評されている。

7. 実験的表現部門:未知の地平を切り開く表現
Exploration(実験的表現)部門では、VRやAR、エッチング、リソグラフといった多様な技法を自由に用い、作家自身の体験や記憶を出発点にした実験的な作品が並ぶ。この部門の審査員をつとめたTim Claeys氏は、「スタイルの多様性が非常に高く、視覚の境界を押し広げようとする強い意欲が感じられる」と評しており、挑戦的な視覚表現が選ばれている背景を語っている。
そのなかでも注目すべき代表作の一例が、Vivi Johnの『Grandpa’s Bento Shop』だ。子どもの頃に訪れた祖父の弁当屋をモチーフに描かれたこの作品は、温かみのある色彩と緻密なディテールを通じて、個人的な記憶と場所の空気感を可視化している。視覚的な失われた時間を再構築するような体験が、鑑賞者に情感豊かな没入感をもたらしている。
