8. 出版外コミッション部門:物語を独自のスタイルで語る
Publishing(出版外コミッション)部門ショートリストには、16歳以上向けのフィクションやノンフィクション、個人のストーリーを描く作品が多数含まれた。審査員は、テキストに依存せずビジュアルで語る力と、独自のビジュアルスタイルで作品世界を力強く構築する点を高く評価している。
とくに注目を集めたのが、Aya Niv『How To Stop Hating Men』だ。これは、日常に潜むミソジニーを正面から扱うグラフィックノベルで、強い視点とダイナミックな構図によって、感情の強度や物語のリズムを視覚的に伝える表現として選ばれている。
9. 科学技術部門:データを詩に変えるアート
Science & Technology(科学技術)部門のショートリストには、宇宙探査や医療研究を題材とした作品が含まれ、科学的知見を視覚的にわかりやすく、かつ感情を伴って表現する試みが注目されている。審査員は「教育と芸術を融合し、複雑な情報を直感的に伝える」点を評価しており、インフォグラフィック的な作品にとどまらず、観る者に驚きや感動を与える詩的な可視化が際立っている。
審査員は、Trong Nghia Nguyenによるインフォグラフィック作品『Bye Bye Wisdom Teeth』を高く評価。「シンプルながら視覚的に楽しく、オリジナルなアプローチ」として紹介されている。

10. 特定空間部門:場所と結びつくアート
Site Specific(特定空間)部門では、「日常の空間を変えるイラストレーション」がテーマとなっている。ショートリストの中には、シンガポールの公共インスタレーションやフィンランドのパーキングメーターを舞台にした作品など、地域や施設に根ざした表現が含まれている。こうした作品は、街や生活空間そのものをキャンバスとし、日常を新たな視覚体験へと変貌させている。
代表作に、Daria Titovaによる『How Much Do You Know About Your Body?』があり、公共空間向けの斬新なスタイルと構成力により高評価を得ている。審査員からはとくに「スタイルの独創性とコンセプトの即時性」が賞賛されている。

社会と個人をつなぐイラストレーションの力
WIA 2025ショートリストを通じて見えてくるのは、社会的課題に応答する表現、人間性を取り戻す温かみのあるスタイル、そして体験型へと進化する視覚表現の潮流である。こうした潮流は、イラストレーションが単なる装飾を超え、社会と個人を結びつけるメディアへと進化していることを示している。
とくに印象的なのは、「グローバルな課題」と「ローカルな視点」の融合である。環境保全や多文化共生、ジェンダー平等といったテーマは、いずれも社会全体の大きな議題である一方、選ばれた作品は個人の体験や感情を起点に、それらを視覚化している。つまり、世界的な問いを普遍的に語りながら、同時に観客が自分自身の物語として共感できる余地を残しているのだ。
また今年の傾向として「デジタル技術と伝統的手法の共存」も挙げられる。VRやARを活用した没入型作品がある一方、リソグラフや手描きによる温かみのある表現も多く選出された。この両立は、技術進歩と人間性をどのように調和させるかという現代的課題に呼応していると言える。
今後もWIAは、イラストレーションを単なる視覚芸術にとどめず、社会を映す鏡であり、未来を切り開く対話の場として機能し続けるだろう。さらに、2025年11月3日からは巡回展示ツアーが開始され、12月1日からは次回エントリー受付が始まる予定であり、世界中の新たな才能が再びこの舞台に挑むことになる。