たちばな 林さんとはこれまで何度か一緒にお仕事をさせていただいていますが、いつも素敵な音楽をありがとうございます。この世界観対談で音楽を取り上げるときは林さんしかいないと思っていたので、実現して嬉しいです。
林 こちらこそ、お声がけいただきありがとうございます。
たちばな 林さんといえばさまざまなジャンルで活躍されていますが、やはり『僕のヒーローアカデミア』や『ハイキュー!!』などアニメの印象が強いです。
林 そうですね。おかげさまで実写の映画やドラマから舞台まで、いろいろな作品に関わらせてもらっていますが、アニメファンの方々は熱心に応援してくださる方が多いのは事実だと思います。とくに海外から招待いただく機会も増え、ありがたいですね。
世界観は「メロディ」で作るものではない
たちばな 映像作品において音楽は、作品の「世界観」とも密接な関わりがあると思うのですが、林さんは「世界観」という言葉をどのように解釈し使っていますか?
林 私はよく料理に例えています。与えられた材料があったとして、中華風にするのか、カレー粉を入れてみるのかなど、原作で感じたものをいろいろな方法で音楽にするわけですが、「世界観」はその味付けやベースになるものだと思っています。
![作曲家 林ゆうきさん](http://crz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/6212/1.jpg)
たちばな たしかに中華っぽくするのかカレー風にするのかによって方向性が大きく変わりますよね(笑)。アニメに限らずですが、映像作品にとって音楽は欠かせないものだと思います。そこで世界観が決定付けられるというか……。目に見えないものだから説明をしづらい部分もありますが、受け手にダイレクトに響くところが音楽の長所ですよね。
林 小説の場合は文字のみですが、それがマンガになるとイラストが加わり、アニメになると声がつき音楽がつく。そんな風に要素が増えていくわけです。最初は受け手の想像力に委ねられていたものがどんどん具現化していくため、「イメージに合っている」「マッチしていない」という反応も自然と出てきます。正解があるようでないような部分ではありますが、原作者、原作ファンがそれを聴いたときに「そうそうこれ!」と思うようなものを出せるかということを意識していますね。
たちばな それは簡単なことではありませんよね。みんなの中に具体的にはなかったけれど、たしかにある“それらしきもの”を提示するのは本当に難しいことだと思います。
林 そうですね。しかも、原作というバトンを受け取った監督や私のような各セクションを担うクリエイターにとっては「期待を越えた新しい提案をできるか」の勝負でもある。その意味で、「普通ならこういう感じのテイストやメロディになりそうだけど、あえて違ったものを出す」ことも日常茶飯事です。
たちばな パッと思い浮かぶ正解のようなものを、そのままではなく何か違う正解にトライするということですね。それはすごいです。ちなみにマンガなどで言えば、原作を読むと音楽が浮かびますか?
林 はい。メロディというよりは、どういう楽器でどんなテンポでといった、ベースになる「トラック」というものからスタートします。それにプラスして、『僕のヒーローアカデミア』などだと原作1ページあたりの情報量が多いため、音楽的にも情報量を多くしようなど、そういった部分でもイメージを膨らませていくのです。
たちばな 音楽を作ると聞くと「メロディづくり」がいちばん重要なのではないかという印象があったのですが、メロディからではないのですね。
![映像プロデューサー たちばな やすひとさん](http://crz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/6212/2.jpg)
林 私の場合、メロディは最後です。テンポだったり楽器だったりを先に決め、トラックを作ってから最後にメロディを乗せる。メロディが目立つのはもちろんなのですが、まずはその主役が住むための家を設計するというイメージでしょうか。
たちばな なるほど。土台をしっかり作るということなのですね。そこは世界観の話にもつながってきそうです。
林 メロディは正直、いかようにでもアレンジできてしまうところもあるんです。実際、メロディが悲しいフレーズでも、背景にサンバのリズムが流れていたら、悲しくなれないですよね(笑)。
発注をいただくときに「メロディ重視で」と言われることもあるのですが、本当に大切なのは「ベースとなるトラックでいかに世界観を作れているか」だと思っています。