アニメ文化を支えているのは“日本独自”の作りかた
たちばな たしかにハリウッド映画のサウンドトラックは、際立ってメロディが印象的でないものも多いですよね。
林 そうなんです。ハリウッド映画のサウンドトラックは、メロディ重視なものは少ないと思います。それは、作りかたに違いがあるから。ハリウッドや海外の場合、映像が完成してから、それに合わせて音楽を作ります。
たちばな そうですよね。ドラマの現場からすると贅沢だなと思いますが、映像に合わせて、音楽をいちから作りますよね。日本の映画でもそのような作りかたをすることはありますが、ドラマやアニメのように数十話などたくさん作る時には、そこまでの手間をかけられないのが現状です。
林 あのような作りかたを「フィルムスコアリング」と言いますが、日本の場合は予算面の都合もふくめて先に数十曲作ってしまい、それをシーンに合わせて選曲するシステム。根本的に違うんですよね。
たちばな たしかに日本だと最初に、大体これだけあれば大丈夫といった「音楽メニュー」のようなものを作り、悲しいシーンにかける音楽、何かを達成したクライマックスにかける音楽といった形でそれぞれの曲を作っていきますよね。
林 はい。そうすることで変わるのは、「音楽としてそれなりに完成している一曲を作る」ようになること。「フィルムスコアリング」の場合、あくまで映像に合わせて制作するため、曲だけを聴いたときには盛り上がりに欠けることもあります。
たちばな なるほど。役割は決められつつも、曲ごとの完成度は追求するため、一曲一曲が引き立っているんですね。日本のアニメサウンドトラックが海外で人気なのはそこに秘密があるのだと、今わかりました。
林 そうなんです。こういった作りかたは世界でみてもかなり珍しいようなのですが、とくににアニメは話数も多いですし、映像に合わせてすべて作ることは現実的に不可能です。予算がないからこその苦肉の策でもありますが、私たち音楽家にとってはありがたいことでもあります。
「林ゆうき」という世界観
たちばな ちなみに、林さんが好きな「世界観」はありますか?
林 僕自身はわかりやすいものが好きです(笑)。だから、少年アニメや感動するスポーツ系などは合っているのだと思います。経験を積んだり技術が上がっていったりすると複雑なものを好むようになるケースが多いと思うのですが、僕の場合、そこは昔から変わらないですね。
たちばな このスタジオにも世界観がありますよね。音楽スタジオというとシンプルでスッキリしているイメージがありますが、ここはさらにリラックスして居心地が良い気がします。オフィシャルサイトを見るとネイチャーな印象も受けますが、それもつながっている気がします。
![取材を実施した林さんのスタジオ。](http://crz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/6212/3.jpg)
![](http://crz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/6212/4.png)
林 そうですね。無機質より有機質なもののほうが好きですね。
たちばな それは子どものときの環境などが関係しているのでしょうか。
林 好きなものに囲まれて過ごしたいというか、楽しめる空間が好きです。一生「厨二病」みたいなところがあるんですよね(笑)。小さいころに段ボールなどで秘密基地を作ったことがある人は多いと思うのですが、あれをいつまでもやっている感じなのかもしれません。
劇伴作家の地位向上を目指して
たちばな 最近、サウンドトラック(劇伴音楽)のフェスを主催していると聞きました。
林 はい。「京伴祭」 という劇伴フェスを開催しています。私だけでなく、劇伴作家と呼ばれる音楽家の地位向上を意識しています。
たちばな とても画期的なフェスだと思いました。ファンの人が集まって、音楽を軸に楽しんだり、他の作品の音楽に触れたり、とても良い機会ですよね。
林 そうですね。さらにいえば、そこから発展して、自分たちでお金を集めて劇伴的な音楽を作るなど、これから取り組んでみたいこともあります。
たちばな それは素晴らしいですね。原作がもつ世界観を音楽で表現するのではなく、「林ゆうきさんの世界観をもっとダイレクトに味わいたい」というファンも多いと思います。
林 ありがとうございます。そもそも原作があるお仕事も楽しいのですが、このスタジオのように、根っこにあるのは「自分の好きなものに囲まれていたい」「自分の好きなものを共有したい」という感覚。その意味では「自由度の高い自分の作品」にもチャレンジしたいと思っています。
たちばな それは楽しみです。僕もいちファンとして楽しみに待っています。今日はありがとうございました。