知識を“わかりやすく”伝える―—『東大に名探偵はいない』『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』

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コージー・ミステリ入門にオススメ 『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』

 2冊目は今ミステリ業界玄人の中で注目されている短編集『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』(著 笛吹太郎/東京創元社)。

『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』(著 笛吹太郎/東京創元社)
『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』(著 笛吹太郎/東京創元社)

 これは、日常で起こりえるちょっとした事件を警官でも探偵でもない素人が解決する「コージー・ミステリ」というジャンルの作品で、代表作のひとつにアイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』があります。……と少し無味な説明をしてしまいましたが、そんな「コージー・ミステリ」をとてもわかりやすく体現しているのがこの短編集です。

 コージーミステリは海外で生まれたジャンルですが、この小説の舞台は荻窪の喫茶店で謎を解くのはそこのマスターという日本人にも馴染みやすい設定。かつ、そこで巻き起きる事件も「昨日行った居酒屋が消えた」「誰も死んでいないのに姉が四方八方に喪中はがきを送り続けていた」など、絶妙なスケール。だけども古典へのリスペクトが根底にしっかりあり、だからこそとても品がある短編集に仕上がっています。

 各短編の終わりには、著者の笛吹太郎先生がその話の元ネタや関連するコラムを書いています。国内ミステリだと珍しい構成ですが、これは前述した『黒後家蜘蛛の会』のオマージュ。新しいミステリとしてかみ砕くことで、古典作品は難しく手を出しづらいと感じる人の導入としても最適なのが、この小説の長所。コージーミステリの入門にもとてもオススメです。

 クリエイターの皆さんも、自分が持ってる深い知識を「かみ砕く」ことを選択肢として持っておくと、良い作品づくりのヒントになるかもしれません。