ギャグマンガ界のレジェンドが描く『ももたろう』
2冊目は絵本。日本人にとってもっともメジャーな物語と言っても良いでしょう。『ももたろう』。

まず、子どものいないお爺さんとお婆さんのもとに大きな桃がやってきて、そこから生まれるという掴みが良いですよね。実は、その桃を食べたふたりが若返って、その際に生まれた子どもが桃太郎だったという説もあるらしいですが、それを大衆ではなく子ども向けにするためにアレンジされている点にも、作品の秀逸さが表れているように思います。
ちなみに僕が芸人1年目のとき、松竹のお笑いライブでトップバッターか4組目までの漫才師全員が桃太郎の設定だったことがありました。ありえないですよね。2組目、3組目まではネタバラシの段階でウケていたのですが、4組目はさすがにお客さんが飽きていました(笑)。
それくらい、手をつけたり調整しやすい題材とも言える桃太郎ですが、この『ももたろう』はいったい何が違うのでしょうか。その秘密はまず、作者のガタローマンさんにあります。
実はこのガタローマンさんの正体はギャグマンガ界のレジェンド、漫☆画太郎さん。濃すぎるキャラクター造形とアバンギャルドなボケが特徴で、それを見事に桃太郎の世界に落とし込んでいるのです。そして、何よりもこの桃太郎のオリジナリティを高めているのが「読みかた」に重きを置いていること。
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
最後の「ました」で登場人物のドアップギャグ顔になるのですが、桃太郎は大体言葉の結びが「ました」となるため、そのたびにドアップギャグ顔。ものすごいテンドン芸に子どもも大喜び。「ました」待ちをしながらワクワクしちゃいますよね。そしてこの絵本、きちんとヒットしています。
もともと売れっ子マンガ家でもありますが、ガタローマンさんは現在セカンドブレイク期に突入しています。やはり売れっ子だからこそ「王道に手を出す」ことの難しさを知っていると思いますが、それでもそのハードルをきちんと創作で乗り越えているのがとてもかっこいい。とても良い意味でありえない絵柄で腹が立つくらい笑えるので、読んでいて思わず「ふざけんなよ」と言ってしまいますが、それもガタローマンさんの味。
皆さんも王道を避けるのではなく、あえて挑んで、悩み、「誰もやっていない王道」を目指してみるのも良いのではないでしょうか。