巨大組織Googleで一貫性のあるデザインに向けた取り組みがスタート
Convay氏は10年前に入社した時を振り返って、次のように話す。
「才能のある独創的な人たちが世界中のユーザーに向かってサービスを提供していました。そのスケールが理解し難いレベルの混乱を招いており、そのなかにいなければ把握できないという状態でした」
それまで複数のクリエイティブやデザインチームが存在していたが、初めてブランドを管理する組織としてブランドデザインチームが立ち上がり、Convay氏はそのチームに配属となった。社内のエージェンシーとして機能するはずだったが、そののち製品分野ごとに独自のブランドクリエイティブチームが立ち上がるように。会社として一貫した表現をすることはさらに困難になった。

これに対しConvay氏らは、Brand DNAとして統一のフレームワークを、Web Standards Xとしてコード化したコンポーネントパターンライブラリを用意。当時、450以上のマーケティングサイトを監査し、統一の基準を導入した。「混乱がかなり減った」とConvay氏。
Convay氏はここでフォントの歴史を紹介した。
2015年にGoogleのロゴを刷新した際、「Product Sans」を導入。ワードマーク用として設計したにも関わらず、社内のデザイン担当がUIなどで使うようになっていったが、次第に「このウェイトがない」「イタリックがない」といった問題が出てきた。そこで、ブランド、マーケティング、製品全体で機能するファミリーとして「Google Sans」を開発。さらに「Google Sans Text」「Google Sans Flex」が生まれ、生成AI「Gemini」では最新の「Google Sans Code」が使用されている。Google Sans Codeはコード専用として開発されており、オープンソース化する予定もあるという。

フォントの変遷を振り返りながら、Convay氏は「あらゆる段階で、何かしらの混乱が原動力になりました」と述べる。
「誰かがくれたフィードバックから、満たされていないニーズが見えました。そのニーズを満たすために作業をし、独自のブランドタイプフェイスが生まれた。現在でも全社的に使われています」
Material Design 3世代で得た教訓はコラボレーション
Convay氏はデザインシステム「Material Design」の歴史にも触れた。
2014年にMaterial 1(「M1」と呼ばれた)として導入した際「統一システム」「クリーンなメタファー」「強力な原則」で全製品を整合させることを目指した。しかし、現実には多様な製品のニーズがあり、M1は柔軟性にも欠けていた。
そこで2018年に「M2」こと「Material 2」が登場。ここでは、コンポーネントのコード化を進め、テーマ機能を導入した。しかし「予測できない結果」としてすべてが同じように見えるという問題が発生。Google製品がAndroidのエコシステムと同じようになり、AndroidアプリもほかのAndroidアプリと区別がしにくく、「独自性が失われた」のだと言う。
そこでM2をフォーク(複製をつくり新たなソフトウェアを開発すること)し、Android上のサードパーティ用とは別に、社内Googleチーム向けの「Google Material」を作成。トップレベルのOKR(目標設定管理フレームワーク)として全員がこのGoogle Materialを使用することになったものの、準備不足により内部デザインシステムが乱立する結果になった。
Google Materialが統一性の視点を失ったことから、「M3」こと「Material 3」が開発された。ここでは、デザイントークンと適応的システムを導入。たとえば「Google Maps」ではデザインとコードの一致率が50%から95%に向上し、新カラーパレットの更新時間は数ヵ月から数日に短縮された。一方、ツールの進化が追いつかず、一部の実装が滞るという事態に陥った。

「『成功すること』とは、単に新しいコンポーネントのセットを作成し、トークン、仕様、コード、あるいは説得力のある研究を提供することではない。すべてが一緒に機能することであり、各チームとの意図的な協力が不可欠だ」とConvay氏は教訓を引き出した。