GoogleのUXディレクター流、意図的な混乱から魔法を見つける方法とは【Config2025レポ】

  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket
2025/06/10 08:00

デザインチームにカスタマーエクスペリエンス担当を置いた理由

 そのような経験で得た学びを通じ、デザインチームも変化した。現在、Google Designは以下の5つのポートフォリオチームで構成されている。

  1. Material Design:システムの作成・維持・進化
  2. デザインツールチェーン:設計とフロントエンドワークフローを加速するツールの開発
  3. Google Fonts:タイポグラフィとアイコノグラフィ(ウェブ全体の3分の2以上にサービス提供)
  4. カスタマーエクスペリエンス:パートナー関係構築と会社全体でのデザイン推進
  5. コンテンツ・パブリッシング:デザインシステムの受け入れのためのナラティブ推進とリソース進化

 Convay氏によると、M2での経験を受けてアプローチを完全に変更したという。OKRなど上からの押し付けやチェックリストではなく、「デザインはパートナーのためのツールである必要がある」という考えの下で「どんな問題を解決しようとしているか?どう手伝えるか?」といった質問を起点にする「協力的アプローチ」に転換。それが、「パートナーの優先事項やニーズ、ロードマップを理解すること」「デザインの推進」といったふたつの役割をもったカスタマーエクスペリエンスチームの立ち上げにもつながっている。

 例として、Gmailチームとのコラボレーションを挙げた。当時、同チームは概要カードを改善したいというニーズがあった。従来ならM3の仕様を強要したり、標準的なソリューションを提案したりしていたが、カスタマーエクスペリエンスチームはGmailチームの目標を理解することからスタート。共同でのデザインセッションを通じてM3のメリットを紹介し、Gmailチームのニーズを満たす形で採用できたという。

 またコンテンツ・パブリッシングチームはそれまでの資料作成の枠組みを超えた役割を持つという。ガイドラインやドキュメント、Material Design Kitの作成だけではなく、外部への発信も進めている。そのため、Figmaが2024年の「Config」でUIキットをローンチする際、Google Material Designも3つのデフォルトキットのうちのひとつになったのだ。

「混乱」を活用する意図的戦略

 Convay氏はデザインチームの組織体系を説明しながら、「意図的な混乱戦略」について説明した。

 スケッチ、ページ、Figmaを限界まで活用する環境(=混乱をつくるスペース)を意図的に創出し、コラボレーションを進める。まだ荒いアイディアに過ぎないものをシェアしたり、より良いアイディアがあればそれを認めることができる場所だ。

 たとえば、30人以上のクリエイティブを使った数週間スプリントでは、デザイナーが意図的に同僚の作業を取り上げ、発展させる手法を採用した。これにより作業の改善だけでなく、メンバー間の距離が縮まり、共同のオーナーシップ感覚を養うことができた。

「チームがより協調的になり、お互いを尊重しあい、共同作業が進む環境を作ることができた」とConvay氏。そういった散在している創造的なアイディアから、驚くような結びつきを見出すなどの「魔法」が生まれるという。

 ある経験で「居心地がよく『適正』だと考えられているゾーンを意図的に超えてデザインを進めた」とConvay氏。「実際に受け入れられ、より好まれたし、使いやすさという点でも優れていた」と振り返る。そのような背景から、「いったんズームアウトして一連のインタラクションの体験、アプリ、または製品スイートそれぞれの全体について考えることは、魔法を見つけるもうひとつの方法です」と述べた。

 このように今までの取り組みを語ったあと、Convay氏は「AI時代に向けたデザイン」について、社内で考えていることを以下のような視点で紹介した。

  • AIをデザインでより良くする方法
  • デザイナーや開発者がもっと創造的になるのをどのように支援するか
  • 真に適応的でパーソナライズされた体験をどうやって実現するか

 そして、デザインシステムの未来について「確実なことはわからないが、混乱することは確実。しかしその混乱が多くの素晴らしいイノベーションにつながるだろう」とコメント。

 最後に、Google Designでの10年間の試行錯誤から6つの教訓を紹介し、Convay氏は自身のセッションを締めくくった。

  1. とにかく作り始める:戦略やブリーフを待たず、直感に従って勢いを作る
  2. 組織内の同志を見つける:同じ問題に関心を持つ横断的同僚との協力
  3. つながりをつくり、人を巻き込む:大規模イニシアチブには多くの賛同が必要
  4. 成文化してスケールする:チーム間一貫性には明確で実用的な基準が必要
  5. 勢いを保つ:慣性やプレッシャーに負けず重要なことは押し通す
  6. 遠くまでいく:研究とフィードバックを活用し、必要に応じて調整