モノを愛するプロたちが、カタチで課題を解決 博報堂プロダクツ プロダクトデザインチームの全容とは

モノを愛するプロたちが、カタチで課題を解決 博報堂プロダクツ プロダクトデザインチームの全容とは
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2025/01/28 12:00

 博報堂グループの総合制作事業会社である博報堂プロダクツに、モノづくりに特化したプロフェッショナル集団がいるのをご存知だろうか。同社のMDビジネス事業本部に所属するプロダクトデザインチームは、クライアント商品の企画・開発から社内向けのブランディング施策に用いられるグッズに至るまで、フィジカルな「カタチ」を軸にさまざまなモノのデザインを担っている。メンバー数は6名と少数ながら、さまざまなアウトプットを生み出してきた彼らだが「カタチ」をどのように生かし、課題解決を行っているのか。そしてそもそも、フィジカルな「カタチ」や「モノ」にはどういった力が秘められているのだろう。同チームでリーダーをつとめるプロダクトデザイナーの橋本千里さんと、プロダクトデザイナー兼クリエイティブディレクターの内田成威さんに話を聞いた。

飲料から横綱の化粧まわしまで 強みが異なる6人で構成されたプロダクトデザインチーム

――まずはご経歴と担当業務、デザイナーを志した理由について教えてください。

橋本 私は新卒で入社し、現在プロダクトデザインチームのリーダーをつとめています。石川県の出身で、もともとは工芸に携わりたいとの思いから高校では工芸科に進学。伝統工芸を学んだ後、工芸のようにカタチを作るプロダクトデザインの道に進みました。大学の同級生のほとんどはメーカーのインハウスデザイナーになりましたが、私は家電や文具などひとつの商品にずっと関わるよりもさまざまな仕事に携わりたいと考え、博報堂プロダクツに入社しました。

株式会社博報堂プロダクツ MDビジネス事業本部 プロダクトデザインチーム チームリーダー / プロダクトデザイナー 橋本千里さん
株式会社博報堂プロダクツ MDビジネス事業本部 プロダクトデザインチーム チームリーダー / プロダクトデザイナー 橋本千里さん

内田 2007年に中途で入社し、現在はプロダクトデザイナーとクリエイティブディレクターの役割を担っています。もともと美術やデザインは好きですが、強度の色覚特性(※)を持っています。たとえば、葉の緑色が茶色に、赤いボールペンが黒っぽい色、紫色が深い青、淡いピンクが水色やグレーに見えたりします。このように色の識別に関しては特性があるため、色よりもカタチのデザインのほうが勝負できるのではないかとの周囲のアドバイスを受け、プロダクトデザインの道に進み、金沢美術工芸大学でプロダクトデザインを学びました。そうした背景もあり昨年からは、ユニバーサルデザインやインクルーシブデザインの取り組みにも力を入れています。

※色覚特性(色覚多様性)とは、色の識別において特定の特徴を持つ人々が存在し、それぞれの色の見え方に違いがあることを指します。色覚特性にはさまざまなタイプがあり個人差があります。

――おふたりが所属するプロダクトデザインチームの役割や特徴について教えてください。

橋本 博報堂グループで唯一、プロダクトデザインを軸にしているチームです。立体造形のスタイリングと、それによるクライアントの課題解決を得意としています。

内田 おもに、プレミアムグッズと呼ばれるキャンペーンの景品やオリジナルグッズの企画・デザイン、商品のボトルやパッケージデザインなどを担っています。

強みは、これまでもさまざまなジャンルのクライアントの商品やグッズを制作してきたため、幅広いアイデアや造形の知見があること。人を「消費者」としてではなく、多様化した社会の中で主体性を持って生きる「生活者」として全方位的に捉え、深く洞察することから新しい価値を創造していこうという博報堂グループが大切にしている考えかた「生活者発想」を軸に据えている点が、僕たちのいちばんの特徴だと思っています。

株式会社博報堂プロダクツ MDビジネス事業本部 プロダクトデザインチーム プロダクトデザイナー/クリエイティブディレクター 内田成威さん
株式会社博報堂プロダクツ MDビジネス事業本部 プロダクトデザインチーム プロダクトデザイナー/クリエイティブディレクター 内田成威さん

橋本 6人の少数精鋭のチームですが、メンバーそれぞれに異なる強みがあるのも特徴です。たとえば、内田はカタチのデザインだけでなくアイデアもユニークで、いかに楽しく独創的に解決するかを目指しています。そのほかにも、CGによるモデリング処理や3Dプリンター出力など、アウトプットに長けた職人タイプもいますし、小売業界で働いた経験があり、店頭販売の提案もあわせてできるメンバーもいます。

博報堂プロダクツにはさまざまな事業本部があるため、仕事内容に応じて他事業本部のメンバーとタッグを組むこともあります。ビジュアルを作る必要があるときはフォトグラファーに依頼しますし、親子をテーマにした企画であればママクリエイターの社内ユニットと一緒に企画デザインをするなど、多岐にわたる要望に応えられる体制を会社としても整えています。

内田 また最近はありがたいことに、日用品、飲料、スポーツ用品など、本当にさまざまな仕事をいただきます。毎回経験したことのないアイテムを作ることになるため、競合他社も含めたそのジャンルの調査も欠かせません。さまざまな領域に関わることが大変でもあり、とてもおもしろい部分ですね。過去には横綱の化粧まわしや浴衣もデザインしました。モノであれば基本的に何でも作ります。

橋本 プロダクトデザインチームのメインはフィジカルなモノづくりですが、デジタルサービスのような新しいソリューションを生むことも私たちのミッションなので、NFTなどにも挑戦しています。

3Dプリンターによるプロトタイプを使った提案が「伝わりやすさ」と「安心感」に

――具体的にどういったフローで業務を進めていくのでしょうか。

橋本 まずはクライアントとの打ち合わせで、なぜプロダクトデザインが必要なのか、そのプロダクトに何を求めるのかといった部分をしっかりヒアリングします。プロデューサーや営業と一緒に行うこともありますが、最近では直接お仕事をさせていただく案件も増えています。その後、ラフのデザインを作ってご提示し、そこから絞り込んでいく流れです。提案時には3Dプリンターでプロトタイプを出力したり、立体ツールを使ったりして、なるべく具体的に想像してもらえるように工夫しています。

なぜ3Dプリンターで作ったプロトタイプを活用するようになったのかと言うと、きっかけは容器やボトルのデザインに携わる機会が増えたことです。

内田 これからそうした案件を増やしていきたいと考えていたタイミングだったことと、自分たちの造形の勉強も兼ね、プロトタイプを作り始めました。立体サンプルは制作に手間はかかりますが、モノがあることで伝わりやすさがまったく変わります。カタチのデザインは、絵ではわからない手触りや感覚がとても大事なんです。

橋本 ユニークなカタチを言葉や絵のみでご提案すると「ちゃんと手で持てるのか」「安全安心なデザインになっているのか」など不安に感じることもあると思うのですが、実際にサンプルに触ることができれば安心していただけますし、アイスブレイクにもなっています。

内田 これらのプロトタイプは、少し痛そうに見えるデザインでも、実物を持ってみると意外と手にフィットするなど、チームにとっても発見がありました。触ってみた感覚や影の出方、カタチの美しさは、立体サンプルがあることでわかりやすさが増し、コミュニケーションもしやすくなるんです。

これらのプロトタイプは立体と平面でそれぞれ50個、合計100個が1年かけて制作された。
これらのプロトタイプは立体と平面でそれぞれ50個、合計100個が1年かけて制作された。

――社内のプロジェクトでも、プロダクトデザインチームがモノづくりを行うことはありますか?

内田 はい、インナーブランディングの施策で僕らがカタチをつくることも多いです。たとえば、年に一度社内アワードを発表するのですが、2024年にはそのグランプリチームに渡すトロフィーを制作しました。コロナ禍を経て久々にリアルで授賞式を行うこともあり、それを盛り上げるアイテムとして、また受け継いでいけるものとして、功績を象徴するトロフィーを作ってほしいという依頼でした。そこで、「事業力の結集」という会社の方針からコンセプトは「輝く結集力」に決定。そのうえで複数案のなかからもっともオススメしたい案のサンプルを3Dプリンターで作成し、塗装をして提案しました。

提案時のスケッチ
提案時のスケッチ

よく見るとトロフィーには、プロダクツの頭文字であるPが事業本部の数だけ(トロフィー制作時)集結しており、またそのPにはそれぞれpeopleやpowerなどPで始まる言葉の意味付けをしています。社員1人ひとりの力と各事業力が結集し、光り輝くイメージを形にしました。

土台は真鍮、上の部分は樹脂素材に蒸着メッキの仕様で、お付き合いのある加工業者さんにクオリティの高いものに仕上げていただきました。同時にロゴマークや表彰状の盾、記念品のパッケージやキービジュアルなど、周辺の制作物も担当。社内からたくさんの反響をもらいました。

意識しているのは「カタチからコンセプトが連想できるか」 フィジカルが持つパワーとは 

――デジタルプロダクトがあふれる現代で、フィジカルの魅力や可能性はどういった部分にあると思いますか?またモノづくりで意識していることについてもお聞かせください。

橋本 「物欲」と「愛着」が湧くことだと思っています。ウェブサイトのデザインなどもプロダクトと呼ばれますが、使いやすさや機能面が重視されることが多い印象です。そのため「デザインが気に入ったからという理由でそのサイトを愛用する」ことはあまり多くないのではないでしょうか。リアルなプロダクトは、手で触れて持ち歩くことで思い出や愛着につながりますし、友だちや家族など第三者に受け継ぐこともできる。そういった部分に、私はとても惹かれています。

内田 リアルでなければ感じられない魅力が確実にあると思います。デジタルはまだまだ視覚に頼る部分が大きいですが、匂いや触った感覚、たとえば食べ物であれば味など、フィジカルには視覚以外のすべての感覚で伝える力があります。時間による変化もフィジカルならではですよね。錆びたり汚れたりもしますが、磨き直したら新品とは違う良さがでてきたり……。そういうところも大好きなので、僕はフィジカルなデザインの道でキャリアを重ねていきたいと思っています。

橋本 また実際に制作を進める際に意識しているのは、プロダクトの存在を通してクライアントのメッセージがきちんと伝わるかという部分です。とくに重要なのが「コンセプト」。カタチをデザインする前に必ず造形のコンセプトを決めますが、そこにクライアントの特徴や魅力が反映されていないと、カタチもどんどん平凡になっていきます。たとえば化粧品であれば、その製品特有の成分がヒントになることもありますし、ブランドの歴史から紐解くこともあります。答えはそれぞれ違うのですが、しっかりと説明ができるコンセプトを作っていくことが重要だと思います。

内田 案件全体のコンセプトはプロジェクトに関わる全員で進めていくものですが、専門領域である「カタチ」に対してコンセプトをつくり表現するのは僕たちの役割。カタチを見せたときにコンセプトがきちんと伝わるものになっているか。それが、良い企画やプロダクトになっているかを判断するひとつの基準になっています。

――最後に、チームとして、また個人としてこれからチャレンジしていきたいことをお聞かせください。

橋本 やってみたい仕事はまだまだたくさんあります。まだ世の中に広まってはいないものの、良いモノづくりをしている方々が全国にたくさんいらっしゃるので、商品開発から関わり、ヒットさせるような取り組みにも関わっていきたいです。また個人的には、容器やパッケージのデザインだけでなく、中身のデザインにも興味があります。お菓子のパッケージと中身のお菓子のカタチを一緒にデザインするようなことも、ぜひ取り組んでみたいですね。

内田 博報堂グループが掲げる「生活者発想」を僕も大切にしていますし、色覚特性の当事者という立場も生かし、障がいのある方をはじめさまざまな属性の方に合わせたクリエイティブや企画づくりを行っていきたいです。そこから今までなかった発想や新たなカタチも生まれてくるのではないでしょうか。また個人としては、カタチだけでなく「色」の世界にも挑戦していきたい。自身の「特性」と「強み」をかけ合わせて、あらたな価値を生み出していけたらと思っています。

プロダクトデザインチームの作品や制作ストーリーを下記よりご覧いただけます。