ライフツールの役割を果たすために 国内ユーザー数8,800万人超のLINEが目指す、BXデザインとは

ライフツールの役割を果たすために 国内ユーザー数8,800万人超のLINEが目指す、BXデザインとは
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2021/06/15 11:00

 Googleで検索することを「ググる」と言うように、企業名が動詞化されることはさまざまな企業が目指すところのひとつかもしれない。それをなし得ている企業がLINEだろう。そんなLINEが長年総力をあげて注力している分野のひとつ、「BX(ブランドエクスペリエンス)デザイン」。これほどまでに生活に密着しているブランドの体験づくりは、なにを意識しながら行っているのだろうか。そして、LINEでBXデザインに携わることの醍醐味とは。2017年よりBXデザイナーとして活躍する山中夏恵さんに話を聞いた。

「一気通貫でブランドに関わりたい」 長年在籍した会社を離れBXデザイン室へ

 2011年にサービスを開始し、現在は国内だけでも8,800万人のユーザー数を誇るコミュニケーションアプリ「LINE」。「LINEする」という動詞が、日本で暮らす人たちの日常に馴染んで久しい。コミュニケーションアプリからスタートし、「LINEマンガ」「LINE MUSIC」「LINE NEWS」などさまざまなファミリーサービスを展開している。

 そんなLINEのデザイン横断組織「LINE CREATIVE CENTER」には、現在100名ほどのメンバーが所属している。Product Design1室、Product Design2室、BXデザイン室、映像デザイン室、スペースデザインチーム、クリエイティブコミュニケーションチーム、クリエイティブ戦略チームと7つの組織に分かれており、サービスやマーケティングに関連するUIデザイン、ブランディングデザイン、ブランディングムービー、自社のオフィスデザインに至るまで、あらゆる制作物を内製していることが大きな特徴だ。

LINE CREATIVE CENTER公式SNSでは、デザイナーたちのさまざまな活動や考え、デザイン視点で見たサービスについての情報などを随時更新しています。

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 BXデザイン室では、サービスロゴとガイドライン制作、ポスターやパンフレットなどの印刷物デザイン、ノベルティ制作やイベントブランディングにいたるまで、オフラインの制作物はすべて担当しており、LINEにおける各サービスのブランディングを一手に担う。室全体では18名のBXデザイナーが所属しており、3つのチームに分かれている。

 今でこそBXという言葉を耳にする機会も増えたが、LINEにおけるBXデザイン室の歴史は、前身となる会社でデザイン組織が設立された2008年に始まっている。当時デザイン組織にあったのは、UIデザインとBXデザインのふたつのチームであった。

 ブランドがもたらす体験やその設計をデザインするBXデザイン専門チームという意味で言えば、2004年時点で韓国のNAVERに存在しており、現在と変わらず呼び名は「BXデザイン」であった。このことからも、日本や韓国でまだ浸透しきってはいなかった「ビジネスやマーケティングにおけるブランド価値を重視したデザイン」を重視する文化があったことが見てとれるだろう。

 そんなLINEデザイン組織の源流とも言えるBXデザイン室に、2017年のLINE入社と同時に加わったのが山中夏恵さんだ。美術系の大学を卒業後入社した大手広告代理店のグループ会社には、デザイナーとして約12年在籍。さまざまな会社の商品やキャンペーンの企画を行うなかで、サービスやブランドに関わるおもしろさを知っていった。当時は分業された仕事の依頼が多かったが、商品やサービスのブランディングに最初から最後まで携わりたいとの思いからLINEへの転職を決めた。

LINE株式会社 BX室ブランドデザイン2チーム マネージャー 山中夏恵さん
LINE株式会社 BX室ブランドデザイン2チーム マネージャー 山中夏恵さん

 長い歳月を過ごした前職を離れ、新たな環境へと飛び込んだ山中さん。最初に違いを感じたのはコミュニケーションのとりかただ。100名ほどの会社から数千人規模の組織へ。関わるメンバーが格段に増えたことも理由のひとつだろう。

「LINEで仕事を進めていると『それってつまりどういうこと?』と補足をお願いされることがありました。そのときに、無意識のうちに曖昧な表現や遠回しな言いかたといった日本的とも言えるコミュニケーションをとっていたことに気づいたんです。LINEは同僚やグループ会社に日本以外のグローバルなメンバーが多いこともあり、ストレートに話をするよう伝えかたを変えていきました。

また情報収集をする際の視点も変わりましたね。日本特有のトレンドだけではなく、GAFAをはじめとした一流企業がどういった取り組みを行っているのか、海外でどのようなサービスが話題になっているのかなどに目を向けるようになったのは、入社してからの変化のひとつです」

 また社内のメンバーが多いからこそ山中さんがデザイナーとして意識していることは、「自分もユーザーのひとりとして話を聞き、意見を伝えること」だと言う。

「デザイナーとしての意識を極端に高めすぎると、頭の中が固くなってしまう。そのためサービスや制作物と向き合うとき、まずはいちユーザーとしてどう思うかを考えるよう心がけています。ただ、もちろんそれをデザインへと落とし込む必要があるので『つまりこういうことですか?』と、グラフィックレコーディングのイメージで、自分なりの言葉や絵、図式を使って認識をそろえるようにしています。私たちができるのは、言葉や文字をどのように形にするか。その確認作業は頻繁に行っています」

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BXデザインで大切にしているのは「いちユーザーとしての視点」

 山中さんはBXデザイン室にあるチームのひとつでマネージャーもつとめている。BXデザイン室へやってきた依頼をほかのマネージャー2名と相談し、チームごとに割り振っていく。チーム全員がBXデザイナーだが、役割や担当サービスは固定化していない。「それぞれの個性や得意分野を把握しつつ、さまざまな仕事にチャレンジする機会を与え、可能性を広げていきたい」と考えているためだ。

 そんな山中さんのチームが担当した業務のなかで印象に残っているプロジェクトが、2020年9月にオンライン開催されたLINE Business Conference「LINE DAY 2020 ―Tomorrow's New Normal―」だ。イベントロゴやキービジュアル、デザインガイドラインやKeynoteデザイン、イベント会場デザインなどを韓国のBXチームとともに、山中さんをふくめ4人のBXデザイナーが担当した。

 毎年行われているLINEのカンファレンスでは、通常であれば半年前から準備を始めるが、コロナ禍の影響もあり今回の準備期間はわずか3ヵ月程度。LINEとしては初めてのオンラインカンファレンスでありながら、例年以上にスピードも求められる形となった。

「社内の映像デザインチームと協力し、キービジュアルを映像化するための議論にも加わったり、韓国のBXデザインチームと連携して制作を行うなど多くの人と関わりながら取り組んだプロジェクトでしたね。常に考えていたのは、どうしたらオンラインでもユーザーに楽しんでもらえるか。大変なことも多かったですが、とても貴重な経験でした」

LINE Business Conference「LINE DAY 2020 ―Tomorrow's New Normal―」で用いられたキービジュアル。
LINE Business Conference「LINE DAY 2020 ―Tomorrow's New Normal―」で用いられたキービジュアル。

 2019年にLINEは、ライフスタイルイノベーションによって24時間365日ユーザーの生活すべてをサポートするライフインフラを目指すことを宣言し、それを実現するべく掲げたビジョンは「Life on LINE」。人々の生活を支えるブランドだからこそ山中さんが常に大切にしているのは、社内のコミュニケーションと同様「いちユーザーの視点を忘れないこと」だ。

「ライフツールとして使ってほしいというビジョンがあるにも関わらず、そもそも私自身が理解できないサービスやブランドだったら好きになれませんよね。自分自身もふくめ、家族や友人に自信をもってオススメできるサービスであるか。これは常に頭に置くようにしています」

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ストーリーは「感じとってもらうもの」 LINEのブランドに携わる醍醐味とは

 コミュニケーションアプリ「LINE」の国内のユーザー数は8,800万人を超え、日本で暮らす人々にとってもっとも生活に馴染んでいるアプリのひとつであることは明白だ。これだけのユーザー数を誇るブランドを日本国内で探すことのほうが難しいかもしれない。それだけ日常に溶け込んでいるブランドであることが、LINEに携わる醍醐味でもあると山中さんは語る。

「LINEは入社前ももちろんずっと使っていましたし、周りでLINEのサービスを利用していない人のほうが少ないのではないでしょうか。ですがこれだけ多くのユーザーがいるからこそ、その反響やリアクションもダイレクトに返ってくる。良い意味で、とても緊張感をもって取り組むことができる環境だと感じています」

 生活に密接したブランドであるLINEだからこそ、コミュニケーションアプリだけではなく、LINEのサービスがあれば便利で豊かな生活を送ることができる状態を作ること。これが山中さんの今後の目標だ。

「そのために私たちBXデザインチームができることは、どういったブランドだと“良い”のかを考え続けること。それはつまり、LINEがユーザーにとって便利で親しみやすいものであることを伝えるための『ストーリーテラー』であることではないかと考えています」

 そのアウトプットにたどり着いたプロセス、いわばストーリーを非常に大切にしていると語る山中さん。その過程が納得できなければ一過性のデザインになってしまい、長く愛されるライフツールとしてブランドが機能しないと考えているためだ。ただ、単にブランドの前面にストーリーを押し出していけば良いというわけではない。

「ストーリーをユーザーにアピールするのではなく、『感じとってもらう』イメージに近いです。私が思う良いデザインとは、見た人がいろいろ想像できること。このデザインにはこんな思いがあるのではないか。私はこんなふうに受け取った――。それが意図と合っているか合っていないかは別にしたとしても、ユーザーが自由に感じとって想像できる余白があるものが、良いデザインなのではないでしょうか」

 最後に、どんなマインドをもった人がLINEのカルチャーや働きかたにフィットすると思うかという質問をぶつけてみた。すぐに返ってきた答えは「変化を楽しめる人」だ。

「LINEの魅力は、ユーザーの声を効果検証して次々にアップデートをしていくところ。そのため私たちBXデザイナーも、場合によってはロゴをリニューアルしたり、インターフェイスを一気に変えてみたり、かなり大胆な判断をすることも多いように思います。そんなときに、自分が作ったロゴだからという理由でそれに固執するのは少し違う。環境や状況の変化、新しい課題に対して前向きに楽しめる人だと、とても刺激的な会社なのではないでしょうか」

 根本のアイデンティティは変わらないけれど、人もブランドも時代や環境によって変化していくものであり、それに対応しながらブランドやサービスの姿を伝えていくこと。それこそがBXデザイナーの仕事だと山中さんは補足する。

 ユーザー数が国内で8,800万人を超えるブランドだからこそ、生活や人々の変化はひときわ大きな波動となって押し寄せてくるだろう。だがその波を受け止めながら乗りこなしていくことで得られるものの数も、ひときわたくさんあるに違いない。

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