「交通広告とTikTok広告には共通点がある」 TikTok部門新設の背景とは
2020年3月に電通が発表した「日本の広告費」において、インターネット広告費がテレビメディア広告費を上回ったというニュースがビジネスシーンで大きな話題を呼んだ。またコロナ禍になり、企業にはいっそうデジタルの活用が求められるようになった。だが一方、駅構内のポスターやデジタルサイネージにマンガやアイドルなどの人気コンテンツの広告が掲出されれば、ファンはリアルな場所まで足を運ぶ。デジタル化が進むほど、リアルな場でなにかを体験することに意義や魅力を感じている人も多いかもしれない。
そんなリアルな場所を主戦場とした広告のアワードがある。東京メトロの交通広告を活用して行う公募型広告賞「Metro Ad Creative Award」だ。総合広告会社であるメトロアドエージェンシーのメンバーがイギリスで開催されているコンペティションを現地で見た際、新しいアイディアが次々と生み出されている様子に感銘を受けたことがきっかけで生まれた。
今年で5回めを迎える本アワードでは、中づりポスターの作品を募集する「デザイン部門」、駅構内メディアを活用した作品を募集する「プランニング部門」に加え、今年度から「TikTok広告部門」が新設された。
“オフライン”をメインとした広告賞に、なぜ“モバイル”向けのショートムービープラットフォームであるTikTokの部門が生まれたのか。メトロアドエージェンシーで本アワード運営のメイン担当をつとめる富田さんは、その背景を次のように語った。
「スマホでなんでも完結する時代になり、TikTokのような縦長のコンテンツや交通広告で用いられる縦型サイネージも見慣れたものになってきました。私もTikTokを見ていたら知らない間に朝になっていたこともありました。そんなふうに、スマホで自分の世界に没入できるTikTokさんと、リアルな場でのふとした出会いを体験できる交通広告を組み合わせることで、さらにおもしろい広告づくりや広告の価値向上につなげることができるのではないか――。両メディアの良さを生かしたアイディアを求めたいという思いで、TikTokさんに協力をお願いしたんです」(富田さん)
TikTok For Business Japanで本アワードの審査員もつとめる鈴木さんは、最初に打診を受けたとき、交通広告とTikTokに共通点があると感じた。
「街なかでの偶然の出会いを大切にしているのが交通広告だと捉えていますが、TikTokも、UXのなかで生まれたコンテンツとユーザーさんとの偶然の出会いを楽しんでいただけるプラットフォームだと思っています。
また、検索で具体的に見たいものを探すよりは、オープンなマインドで自分のウィンドウに飛び込んでくるものを楽しむ点もTikTokの強み。お話を伺ったときに、そういった部分も交通広告と近しいのではないかと感じました」(鈴木さん)
続けて鈴木さんが触れたのは、双方の媒体が縦型形式であるという類似点。モバイル上ではTikTok、オフラインで言えば交通広告で活用されるデジタルサイネージが、縦型動画の代表格と言えるかもしれない。
「縦長動画は今後さらに普及し、需要も増えていくと思いますが、そこをあえてモバイルではない、リアルな媒体であるメトロアドエージェンシーさんと一緒に盛り上げていくことは非常におもしろいのではないかと感じています。
クリエイティブ面で言えば、偶然コンテンツに出会ったときに指を止めて動画を見てもらうのがTikTokですし、ふとその場に立ち止まったり、目を留めてもらったりするのが交通広告。一瞬でコンテンツに引き込んでいく点は、クリエイティブのフォーマットとしても同じノウハウを使える部分もあるはずです。
だからこそアワードに協力させていただくことで、お互いにとって新しいクリエイティブのフロンティアを広げるきっかけになればと考えました」(鈴木さん)
TikTokの強みを広告で生かすために
グローバルでの月間アクティブユーザー数が10億人を超えたTikTokには、プラットフォームとして大きくふたつの特徴があると言う。「オープンマインド」と、「縦型のフルスクリーンで音声がオンになっている」点だ。
「TikTokでは、自分の興味にあったものだけでなく、さまざまなコンテンツがレコメンドされます。つまり、次はどんな投稿がくるのかなとユーザーが心を開いているところに、ほかのコンテンツと同じ形で広告が飛び込んでくる。だからこそ、広告に対して嫌悪感を抱かず、おもしろいと思っていただけているのではないでしょうか。
また、スマホを横にしなくても縦のまま楽しむことができたり、音声をオンにして見ることが可能といったモバイルならではの特性を生かした体験ができる点も、TikTokの大きな特徴だと考えています」(鈴木さん)
そんなTikTokそのものの強みをTikTok広告で生かす際のポイントとして「既存メディアとの親和性の高さ」を挙げた。
新しいメディアを活用するとき、そのメディアならではのルールや方法を踏襲しなければユーザーから受け入れられづらいという考えもあるが、TikTokはそうではない。TikTokが独自に行っている調査によれば、テレビCMなどトラディッショナルなメディアで流れている広告をそのままTikTokで投稿した場合でも、ほかのメディアに比べてポジティブな印象を持つユーザーの割合が高いと言う。
「だからこそ、交通広告をはじめとしたほかのメディアなどで使用する広告素材であっても、TikTok上で機能するのではないかと思います。テレビCMやウェブ動画広告といった既存のアセットをTikTokで活用することもアプローチ方法のひとつです」(鈴木さん)
アワード作品制作のポイントとTikTok部門ならではの勘所
では、実際にMetro Ad Creative Awardへ応募する際、どういった点に留意し、交通広告のデザインや企画を行っていけばいいのだろうか。富田さんとともにMetro Ad Creative Awardの運営を担当する秋葉さんは、全部門に共通するポイントとして、各媒体の特性を生かすこと、リアルなメディアであるからこそできる体験を想像すること、自身がワクワクすることを取り入れることの3点を挙げた。
「交通広告全体として公共空間を生かしブランドの価値を守ることができる点が特徴ですが、各メディアごとの特性もあります。たとえば中づり広告であれば電車内で文字をゆっくり読んでもらうことに特化していたり、デジタルサイネージであれば目を留めてもらうことにフォーカスしていたり……。それぞれの特徴をふまえたアイディアを考えていただければと思っています」(秋葉さん)
一方、TikTok広告の制作時に心がける点について鈴木さんに尋ねると、「交通広告との共通点を考えてほしい」としたうえでふたつの答えが返ってきた。
ひとつめは、媒体に対しコンテンツが大きく表示される点を意識することだ。スマホで画面いっぱいに表示される点が特徴のTikTokだが、TikTok広告部門で想定されているデジタルサイネージも、その全面をフルに活用した企画づくりが求められる。1メートルほどの至近距離でコンテンツを見ることもあれば、人混みの間から少しだけ見えることもある。だからこそシズル感と言われるような、映像として引き込んでいく工夫も不可欠である。
ふたつめのカギとなるのは「アイキャッチ」だ。
「TikTokであれば冒頭の数秒でターゲットを惹きつけることもポイントのひとつです。ただ交通広告の場合、視聴者が必ず冒頭からコンテンツを見るわけではないので、どの秒数やどこのカットから見ても興味を持ってもらえるアイキャッチが重要。アテンションがテンポ良く続くクリエイティブを企画することが求められるでしょう」(鈴木さん)
ここでTikTok広告制作のポイントとして挙げられた2点は、必ずしもTikTokにのみ有効な方法ではない。それだけ畳み掛けるアテンションをつかめる広告であれば、リアルを起点としたさまざまなコミュニケーション手法として機能するだろう。
では、人々の指や足、目を留めさせるために重要なアテンションは、交通広告やTikTok広告上でどのように作り出せば良いのか。あらゆる表現やアイディアにも共通したポイントは「テロップ」だ。
「テロップを入れることでコンテンツがよりキャッチーになり、見る人のアテンションをつかむものになっていきますし、これは交通広告でも非常に大切だと感じています。音がない環境で、コンテンツの中身を補足する役割も持つテロップを上手に活用することが、制作時のひとつのカギとなるはずです」(鈴木さん)
「まずは広告を見るところから」「新しい方程式を探してほしい」 応募者へメッセージ
最後に、Metro Ad Creative Awardへのチャレンジを検討している人に向け、3名よりそれぞれメッセージをもらった。
「交通広告もTikTokも、生活の身近にあるメディアです。TikTokはまずインストールしてコンテンツを見てみるところから始めていただくのが良いかと思いますし、交通広告であれば、電車に乗っているときに少しスマホから目をあげ、中づり広告や普段利用している駅空間に目を向けてみるのが良いのではないでしょうか。
週に一度変わっていくのが交通広告。11月以降はクリスマスに向けた広告も増えていくので、その変化を感じることから始めていただければ嬉しいです」(富田さん)
「いつも使う電車のなか、駅空間、スマホの画面のなかなど、これがあったらおもしろいのではないかと思うものを自由な発想で考えていただければと思います。
また今年度からMetro Ad Creative AwardのTwitterアカウントを開設し、アイディアのヒントとなる情報も発信しています。ぜひそちらのアカウントも参考にしてみてください」(秋葉さん)
「前職で広告代理店に在籍していた当時も、縦型動画の難しさを感じていました。横型の動画と違って画面を横に使えないので、画面の広がりを奥行きでしか作れない。そうなると、人物のアップの連続や食べ物のクローズアップなどになりがちです。それもひとつの方法でありますが、それ以外の縦型動画の演出手法における答えは見つかっていないように感じています。
今回のアワードを通じて『縦型動画の新しい方程式とはなにか』という問いにチャレンジしていただくのもおもしろいのではないでしょうか」(鈴木さん)
仕事では、成果があがることもあればそうでないケースもある。だがどんな結果であれ、それが自身の成果と直接結びつくわけではない。自分ひとりではなく、さまざまな人たちがそれぞれのスキルを持ち合い、目的に向かって業務を進めるからだ。
だが、アワードはそうではない。自身の実力が、まっすぐに結果へと反映されるのだ。
失うものはない。自身の実力を試す場として、Metro Ad Creative Awardを活用してみてはいかがだろうか。
Metro Ad Creative Award 2021 開催・応募概要
- 2021年10月6日(水)~2021年12月24日(金)13時
- 募集作品:東京メトロ媒体を活用した各企業の特別課題に応えるアイディア
- 応募⽅法:アワード特設サイトより応募。応募・詳細はこちら。
- 応募資格:年齢・性別・国籍不問/社会人、学生不問/グループ可