プロセスの初期に行った、経営層とデザイナーのディスカッション
LINEヤフーが掲げるのは、「『WOW』なライフプラットフォームを創り、日常に『!』を届ける」こと。「WOW」はLINEが、「!」はヤフーがそれぞれ大切にしてきたコアだ。WOWは「初めての体験であり、他の人に教えたくなるような感動」を指し、「!」は「想像を超える体験」を意味している。
そんなLINEヤフーの注目サービスが、2023年11月末にリリースされた「LYPプレミアム」だ。2003年7月にスタートしたYahoo!プレミアムのアップグレードとして新たなスタートを切った本サービスは、旧Yahoo!プレミアムで提供していた特典に加え、「LINE」アプリがさらに楽しく便利になる特典を利用できる月額制サービス。Yahoo!ショッピングの買い物でポイントアップ、1,200万種類以上の対象スタンプが使い放題となる「LINEスタンプ プレミアム」など、2024年2月末時点で20以上の特典が用意されている。
このプロジェクトが始動したのは、リリースのおよそ1年半前。その初期段階から関わっていたのが、2016年にヤフーに入社し、2019年からはメイン担当として旧Yahoo!プレミアムのUI/UXを担っていた傅 然(フ ラン)さんだ。
経営層が持っていたサービスの構想をもとに、傅さんがイメージを掴むためのモックアップを作成。経営陣とディスカッションをしながら、サービスや、それを通して提供したい体験の骨格を形づくっていった。
「LYPプレミアムの特典には、ユーザーの属性も異なるさまざまなサービスが関わっています。各サービスとLYPプレミアムをどのように結び付けていくのか、ユーザーに認知してもらうために何が必要なのかなど、全体の体験設計から考えていきました。そのあとに、各サービスの担当者と連携しながら、細かな画面設計や訴求の仕方などを最適化するという流れで進めました」(傅さん)
LYPプレミアムのコンセプトやアイデンティティ、LPのビジュアル、登録画面の動線などをメインに担ったのが鹿熊茉夕(カクマ マユ)さんのチームだ。
「私たちが加わった昨年5月ごろにはイメージも少しずつ固まっていたため、その『見せかた』の部分を中心に着手していきました。LINEとヤフー、それぞれのデザインスタイルを崩さないようにしながらも、LYPプレミアムというひとつのサービスだと伝えるためにはどのような表現が良いのか。密に話し合いを重ねました」(鹿熊さん)
“同じブランド”としての見えかたと体験を
「ユーザーテスト」の実施背景とは
LINEとヤフーは2023年10月からひとつの会社として歩み始めた一方、もともと抱えていたユーザーの属性やサービスの特徴は異なる。
これについて傅さんは、「どんな体験であれば同じブランドとして捉えてもらえるか。ブランドとしての一貫性を保ちながら、使いやすい体験を提供するためにはどうしたら良いか。その体験設計にはとくに時間を割きました」と振り返る。そんな体験づくりのために実施したのが、ユーザーテストだ。
前段階としてまずは、ビジュアルや構成について同社内で何度もテストを実施。さまざまなパターンを作成したのち、最終的に数案まで絞り込んだ。そして、本当にこれで正しいのかを確認する“答え合わせ”のような位置づけでユーザーテストを行った。
「少し抽象的でおしゃれな印象を与える案や、ファーストビューの全面を使うことにより、メインビジュアルとキャッチコピーを強調して見せるパターンなどいくつか見ていただいたのですが、『LINEやヤフーのロゴ、キャラクターがあったほうが親しみやすいし、それが安心感につながる」といった声も多かった。改めてブランドのロゴやキャラクターがユーザーに強い印象を与えていることを実感しました。『抽象的なビジュアルだと何だかよくわからない』『こちらのほうがスクロールしたくなった』など率直な意見を伺えたのは、とても参考になりました。本当に実施して良かったです」(鹿熊さん)
「ユーザーテストでは違和感があるところがないかどうかを何度も入念にチェックしました。それによって、想像はしていてもイメージを掴みきれていなかった部分がとてもクリアになりましたし、新しい発見もありました。私もワクワクしながら臨むことができましたね」(傅さん)
ビジュアル面で意識したのは、「認識していなくても、まずは興味を持ってもらうこと」だ。
「開発当時、LYPプレミアムというサービス名がまだあまり認知されていない状況だったため、それをどう認識してもらうか。たとえ把握できていなかったとしても、まずは興味を持ってもらい、LINEとヤフー、PayPayが協力して特典を出していることをいかに伝えるか。それが課題だと感じていました」(鹿熊さん)
一方、3つのサービスが同一ブランドのサービスとなることで、必然的にLYPプレミアムとして提供する特典の数も増える。その1つひとつに興味を持ってもらったり、ひとめで理解してもらったりするための工夫も欠かせなかった。
「ホーム画面では、LYPプレミアムのロゴを中心に、すでに皆さんが認識してくださっているLINEやヤフー、PayPayのロゴ、LINE FRIENDSのキャラクターである『ブラウン』などを配置しました。それにより『LYP』という名前は知らなかったとしても、『この3社が出しているサービスなのではないか』『それなら信頼できるのではないか』といった期待感を出せるようにしました(鹿熊さん)
それ以外の画面の構成においても、できるだけ「シンプル」にするべく、情報も絞り込んだ。
「テキストひとつとっても、どんな単語で伝えるのが良いのか、どのくらいの文字量が適切なのかなどを話し合いながらまとめていきました。いかにスクロールしてもらえるかも重要でしたし、ファーストビューにどの情報をどれだけ表示させるかなど、とてもこだわりましたね」(鹿熊さん)
良い部分を尊重しあい、プロダクトづくりは今まで以上にパワーアップ
ひとつのブランドとしてプロジェクトを進めるなかで、すでにシナジーも生まれているようだ。傅さんはその過程を次のように振り返る。
「本格的にビジュアルデザインに着手する前、当時のLINEとヤフーのデザイナーが韓国に赴き、韓国にあるLINEヤフーのグループ会社『LINE Plus』のデザイナーとともにディスカッションをする機会がありました。そのときに、両者の考えかたのすり合わせを行ったのですが、今まで考えたことがなかった視点から捉え直してみようと思ったきっかけにもなり、とても勉強になりました。
多くの人々の日常に不可欠なサービスを提供しているうえ、UXデザインを非常に重視していることはLINEとヤフーの大きな共通点だと思いますし、近い考えを持っていると感じる場面もたくさんありました。一方、考えかたやデザインプロセス、ステークホルダーなど異なる部分ももちろんありますが、そういった違いを1つひとつ学んでいくのは、とても刺激的でおもしろいです」(傅さん)
「1つひとつの要素に対して時間をかけてコツコツ取り組んでいく」ことがこれまでの企業カルチャーだと感じていた鹿熊さんは、プロジェクトの進めかたに、今までとの違いやその相乗効果を感じたと言う。
「実現したいことや問題解決に向けて答えを出したり、アウトプットをしたりするスピード感にとても刺激を受けました。プロジェクトの流れが良くなりましたね。お互いのスタイルや良い部分を尊重しあうことで、今まで以上にパワーアップしたプロダクトづくりができるようになったと実感しています」(鹿熊さん)
日本でも指折りのユーザー数を誇るからこそ、実感できる醍醐味
統合前からあわせると、同社での勤務期間は傅さんと鹿熊さんともに8年ほど。そんなふたりにLINEヤフーのデザイナーとして働くことの醍醐味を尋ねたところ、「多くのユーザーがいること」という答えが返ってきた。月間アクティブユーザー数はLINEアプリが9,600万人(※1)、 Yahoo! JAPANは約8,500万人(※2)。その数は、日本でも指折りだろう。
「たくさんの人に使っていただいているからこそ、ユーザーの声が私たちに届きやすいと感じます。SNSでユーザーが良いと思っている点はどこか、何に不満を感じているのかを拾うことができるのはとてもおもしろく、サービスのPDCAを回すうえでの効率も良いです。ユーザーの声をすぐにキャッチできる点は、大規模なサービスだからこその醍醐味だと思っています」(傅さん)
「多くの人の生活の一部になっており、役に立てているという実感が持てることは純粋に嬉しいです。ひとつの会社となったことで、LYPプレミアムをはじめ、多くのサービスに関わる機会がさらに増えた。デザイナーとして、新たなチャレンジができる環境もとてもありがたいですね」(鹿熊さん)
2023年11月に提供を開始したLYPプレミアム。すでにさらなる特典の追加や既存ユーザー向けの施策などの準備を進めているようだ。
「そういった取り組みを通じてさらにサービスを広げていき、使いやすいと感じてもらえるものにしたい」「さらにお得に、より良いサービスにしていくのでこれからも期待してほしい」とふたりは抱負を語り、同時に自信ものぞかせた。
2023年10月1日からひとつの会社として歩み始めたLINEヤフー。LYPプレミアムとしても企業としても、その旅路はまだ始まったばかりだ。
デザイナーたちはどのようにプロダクトやサービスに価値を込めていくのか。どんなバリューを提供していくのか――。同社だからこそ、その取り組みの成果は私たちの日常にも影響を与えるだろう。さらにパワーアップしたLINEヤフー、そしてLYPプレミアムから、今後も目が離せない。
- ※1:「LINE Business Guide -2023年10-2024年4月期」
- ※2:「ニールセンデジタルコンテンツ視聴率」(2023年1月~9月までのデータ)[Yahoo!JAPAN(ブランドレベル)で集計、2歳以上の男女。スマートフォンとパソコンのユーザーの重複を含まない。]※上3桁目の数値を四捨五入